その15
わたしには目の前の暗闇に無数の小さな光りが散りばめられた光景が、まるで宇宙の様に思えた。
『・・・うわぁ、綺麗・・・』
わたしが今いるのは【暗闇の深淵】と言う未踏破ダンジョンで、ここが今回の討伐遠征の目的地だ。
ここは城からはそれほど遠くなかったのでお昼前には到着したので、わたしは安全地帯と呼ばれている場所から部屋の中を覗いている所なのだ。
「それでは、この安全地帯での昼食後に討伐を開始す」
わたしは隊長が言い終える前に、大きな入り口から目の前の宇宙空間に弾む様な足取りで思わず飛び出してしまっていた。
「「「「「「「リーナっ!?」」」」」」」
『え?』
そして、わたしは飛び出した瞬間、透明なものに包まれて急浮上した。
わたしはニック達に初めて会った時に経験した結界っぽかったので、思わず振り返って下にいるだろうニック達を見たら、ニック達も隊長も副隊長も、皆んな驚愕の表情でこちらを見上げていたのだ。
『え?結界じゃないの?』
わたしはいったいどう言う事何だろうと思った瞬間、それは突然やって来た。
『くっっっさっ!?』
そして、その嗅ぎなれた臭いに、次の瞬間には自分が魔獣に食べられているのを理解したのだ。
『マジで臭いっ!って言うか、これまでで一番臭いんですけどっ!?』
わたしはパワーアップされた魔獣のえげつない超激臭に、速攻で目の前の透明な膜をぶち破ってしまったのはしょうがないと思う。
そして、何も考えずに魔獣のお腹から出たわたしはそのまま落下したのだけど、気づいた時には目の前には床があったのだ。
ベチャッ!
ゴンッ!
「「「「「「「・・・」」」」」」」
わたしは後頭部が何か固いもので殴られた気がしたけど、そんな事よりも前世は勿論今世でも嗅いだ事の無い超激臭に飛び起きて鼻を押さえた。
「・・・リーナ。こちらへ」
わたしが副隊長を見ると、そこには大きな泡立つ水球があったので、わたしは一目散に駆け寄ると頭陀袋を背負ったまま飛び込んだ。
そして、わたしは水球の中で頭陀袋を下ろし、騎士服と下着も脱いで、いつも通りに丸洗いして貰ったのだ。
『・・・いや〜、えらい目にあったよね〜』
わたしは副隊長のお陰でフローラルの香りを纏うモフモフのタヌキに戻れたので、今現在安全地帯でお昼ご飯の携帯食料をボリボリと齧っていた。
「やっぱり、ここにも魔獣っていたんだね!」
「だな〜。毎回、延々と行軍するだけだったのにな〜」
わたしも事前にこの【暗闇の深淵】と呼ばれてるダンジョンには低級・超低級魔獣は一切居ないと聞いていたし、前回のオリハルコンのダンジョンでは、わたしに釣られて出て来る魔獣は常に入り口とは遠い場所に居たので、まさか入った瞬間に襲われるとは思ってもなかったのだ。
「それも超高額魔獣だもんな!討伐しがいがあるよな!」
「でも、床から突然だぞ?毎回リーナは食われるんじゃね?」
「あー、そう考えると俺達もヤバいよなぁ。全身強化してるからって、あの臭いは勘弁だよなぁ」
『・・・あの半端ない超激臭が毎回・・・』
ニック達の会話を聞いて、わたしが遠い目になったのは言うまでもない。
そして、お昼ご飯を食べ終わったわたしは、討伐準備の為に仕方なく騎士服を脱ぐ事にした。
「リーナ、服は脱がなくても大丈夫です」
わたしは副隊長の言葉に手を止めて首を傾げた。
「何故なら、もうリーナが食べられる事はないからです。リーナの釣り竿を貸して下さい」
わたしは全く何でか分からなかったけど、頭陀袋から釣り竿を出して副隊長に渡した。
「閣下、迎撃準備をお願いします」
「?全員戦闘態勢に入れ!」
「「「「「はっ!」」」」」
わたしはダンジョンの大きな入り口を少し入った場所で副隊長以外が抜刀したので、これから何するんだろ?と本気で思った。
「リーナ、後ろを向いて下さい」
『?』
わたしは訳がわからなかったけど、副隊長に言われた通り後ろを向いた。
シュルッ!
そして、わたしが聞き慣れた糸の音がしたと思ったら腰のベルトに何かを掛けられた。
『え?』
わたしが振り向いて確認すると、ベルトには針が掛かっていた。
そして、物凄く良い笑顔の副隊長が一つ頷くと、わたしは釣り竿で持ち上げられて、そのまま隊長達の頭上を飛び越えダンジョンの部屋の中に投擲されたのだ。
『えーーーーーーーっ!?』
わたしが驚きながら物凄い勢いで飛ばされたのはダンジョンのかなり奥の方で、当然床の下にいるはずの魔獣が反応したのは言うまでもない。
『ギャーーーーーーーーーーッ!?』
わたしが着地の為に下を見ると、一斉に大きな口を開けて襲い来る魔獣の群れに食べられると思った瞬間、今度は物凄い勢いで引き戻された。
そして、わたしが魔獣の群れを引き連れてダンジョンの入り口まで戻ると、隊長とニック達が魔獣を討伐したのだ。
「ね?大丈夫だったでしょう?」
『・・・』
その後、わたしは【暗闇の深淵】のめちゃくちゃ広い第一層の床下にいる、大量の魚っぽい魔獣を全討伐し終えるまで、ひたすら副隊長の華麗な竿捌きに身を任せる事になったのだ。




