その1
「・・・アルシェリーナ・モンフルールっ!貴様との婚約は破棄だっ!」
わたしは貴族学園の卒業パーティーが開かれている学園の大講堂の真ん中で、公爵令嬢をエスコートしている婚約者の王太子にそう言われたので両腕でマルを作った。
「そしてっ!我が真実の愛であり次期王太子妃であるカロリーナに嫌がらせをした上に貴様の様な役立たずの性悪は国外追放だっ!」
わたしは役立たずなのは自覚しているけど嫌がらせには全く心当たりが無いので、両腕でバツを作った。
「なっ、何っ!?拒否だとっ!?貴様に拒否権などある訳ないだろうがっ!衛兵っ!こいつを今直ぐ連れて行けっ!」
わたしは国外追放を拒否した訳じゃなかったけど、駆け付けた衛兵達の一人に抱き上げられると問答無用で大講堂から連れ出され、粗末な馬車にそのまま乗せられた。
そして、馬車は物凄い勢いで走り出すと、三回野宿をしてから国境らしい場所へと到着した。
「・・・金色のくせに役立たずなんだから処刑されなかっただけ有り難く思うんだな」
「あぁ、これは我が国からの慈悲だ。国境の森から出て来たのが分かったら処刑だからな」
衛兵達はそれだけ言うと馬車の扉を開けてわたしを、背負うタイプの頭陀袋としか言いようのないダサいカバンと共に森の方へ放り投げた。
そして、頭陀袋と共に転がるわたしを見る事も無く馬車の扉は閉まり、走り去って行った。
『・・・』
わたしは森の中からブルド王国の広大な平原の空を巡回しているのだろう国境警備隊の鳥獣人を見上げると、側に転がっている頭陀袋を背負って森の奥へと歩き出した。
わたしはちょっと歩いてから立ち止まると、頭陀袋を下ろして中身を確認してみた。
すると、貴族学園で習った通りに色々な魔法が付与されてるはずの頭陀袋の中には、国外追放証・携帯食料一週間分・水筒と、国外追放刑の時に持たされる大陸の国際法で決められている『国からの慈悲』がきちんと入っていた。
『・・・そこはちゃんとしてるんだね〜』
そして、わたしは再び頭陀袋を背負うと、更に森の奥へと進んだ。
ガルルッ!
わたしが背後からした獣の唸り声に振り向くと、既に大きな犬の様な、たぶんこれが魔獣なのだろうものが大きな口を開けて顔目掛けて飛び掛って来た。
グアッ!?
そして、それは顔を庇う為に咄嗟に庇った腕ごとわたしの頭を口の中に入れて止まったので、わたしは直ぐ様上下に腕を伸ばして力任せに口を開かせた。
『臭っ!最悪っ!マジ臭いんだけどっ!?』
わたしはその魔獣のえげつない口臭に涙目になりながらも、暴れようとする犬っぽい魔獣の口を小さな両手で閉じると、そのままマズルを掴んで近くの木に向かってぶん投げた。
ギャインッ!
すると、犬っぽい魔獣は消えて小さな石がその場に落ちた。
『うわぁ!これが魔石か〜!』
わたしは犬っぽい魔獣の涎で自分が臭いのも忘れて駆け寄ると、透明な小石を拾い上げてしげしげと眺めた。
『・・・臭っ!』
わたしは小石からなのか自分からなのか分からないけど物凄く臭いので、ドレスのポケットに小石を入れると取り敢えず水場を探す事にした。
そして、辺りをキョロキョロしながら歩いていると大きな池らしきものを見つけたので、走って行くとそのまま池に入り、頭は勿論ドレスや頭陀袋も小石も水洗いした。
『・・・取り敢えず臭いは取れたみたいだけど、この先も洗えるか分からないよね〜?』
わたしは池から出てちょっと考えてから頭陀袋を下ろし、小石を頭陀袋に入れてからドレスと下着を脱ぐと、水を絞って振り回して乾かすと頭陀袋に入れた。
そして、わたしも体をブルブルッと何度か揺らして水を飛ばすと、頭陀袋を背負って再び暗い森の奥へと進んだ。
わたしがそれから何日も暗い森の中を歩き続けてると急に登り坂になったので、これが大陸を四つに分断する大連峰なのだろうと思い、そのまま登ってみた所、山頂に辿り着くと大連峰っぽい感じがしたので、獣人達の暮らすブルド王国側を少し眺めた後で反対側に下りる事にした。
だけどその前に、わたしはこの世界の事をちゃんと勉強させられたのでこの世界があるあるのファンタジーな世界観なのを知っているし、各国の文化や文明もそれなりに覚えていたので、地面をせっせと深く掘り、頭陀袋に入っている国外追放証と普通の水筒とドレスに下着を手で粉砕してから山頂に埋めた。
『今日からわたしはただの普通のタヌキよ!』
そして、そのまままた何日かかけて山を下り深い森を突っ切った早朝に、ブルド王国とは全く違った空気の匂いがする大草原に出たのだ。




