その9
「リーナーーーーーーーーっ!!!」
『え?何?』
わたしが巨大な一本角が生えた熊の様な魔獣の口をこじ開けて外を見ると、ちょっと遠くでニックが悲壮な顔をしていた。
「お前な〜。いいかげん慣れろよ」
「だ、だって、今度こそリーナが食われたかもって!」
「例え食われたとしても、リーナなら腹ん中ぶち破って出て来るって」
「そうそう!これまで以上に臭いだろうけどね!」
わたしは必死に口を閉じようと藻掻いてる巨大な熊っぽい魔獣の牙を掴むと飛び出し、スタンバイしてる少し離れた騎士達の方にぶん投げた。
そして、ぶん投げた魔獣の他にも釣られて出て来た魔獣も騎士達が次々と討伐し始めたので、わたしは副隊長の方に駆け寄って、既に出来上がっている泡立つ水球に飛び込んだ。
ちなみに、騎士服は二回目からは魔獣の討伐に入る前に脱いで頭陀袋に入れてあり、頭陀袋は副隊長が持ってくれてる。
わたしはすっかり臭いが取れて乾いたけど、今日も若干ゴワゴワしてる自分の毛並みにちょっと不満だった。
「・・・リーナ。今度からは経費で高級石鹸を買っておくので、今回は我慢して下さい」
わたしは副隊長の言葉にぱあっと顔を輝かせると大きく頷いた。
『やったね!今度からはずっとフワフワでフローラルの香りのタヌキになれるんだ!』
何でも、最初の頃に使っていた高級な良い香りの石鹸は副隊長の私物だったらしい。
だけど、その後も一階層毎に丸洗いは続いたので高級石鹸の在庫は直ぐに無くなり、今現在は騎士団の備品である無香料の安い石鹸で丸洗いされているのだ。
わたしは騎士服を着ると、この部屋の壁にいた最後の熊っぽい魔獣を討伐して魔石を回収した隊長達と合流した。
「それでは、これより最終階層へと向かう。出発!」
騎士達は右腕を胸の前に当て敬礼したので一応わたしも頑張って真似してるのだけど、毎回隊長の顔が何とも言えない表情になるのは何でなんだろうと不思議だった。
そして、向かった最終階層はだだっ広い石壁と石床の部屋だったけど、これまで絶対にいた大量のGっぽい魔獣は全くいなくて、天井は今迄で一番高い部屋の真ん中に虹色に輝く大きな石が生える様に鎮座していた。
『これがオリハルコンなんだ〜!ファンタジーだね〜!』
わたしはキラキラと輝くオリハルコンの周りを回りながら観察していると、物凄く違和感を感じて上を見た。
『・・・いるね〜。それもこれはかなり大物だ!』
わたしは立ち止まり、隊長の方を見ながらこれまでで一番大きな魔獣のいる天井を指差した。
「魔獣がいるのか?」
「えっ?ここにも魔獣っていたんだ!?うわぁ!何の魔獣なんだろ!?最終階層だし、絶対超高額魔獣だよねっ!」
「でも天井か〜。天井はな〜。超級なのに安いのもいるんだよな〜」
「でも、もしかしたらマジで見た事も無い超高額魔獣かも知れないぞ?」
「それに天井だからってあいつらが絶対にいる訳でもないんじゃね?ここでは見た事無かったよな?」
「お前ら!フラグを立てるなっ!」
そして、オリハルコンは少し時間は掛かるけど何度でも生えてくるらしく、副隊長が綺麗さっぱり魔法で切り取ると、天井にいる未だにこの部屋では見た事が無い未確認の魔獣の討伐をする事になったのだ。
「リーナ。準備は良いか?」
わたしは大きく頷いた。
「飛べ!」
わたしは戦闘態勢に入ってる騎士達に囲まれながら、隊長の号令で天井迄ジャンプした。
ちなみに、今回も騎士服と下着は既に脱いでいて、頭陀袋は最終階層の未確認魔獣と言う事で全員が戦闘態勢なので、副隊長のマジックバッグであるベルトポーチに入れて貰ってる。
『ん?』
わたしが天井まで後十メートルと言う所で、それは飛び出して来たけど全然大きくはなかった。
そして、わたしの顔にペタッと貼り付いたのだ。
『ギャーーーーーーーーーッ!!!!!!』
わたしは絶叫しながら顔に貼り付いた何かを慌てて引き剥がすと、それは大きな大きな蜘蛛っぽい魔獣だった。
『キモッ!クサッ!無理っ!』
わたしは前世の薄っすら記憶にある、タランチュラの様な風貌にめちゃくちゃ鋭い牙と大きな鎌みたいな爪がある魔獣を瞬時に地上に向かって勢い良く投げ落とした。
そして、その勢いのまま天井に到達した瞬間、凄まじい数のタランチュラっぽい魔獣が雪崩の様に落ちて来たのだ。
『ギャーーーーーーーーーーッ!!!!!!』
わたしが本日二度目のタヌキの大絶叫をすると、ロゼルナイト辺境伯領領地騎士団とタランチュラっぽい魔獣の戦闘が始まったのだ。




