9話
終わらない荷運び労働の最中。地下4階の広場で、私は信じられない人物の姿を目にして凍りついた。
スラム化した浅い階層には到底似合わない、上質で洗練された装備を身に纏った若い男。 彼は周囲の探索者たちに声をかけ、あの『奇跡の回復魔術師』を血眼になって探していた。 間違いない。彼こそが、私が先日うっかり助けてしまった『腹を抉られていた男』――実は、新首都ネオ東京の設立に関わる再生政府組織の若き要人だったのだ。
「(やばいやばいやばい! なんであんなエリートが、自らこんな浅い階層まで探しに来てんだよ!)」
私は荷車の陰に隠れ、息を殺した。 もし私が『あの時の女』だとバレたらどうなるか。政府に監禁されて一生タダ働きさせられるかもしれないし、何より**『見ず知らずの男にパンツを見せつけた女』**として社会的に死ぬ。それだけは絶対に避けなければならなかった。
「そこの君。この辺りで、神々しい光を放つ少女を見なかったか?」 「ひぃっ!?」
隠れようとした背中に声をかけられ、私の心臓は口から飛び出そうになった。 「し、ししし知りません! 私はただの通りすがりの底辺荷運びですからっ!」 私は顔を深く伏せ、荷車を引いて猛烈な勢いでその場から逃げ出そうとした。
幸いなことに、男は私が『あの時の恩人』だとは全く気づいていないようだった。無理もない。あの時は、私のショーツが放つ眩しすぎる光(中回復の輝き)のせいで、彼らは私の顔を直視できていなかったのだ。
「(よかった……! これで身バレの危機は去った! さっさとズラかろう!)」
安堵の息を吐き、そのまま駆け去ろうとした私の背中に、男の驚愕の声が響いた。
「……待て。君、今その凄まじい重量の荷車を……無詠唱の『魔力循環』を使って運んでいるのか?」 「(あっ)」
しまった。焦って逃げようとするあまり、無意識のうちに脚部に奥義をフル稼働させてしまっていた。 ただの初心者探索者(レベル3以下)が、熟練の中堅探索者でも難しいとされる高度な魔力操作を息をするように行っている。その圧倒的な異常性に、政府のエリートである彼が気づかないはずがなかった。
「君、ただの初心者じゃないな……? その見事な魔力操作、ぜひ俺のパーティーの護衛に入ってくれないか!」 「は!? いや、私はただの荷運びで……」 「頼む! この通りだ! 今、俺の部隊は深刻な人手不足で困っているんだ。君ほどの魔力操作ができるなら、今すぐ地下10階の『新首都』への特別通行許可も出せる!」
「(……地下10階の、新首都?)」 その言葉に、私はピクリと反応した。 初心者探索者である私が普段行けるのは、地下5階まで。しかし最近、噂に聞く地下10階の「モノリス」を中心とした大発展や、私がゲーム内でポチった新商品が現実でどうなっているのか、少し気になっていたのは事実だ。
「(回復魔術のことがバレてないなら……まあ、過酷すぎるブラック荷運び労働から抜け出せるし、悪くない話か……?)」
私は軽く咳払いをして、もったいぶって頷いた。 「……そこまで仰るなら、護衛の件、お受けいたします」
『回復魔術師』としての正体こそバレなかったものの、思わぬところから目をつけられてしまった私。 こうして私は、政府要人の護衛という名目で、かつて5歳の時に訪れたきりとなっていた『地下10階の街』へ足を踏み入れる権利を手に入れたのである。
AIと一緒に作りました。




