10話(最終話)
巨大な防壁の門をくぐり、ついに私は『地下10階』へと足を踏み入れた。 要人の護衛として入った新首都ネオ東京は、想像を絶するほどの活気と繁栄に満ちていた。これが本当にダンジョンの中なのかと目を疑うような光景。
しかし、私がその景色に驚嘆できたのは、ほんの一瞬のことだった。
『――ピーーーン!!』
突然、私の脳内に直接、鼓膜を破るような甲高い電子音が鳴り響いた。 痛みに頭を抱える私。だが、周囲の探索者や要人は何も聞こえていない様子だ。私にだけ聞こえる音。そして、街の中心部から強烈な力で「引っ張られる」ような、謎の引力と衝動。
「……呼ばれ、てる……?」
私は、同行していた要人を置き去りにして、無我夢中で街の中を駆け出した。 何が何だか分からなかった。ただ、身体が勝手にそちらへ向かっている。人混みを掻き分け、スラムで鍛えた『魔力循環』の脚力で裏路地を飛び越え、一直線に街のへそ――中央広場へとたどり着いた。
広場の中央には、国宝として厳重な警備が敷かれた巨大な黒い石板――『モノリス』が鎮座していた。
警備の兵士たちが制止する声も耳に入らなかった。 私はふらふらと祭壇に近づき、まるで吸い寄せられるように、その冷たい黒石の表面にそっと手を触れた。
その瞬間だった。 私の目の前に、あの見慣れた『半透明のゲームディスプレイ』がパッと開いた。 現在地、ログイン、そして『魔力ポイント』の残高。全てのデータが、目の前のモノリスと完全にリンクしている。
「あ……。これ、私の……」
5歳の頃、ピクニックの時に私がなんとなく発動して放置したスキル。 人類の希望であり、世界の経済をひっくり返した救世主。 その正体は、私がずっとクソゲーだと文句を言いながらポチポチと押していた、私のユニークスキル『自販機』そのものだったのだ。
『――マスターの直接認証を確認。最終アップデートを開始します――』
真の主と接触したモノリスが、突如として不気味なほどの『赤い光』を放ち始めた。 地面が地鳴りを立てて揺れ始める。セーフティーエリア全域を覆っていた結界が激しく明滅し、ネオ東京にいる全ての人間が「何かが起きる」という未知の事態を予感して息を呑んだ。
だが――その奇跡(あるいは真の覚醒)の瞬間は、あまりにも無慈悲な形で断ち切られた。
「貴様ぁっ! 国宝のモノリス様に何をしたぁぁっ!!」
ザシュッ、という鈍い音が響いた。
「え……?」
遅れて、背中から胸を貫くような熱さと激痛が走った。 警備を担当していた高レベルの探索者が、謎の赤い発光を「国宝に対する破壊工作」だと判断し、私を背後から大剣で容赦無く切り裂いたのだ。
「あ、ぁ……」 口から大量の血を吐き、私はモノリスの前に崩れ落ちた。 視界が急速に黒く染まっていく。痛い。苦しい。なんで私が、こんな目に。
そして、私の意識が完全に途絶え、絶命した――その直後だった。
『――マスターの生命反応消失。スキルの強制解除を実行します――』
ピキッ、と。 世界を支えていた巨大なモノリスに亀裂が入り、次の瞬間、ガラス細工のように粉々に砕け散った。
「な……モノリス様が、崩壊した……!?」 「おい、嘘だろ!? 結界が……セーフティーエリアが消えていくぞ!!」
警備兵たちが絶望の悲鳴を上げる。 街をドーム状に覆っていた透明な結界が、光の粒子となって完全に消滅した。 それはつまり、この地下10階に巣食う凶悪な魔物たちに対する、唯一の防壁が失われたことを意味していた。
『グルルルゥゥ……!!』
結界の外で涎を垂らして待っていた魔物の大群が、壁の消えた新首都へと一斉になだれ込んでくる。 一人の少女の理不尽な死によって。 人類最後の希望であった街は、一瞬にして、二度と夜明けの来ない地獄の底へと沈んだのであった。
(終)
AIと一緒に作りました。




