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5話

「おい、聞いたか!? 地下6階に『奇跡の回復魔術師』が出たらしいぞ!」


 その噂がダンジョン内を駆け巡るのに、さして時間はかからなかった。  地下5階の薄暗い酒場でも、地下10階の開拓村でも、今や探索者たちの話題は一つで持ちきりだった。


「腹を抉られて死にかけていた男が、見ず知らずの少女が放った光で一瞬にして完治したんだとよ!」 「なんだその異常な魔術は!? だが、中回復ポーション以上の効果を瞬時に出せるなら、それはもはや国宝級の存在だぞ!」 「特徴は『10代の少女』で『初心者探索者の装備』だったそうだ! まだこのダンジョンの浅い階層にいるに違いねぇ!」


 噂は口から口へと伝わるうちに尾ひれがつき、「神が遣わした聖女だ」「いや、光の化身だ」と過激な神格化が進んでいった。  しかし、彼らの熱狂の裏にあるのは純粋な信仰心などではない。どこまでもどす黒い欲望と打算だった。


「見つけ出せ! なんとしても我がクランで一番に確保するんだ!」 「他の連中に見つかる前に捕縛しろ! 手足を縛って監禁してでも、俺たちの専属回復要員にするんだよ!」 「ああ、あの女さえ手に入れれば、一生ポーション代が浮くどころか大金持ちになれるぞ!」


 こうして、血の気の多い探索者や悪徳商人たちによる『奇跡の回復魔術師・大捜索作戦』が幕を開けたのである。


 その結果、真っ先に被害に遭ったのはダンジョンにいる他の女性初心者探索者たちだった。  通路を歩いているだけでガラの悪い男たちに尾行され、暗がりに追い詰められては「お前、回復魔術使えるか!? ちょっと試させろ!」と理不尽な尋問や拉致未遂を受ける事件が多発し始めたのだ。


 当然、女性探索者たちも黙って標的にされるわけではない。  身の危険を感じた彼女たちは自衛のため、決して一人では出歩かず、複数人で強固なグループを組むか、あるいは同じ階層で活動する信頼できる男性初心者探索者と共に行動するようになった。  今やダンジョンの浅い階層において、女性初心者探索者の『一人行動』は、飢えた獣の群れに自ら飛び込むに等しい自殺行為。事実上、ほぼ不可能な状況に陥ったのである。


 ――そして、その狂乱の波は、当然ながら事件の張本人である私の元にも最悪の形で押し寄せていた。


「(……おいおいおい、冗談だろ……?)」


 私は地下5階の自室である狭い横穴の中で、壁に背を預けて頭を抱えていた。  外の通路からは、血走った目をした男たちが「回復魔術師はどこだ!」「若い女を片っ端から探せ!」と怒号を上げて巡回する足音がひっきりなしに聞こえてくる。


「(女性はグループを組むか、男性の初心者探索者と行動を共にするのが常識……って、天涯孤独のボッチである私にそんな相手がいるわけないじゃないか!)」


 前世はしがない50歳のサラリーマン。今世は15歳で両親を亡くし、友達一人いない底辺のゴミ回収係。  私には、一緒に行動してくれる女性グループも、頼れる男性初心者探索者のツテも皆無だった。


 つまり、今この部屋から一歩でも外に出れば、私は『単独行動をしている10代の初心者探索者』として、間違いなく男たちに囲まれ、身ぐるみを剥がされる(あるいは拉致監禁される)運命にあるのだ。


「(どうしてこうなった……! ただ、目の前で死にかけてた人を善意で助けただけなのに……!)」


 自分の善意――というか、ふざけた『パンチラ』スキルのせいで、自分自身の仕事はおろか外出の自由すら完全に奪われてしまった私。  薄暗い部屋の中で、私はただガタガタと震えながら、過ぎ去った平和なブラック労働の日々を想い泣き崩れるしかなかった。

AIと一緒に作りました。

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