2話
私がまだ5歳だった頃。大厄災が世界を覆い尽くす前のダンジョンは、今とは全く違う場所だった。 地下1階から地下10階までは、大人が踏めば死ぬような弱いスライムしか出ない、安全で手軽な遊び場のようなものだったのだ。近所の子供でも出入りでき、私たち家族もよくピクニック感覚で潜っていたのを覚えている。
あれは確か、両親に連れられて地下10階の草原エリアを訪れた時のことだ。 青空(のような光る天井)の下、広大な草原の真ん中でお弁当を食べていた私は、ふと自分の中に眠る『何か』を感じて、無邪気にそれを発動させた。 その結果、草原のど真ん中にドンッと現れたのが、謎の黒い箱――私のユニークスキル『自販機』である。 当時の私は「変な箱が出たなー」くらいにしか思っていなかったし、両親も特に気付かなかった。そのまま放置して帰ったその箱が、まさか10年後の人類の希望の光になるとは、神様でも予想できなかっただろう。
「ふふん。今日も『魔力循環』のおかげで荷運びが楽勝だぜ」
現在に戻り、私は自分の背丈ほどもある木箱を背負いながら、薄暗いスロープをずんずん進んでいた。 前世の知識で実践してみたらあっさり出来てしまった『魔力循環』。この世界では師事しなければ教えてもらえない秘技に属する技らしいが、これのおかげで重労働もまったく苦にならない。
歩きながら、私は誰にも見えない空中の半透明ディスプレイを指で弾いた。 私だけが見える謎のゲーム画面。これも私のスキルのうちの一つらしい。 画面の端には『魔力ポイント』という数字が表示されている。 「おっ、またポイントがカンスト近くまで貯まってるな。よしよし……っと」 私は日課のゲーム感覚で、画面上に表示された『セーフティーエリア拡張』のボタンをポチッと押した。 チャリーン、という軽快な電子音が頭の中に響く。 「よし、今日もレベルアップ完了! これでまたポイント集めが捗るな」 あくまで暇つぶしの箱庭シミュレーションゲーム。私はそんな軽い気持ちでディスプレイを閉じた。
――同じ頃、地下10階・草原エリア。 モノリスを中心に形成された開拓村は、突如として緊張と歓喜の渦に包まれていた。
「お、おい見ろ! モノリス様が光ったぞ!!」 「まさか……いや、間違いない! 安全地帯の境界線が広がっている!!」 「なんだって!? 結界がさらに広がっただと!?」
結界の外で虎視眈々と人間を狙っていた強力な魔物たちが、見えない壁に弾かれるように後退していく。 地下11階以降は魔物が強すぎて探索があまり進んでいない現在、この地下10階の拠点は人類にとっての最前線であり生命線だ。 一瞬の静寂の後、開拓村を爆発的な歓声が揺るがした。
「うおおおおっ! 新しい安全な土地だ! これで家がもっと建てられるぞ!」 「すぐにギルドへ報告だ! 新たな土地の権利を一番に押さえろ!」 「おい見ろ、川だ! 結界がすぐそこの川の淵まで届いたぞ! これなら魔物におびえずに、水をもっと安全に汲めるかもしれない!」
いきなりもたらされた神の奇跡(セーフティーエリア拡張)に、探索者や商人たちは狂喜乱舞した。新たな安全地帯を手に入れるための建築ラッシュ、そして莫大な商機の匂い。地下10階は、かつてないほどの好景気と熱狂に沸き立っていた。
もちろん、その奇跡を起こした張本人が、呑気に地下5階へ向かうただの初心者探索者の少女であることなど――誰も知る由もない。
AIと一緒に作りました。




