3話
地下10階の草原エリアを流れる広大な川。 それは開拓村の住民にとって、恵みであると同時に絶対的な『死地』でもあった。 川の中には凶暴な水生魔物が無数に潜んでおり、水を汲もうと不用意に近づけば、一瞬にして水中に引きずり込まれて命を落とす。凄腕の中堅探索者でさえも、決して川辺には近づかなかった。
しかし、神の奇跡――モノリスの結界拡張――によって、状況は劇的に一変した。 安全地帯が川の一部をすっぽりと覆ったことで、水生魔物たちは見えない透明な壁に阻まれ、結界内へ侵入できなくなったのである。
「す、凄いぞ! 魔物が結界に入ってこれない! これで安全に水が汲めるぞ!」 「おい、川辺の足元を見てみろ! あの群生している植物……間違いない、上質の薬草だ!」
ある錬金術師の叫び声に、開拓村は再び沸き立った。 危険すぎてこれまで誰も採取できなかった川辺の薬草。それを急ぎ鑑定した結果、なんとそれを使えば小回復ポーションの上位互換である『中回復ポーション』の作成が可能であることが判明したのだ。
さらに、彼らを驚愕させる出来事はそれだけでは終わらなかった。
「報告します! 結界内の川の水を調査した結果……なんと、水そのものが純度の高い『魔力水』に変化していることが確認されました!」 「なっ、なんだって……!?」 「結界の力なのか、それともモノリス様の恩恵なのか……。とにかく、これで高価な魔力水が川から無限に汲み放題だぞ!」
この大発見は、地下10階における一大産業革命の引き金となった。 これまでモノリスから魔核を払って少しずつ買っていた魔力水が、安全な川からタダで、しかも大量に手に入るようになったのだ。(当然ながら、この日を境にモノリスにおける魔力水の売上は激減することになる)
安全な水場、無限の魔力水、そして大量の薬草。 すべての条件が奇跡的に揃ったことで、これまで高嶺の花だった『小回復ポーション』の量産化が、ついに現実のものとなったのである。
「急げ! 錬金釜をフル稼働させろ! 薬草の採取班と水汲み班をもっと増員しろ!」 「小回復ポーションの価格をこれまでの十分の一……いや、二十分の一まで下げて一気に市場を独占するぞ!」 「商隊を組め! このポーションを命懸けで地上を渡り、他のダンジョンへ売り捌くんだ! 我々は莫大な富を手にするぞ!!」
開拓村の商人たちは血走った目で指示を飛ばし、探索者たちも護衛や運搬の任務に狂ったように飛びついていく。 魔力水の量産とポーションの価格破壊。それは、このダンジョンのみならず、地上を移動する商隊たちを通じて世界中のダンジョン経済を根底から揺るがす大事件の幕開けであった。
――一方その頃。 地下5階の落とし穴の前で、主人公は生活ゴミを投げ捨てながら首を傾げていた。
「あれー? 最近なんか、魔力ポイントの貯まりが極端に悪くなったなぁ。通信バグかな?」
空中のディスプレイを指で何度か叩いてみるが、数字は遅々として増えない。
「まあいいや。所詮は暇つぶしのクソゲーだし、無課金勢には限界があるよな。よーし、今日も定時退社だ!」
自分が世界のポーション流通と経済の概念をひっくり返した張本人だとは露ほども思わず、少女はのんきに伸びをしていたのである。
AIと一緒に作りました。




