1話
「よっと……。今日も今日とて、肉体労働と洒落込みますか」
仄暗い岩肌の続く洞窟に、私の声が空しく響いた。 肩の少し上あたりには、ぼんやりと淡く光るソフトボール大の光球が一つ浮いている。生活必須魔術『追従の明かり』だ。これがないと、地下6階より下の階層では足元すら見えず生活もままならない。なんせ、ここには太陽の光なんて一切届かないのだから。
私が背負い子で担いでいるのは、自分の体重ほどもある大きな木箱だ。中身は地下10階の草原エリアで生産――あるいは『購入』された物資の数々である。 レベル3以下の初心者探索者である私の仕事は、地下10階の入り口でこれらの荷物を受け取り、みんなの居住区である地下5階までひたすら運搬すること。そして帰りは上の階の生活ゴミを回収して専用の落とし穴に捨てるという、絵に描いたような底辺のルーチンワークだ。
「(まあ、前世のブラック企業での社畜生活に比べれば、残業ゼロで飯が食えるだけ天国みたいなもんだけどな……)」
誰にも聞こえない心の内で、50歳のおっさん臭い愚痴をこぼす。 そう、私には前世の記憶がある。日本という国で中小企業のサラリーマンとして働いていた私は、不運にもトラックに轢かれて死に、気がつけばこのファンタジー世界の女の子に生まれ変わっていた。
ただ、ここは夢見たような平和なスローライフ世界とは程遠い。 私が10歳の時――今から5年前のことだ。世界に『大厄災』と呼ばれる惨劇が降り注ぎ、地上は強大な魔物が跋扈する魔境と化した。地上を追われた人類は生き延びるため、地下に広がるこのダンジョンへ逃げ込み、しがみつくように暮らしている。 両親はその厄災の混乱に巻き込まれて他界し、私は15歳にして天涯孤独の身というわけだ。
「よいしょ……っと。しかし、今日の荷物はやけに重いな」
急な傾斜の通路を登るたび、背中の木箱の中でチャプチャプと水音が鳴った。 これはただの水じゃない。『魔力水』だ。 聞くところによると、今、地下10階の草原エリアでは着々と「町」が形成されつつあるらしい。その中心にあるのが、どこからともなく現れた謎の『モノリス』だそうだ。 そのモノリスに魔核――魔物を倒すとドロップする石ころを通貨のように捧げると、何故かこの『魔力水』や『パン』が買えるのだという。
現在、ダンジョン内で怪我を治すための『回復ポーション』はまだまだ貴重品だ。需要ばかりが高く、量産体制なんて夢のまた夢。だからこそ、探索者たちはこぞってこの魔力水を買い求めている。薬草と混ぜ合わせることで、なんとか自前の小回復ポーションを作るためだ。
「誰が設置したのか知らないけど、そのモノリスを作った奴は間違いなくこのダンジョンの救世主だよな。……あやかりたいもんだぜ、全く」
他人事のように感心しながら、私は『魔力循環』の呼吸を意識してふくらはぎに力を込めた。前世のネット小説の知識を活かしてこっそり習得した奥義のおかげで、重労働もいくらかマシになっている。
もちろん、ダンジョンの救世主たるそのモノリスの正体が、5歳の時に私がなんとなく発動して放置したユニークスキル『自販機』であることなど――この時の私は知る由もなかったのである。
AIと一緒に作りました。




