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第一話 イブとダフォン

読んでくださり、ありがとうございます!

 とりあえず、このまま無言で一年過ごすのは現実的じゃない。


 仲良くなれとは言わない。

 だが、意思疎通すらできない相手と生活するのは、さすがに無理がある。


「……えっと。改めて、自己紹介を」


 俺は、二人に向き直った。


「わたしは、エーテルと言います。お二人の世話係をいたします。普段は両親のレストランで料理を作っています。あとは……」


 できるだけ丁寧に、刺激しないように言う。


 お二人の番です、と言って耳を傾ける。なんせ"会話"は、とりあえず喋ればいいわけじゃないからだ。

 相手の言葉をちゃんと受け取ってやることにかかっている。

 気持ちを汲み取って、何を伝えたいのかをしっかり聴くことで、会話は自然と広がる。

 


「イブとダフォン」




 ――終了。


 "会話"ははじまる前に終わっていた。

 イブとダフォンは自己紹介なんかじゃない。もう絵本のタイトルだ。


 と冷静なツッコミを入れようかとも考えるが、エルフ族にツッコミという文化がなかったら、何奴! と言ってブチギレられる可能性もある。


 そんなことよりも、と思い、すぐに立て直す。


「えっと……ここはカルディア王国の中心部にある屋敷でして」


 とにかく話続ける。


「生活に必要なものは一通り揃っています。外出は制限されていますが、庭までは自由に――」


 ちらりとイブを見る。

 だが、視線すら向けてこない。

 聞いていないですよ、感をプンプン出してきやがる。


「……今日はとても天気が良いので、庭にいきましょうか。庭には豪華な――」


「あのね」


 ぴたり、と言葉を切られた。


 イブは露骨にため息をつく。


「興味がないってことくらい、わからないかしら?」


 わかりますとも。わかった上での会話である。

 

 

「人間の話なんて、聞く価値もないわ。理解する必要もないし、したいとも思わない」


 容赦がない。


「馬鹿みたいにペラペラ話されても、時間の無駄よ」


 あなたと仲良しごっこをする気もないわ、と言ってイブはゆっくりとこちらを見る。

 俺の方が身長は高いはずだが、なぜか上から見られている感じがする。


「お父さまも言っていたもの。人間は下等な動物だって」


 ああ。

 それ、教科書に載ってた。エルフは下等な動物って……反対だけど。


「あなたがやるべきことはね――」


 イブは足元の床を、軽く指で叩く。


「黙って、そこでも掃除していることよ」


 一拍。


「あら、難しかったかしら? なら、こう言おうかしら?」


 口元だけで笑う。


「うるさいから出ていけ」


 横でダフォンが小さく笑った。


 ……さすがに、腹が立つ。


 だが。

 ここで感情的になったら終わりだ。人間には理性というものが存在する。キレてばかりのエルフとはまるで違う。


 まあ正直、今すぐにでも投げ出したい。こんなメリットもないような仕事、今どき珍しいほどだ。

 それでも、やめるわけにはいかない理由がある。


 ――妹だ。


 ゲルド病という一度発症すれば治ることはない病気にかかっている。


 身体は徐々に弱り、十五歳を迎える前に死ぬとされている。


 俺はそれをどうにかしたくて、必死に勉強した。

 医学も、薬草も、料理も。


 だが、現代医療では治せないのである。それが現実だ。


 それでも、ひとつだけ希望があるのだ。エルフの国で、同じ病が完治したという記録。

 そしてそれは、王族のみが扱える治癒魔法によるものだと。


 事実かはわからない、ただ可能性に縋りつけるだけでもありがたい。


 だから、俺はここにいる。

 イブにあって、何かがわかるかもしれない。


 だから、どれだけ見下されて、拒絶されても、関係ないことである。


 ――諦めるわけにはいかないのだ。

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