プロローグ エルフと人間
読んでくださり、ありがとうございます!
目の前には、エルフの男女が立っている。
――終わった。
普通に生きてきた人間なら、そう思うはずだ。
エルフには気をつけろ。
エルフはバケモノだ。
関わったら最後、骨も残らない。
そんな教育を、俺たちは物心つく前から叩き込まれている。
だから俺は今、全力で震えを隠している。
ギリ耐えている。
偉いぞ、俺。
エルフたちは、そんな俺を見下すようにじっと見ていた。
その目がまた腹立つ。
「ああ、人間ってこんなに低級なんだ」って顔。あからさまな軽蔑感。
つまり、向こうも同じ教育を受けているということだ。
――人間は野蛮で、愚かで、信用ならない種族だって。
そんな気がしてならない。
◇
この世界は、五つの大陸に分かれている。
人間族。エルフ族。獣人族。魔族。
そして、多種族が混在する他族圏。
その中でも――人間とエルフは、最悪の関係だ。
隣り合う大陸。似すぎた外見と文化。
だからこそ、互いに譲らない。
長い戦争の果てに残ったのは、憎しみだけだった。
――そして、つい先日。
その戦争は、ようやく止まった。
理由は単純。
長年の戦争による人口減少。
そして、国家を圧迫するほどの経済的負担。
要するに、続けられなくなったのだ。
だが、停戦は関係良好を意味しない。
だから決まったのが――人質交換。
互いの姫を相手の大陸に人質として送り込み、
「変なことしたら即殺すぞ」という、あまりにも物騒な平和条約。
そして。
そのエルフの姫――イブ=グレーテン=ウィルの監視役兼世話係として、
俺、エーテル=フィンガールトは、カルディア王国の屋敷へと配属された。
◇
イブは、俺と目を合わせない。だが、その隣のエルフ(男)は試すようにこちらをまじまじと見ていた。
すると、イブはその男の足を踏み、何も言わず、そのまま屋敷へ向かって歩き出す。
なんだこいつ、と思ったが、とりあえず飲み込む。
すると、後ろに控えていたエルフの男が、俺を見て鼻で笑った。
「人間は、ここまで汚らわしいのか」
わざと聞こえる声量でそう言うと、その男もそのまま屋敷へ入っていく。なぜか、軽くスキップをしながら……?
感じ悪っ。
俺は小さく毒づきながら、あとに続いた。
……というか、
そもそも、なんで俺はこんな仕事をしているのか。
改めて思い返す。
◇
人間大陸協会は、今回の件で人材を探し回っていた。
敵国の姫を迎える以上、重要なのは"信頼を得られること"。
そのため、大陸中から若くて有望な人間がかき集められたらしい。
そして――俺が選ばれた。
自分でもこれ以上の適任はいない気がする。
人柄は良好、成績優秀、頭の回転も悪くない。
それに加えて、料理もできる。
これが大きい。
エルフの姫は、料理にうるさいことで有名らしいのだ。
料理人の息子で、実際に料理もこなせる俺は、確かに条件に合っている。
――とはいえ、それだけなら、他にもいくらでも候補はいるはずだ。
料理ができて、優秀ならば、こんなだだっぴろい大陸、探せばいくらだっている。
選ばれた理由はきっと戦闘力にある。いや、絶対に。
何を隠そう、俺は戦闘がとても苦手なのだ。
人間は誰でも、幼い頃に「戦闘測定」を受けさせられる。
魔力量を測る装置と、実技試験。
それらを基に、戦闘能力は数値として記録される仕組みだ。
これを、五歳と十歳の二回受ける。
その成長次第で、将来の進路はほぼ決まる。
数値が高ければ騎士団へ。あるいは冒険者育成の専門学院へ。
だが、俺の10歳の数値は5歳時の数値を下回っていたのだ。
つまり、俺の戦闘力は成長どころか低下していたのだ。
だから、これ以上の適任はいないのだ。
エルフ大陸協会の連中も、俺を一目見て目を丸くしたらしい。
「うちの姫を世話する人間を確認したい」と、わざわざ出向いてきたはいいが――
結果は、同情。
エルフは装置を使わなくても、相手の魔力量や戦闘力を測れるらしく、きっと相当な数値だったのだろう。
種族を超えて驚かれるほどの低さだったらしい。
我ながら、ひどい話である。
だが、だからこそ、俺は選ばれた。
――ワンアンドオンリーの人類最弱完全無害な世話係。
それが俺なのである。
◇
いやはや、悩むところである。
噂には聞いていたが、エルフという種族はどうにも非友好的らしい。
そんな連中の監視役兼、世話係を一年間。
――とてもじゃないが気が進まない。
いや、そんなレベルの話じゃない。
できれば、こんな仕事辞めてやりたい。
評価、感想、お待ちしてます!




