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おまけ小話 きみは○○

 ざわざわとたくさんの人間が歩いている。

 ぼくは、細い道からおそるおそる人間たちをながめていた。


「人間には悪いやつもいるが、良いやつもいる。良いやつに拾われれば生きがいもあるってもんだ」


 ぼくをここに連れてきたおじさんがそう言っていた。

 ぼくがさびしくて不安でないていたときに、突然あらわれたおじさんは、ほんとはダメなんだけど…と言いながら、ぼくにごはんをくれた。


「人間の多いところに行くのは怖いか?」


 ごはんを食べているぼくにおじさんが聞いてきたけど、口にごはんが入っているので、じっと見ていたら気持ちが伝わったみたい。


「それでも…。良いやつに会えそうなところがあるんだ」


 着いてくるか?と聞かれたぼくは、小さく返事をしておじさんに着いていくことにした。

 しばらく着いて歩くと、大きなまちにたどり着いた。

 だけど、大きなまちは高いカベでかこわれていて、門には怖い人間がいるのでぼくたちはカンタンには入れない。


「こっちだ」


 どうするのかと思っていたら、おじさんがカベに穴があいているところを知っていた。


 おじさんと一緒になんとか穴を通りぬけると、そこは建物の間の細い道だった。


「あとは、教えた通りだ。いいな?」


 ここまでの道でおじさんから、これからのぼくの助けになることをいくつか教えてもらっていた。

 おじさんは、ぼくのことを心配そうに見ながらも「これ以上はいられないんだ」と言って、そのすがたを消してしまった。


 さびしくて不安な気持ちがもどってきたぼくは、ちいさくなきながらとぼとぼと道を歩いていった。


 おじさんに言われたとおりに、めだたないように、でも、人間がたくさんいるところにちょっとずつ近づいていく。


 今日なら、良いやつに会えるかもしれない。


 そう言われた言葉をはげみに、とぼとぼと歩く。


 おじさんに会うまでに、負っていたキズがあちこち痛む。


 ほんとは怖いけど。


 もう痛いのもいやだけど。


 でも、ごはんをくれたおじさんの言葉を信じてみると決めたんだ。


 おじさんはぼくの知らなかったことを教えてくれた。よくわからないこともあったけど。


 そのことを思い出しながら、道の端っこにたどりついたぼくは、そこから人間をチラチラとのぞきながら小さく出るなきごえをとめられずにいた。


 一度でっかい人間が近づいてきて、びっくりして奥にかくれてみたけど、しばらくしたらいなくなったからまた通りをのぞく。


 そうしていると、ふわっとやさしい匂いがして、顔をあげてびっくりした。


 いつの間にか人間が近づいてきていたのだ。


「あれ?君、ケガをしてるね…」


 ぼくをのぞきこむように、少しはなれたところにゆっくりとしゃがみこんだ人間が、後ろにいた人間に「ギル」と声をかける。

 後ろにいた人間も、すぐにしゃがみこむと、何かをさしだした。


「大丈夫だよ。ちょっとケガを見せてね?」


 いいにおいのする人間が手をのばしてきた。

 ちょっとこわくて、ぼくは一歩さがってしまう。


「怖ことはしないよ。来てくれるかな?」


 さっきより手をのばすことはしないで、その場でまつ人間。

 どうしよう。ちいさくなくしかできないでいたぼくの耳に、おじさんが「その人間は大丈夫」と言った声が聞こえた気がした。


 まわりを見てみたけど、おじさんはどこにもいない。

 でも、まだじっとまっている人間を見て、ぼくはゆうきを出して、一歩ちかよった。


「あ、来てくれた」


 優しい声で、少しだけ手を近づけてきたので、思いきってその手をなめる。


「きゅん…」


 ぼくがもう一度小さい声でなくと、人間はわらいながらぼくをだきあげた。


「もう大丈夫だよ。ケガを診たら、ごはんも食べようね?」


 両手でかかえられたけど、それは優しいちからで、声も優しくひびく。それに、なんだかいいにおいがするのがとても安心する。


 なんだかうれしい気持ちになったぼくは、いっしょうけんめい人間の手をなめた。

 おじさんが言ってたんだ。「いい人間にひろわれれば、かぞくになれる」って。

 ぼくたちいぬがかぞくになったら、人間がなまえをつけてくれるんだって。

 ねえ。いいにおいの人間さん?ぼくをかぞくにしてくれる?


「ふふふ。くすぐったいよ」


 わらう人間の声も心地よい。と、思っているとヒョイっともう一人の人間につままれてしまった。


「あ!ギル!そんなに急に持ったらビックリしちゃうよ?」


「はいはい。早くケガを診てやらないとだろ?」


 急につままれたことにビックリしたけど、その手のちからは強くはないし…声も優しいし…と思って人間の顔を見た。

 チラリ…あれ?めせんがなんかこわい…。


「それに、このチビお前にすごい勢いで懐いてるけど、どうせうちには連れてかないんだろ?」


 え…?こわい人間の話にぼくはしょっくをうけた…。

 ぼく、ひろわれないんだ…。


「あんまり懐かせたらかわいそうだろ」

 

 そう言いながら、あっという間に手あてをしてくれていたことに気づいた。なんだかすでに、きずのいたみがへってる。

 人間その2…。こわがってごめん。ぼくをしんぱいしてたのか…。


「きゅーん」


 ありがと。でももうおろしてくれないかな。ぼくは、ぼくをかぞくにしてくれる人間をさがさなきゃ…。


 ぺろりと人間2号の手をなめるけど、人間2号はぼくをおろさずに両手でかかえたまま。


 でも…。この人間たちにひろってもらえないぼくなんかを、かぞくにしてくれる人間なんているのかな…。


 きゅんきゅんとなきごえがもれちゃうぼくの、首や耳のまわりを人間1号がなでる。きもちいいけど、もうぼくをはなしてくれないかな…。


「お腹すいてるのかな?ごはん食べたら、君を家族にしてくれそうな人を探しに行こうね?」


 え…。


「アルが声をかければすぐ見つかるだろ。なんかこのチビやたら懐っこいし」


 え…?

 そうなの?ほんとに?


 思わず、ぼくをなでる人間1号の手をぺろぺろなめながらしっぽをふってしまう。


「ふふふ。なんかこの子ギルみたいだよね?」


「…どういう意味か言ったら、ここで再現するぞ…」


 え?なに?どういういみ?


「ゴメンナサイ」


 急に人間1号がぼくをなでていた手をひっこめてしまった。なに?


 けっきょく、人間2号の手にのせられたままでごはんをもらったぼくは、うとうとしながらおじさんの話を思いだしていた。

 人間はぼくらをひろってかぞくにしてくれることがあって…それをなんていうんだっけ?思いだせないや…。


「あれ?寝ちゃったね?」


「今のうちに飼い主探しをしてしまった方がいいだろ」


「そうだね~」


 ゆらゆら。やさしいにおいとあったかい手につつまれて気持ちいい。

 そんなことを思いながら、ふと目がさめた。


「お!起きたか?ちび!」


「!!!!!きゃん!!!!」


 だれ?!

 目がさめたぼくは、まだ人間2号の手のなかにいた。

 けど、目の前にいるのは人間1号じゃない。大きい人間。


「お!元気がいいな!ちび!」


 大きい人間は、声も大きい。そして手も大きい。

 その大きい手をのばしてきた。


「きゅん!」


 こわい…!

 けど、人間2号の手のなかにいるのでにげられない。


「よしよし。こわくないぞー。お前、今日からうちの子だ」


 え…?ぼく、この大きい人間にひろわれるの?ほんとに?


 おびえながら大きい手をみていると、ぼくの体を人間2号の手のなかからもちあげてしまう。

 どうしよう…こわい…。


「大丈夫だよ。おじさんは動物好きで優しいからね」


 人間1号の優しいこえが聞こえた。


「きゅーん」


 大きい人間の手は大きくて片手にぼくのからだはのってしまう。


「よーしよーし。そんなにおびえるなよー。うちにばあさんがいるから、相手してやってほしいんだよ」


 そう言いながらはんたいの手でぼくをなでるちからはやさしかった。


「きゅん」


 …この人間もいやなにおいはしない。


「お、おちついたか?さっきは急にのぞいてびっくりさせて悪かったなー。ちびの声がしたから飯でもやろうかと思ったんだよ」


 あ、この大きい人間。さいしょにぼくをのぞいてきた人間だ…。

 そっか。人間1号よりさきにぼくに気づいてくれてたんだ…。


「きゅーん」


 ぺろり。大きい人間の手をなめてみる。ぼくをかぞくにしてくれる?


「お。懐いてくれるか?よーしよし」


 うん。やさしくなでてくれるし、もうこわくないよ。


「よかった!大事にしてもらうんだよー。おちび」


 人間1号のほうをむいて「きゃん!」とげんきよくへんじをした。


「ふふふ。俺は拾って連れて帰るのはギルだけって決めてるからね」


 わらう人間1号に、人間2号はへんなかおをしている。


「お前、それあんまり外で言うなって…」


「ははっ!ここらの人間は皆知ってますから大丈夫ですよ!」


 大きな人間がわらうと、手のなかにいるぼくまでびりびりひびく…。


「そうだよ!ギルはもう俺の家族だからね!」


 そうか…。人間も人間をひろうんだ…。

 そんで、ひろったらかぞくになる…。


 さっきはへんなかおをしていた人間2号が、いまはわらってた。


「そうだな。ほいほい家族を増やされても世話で困るのは俺だからな」 


「えー!ちゃんとギルの面倒は俺が見たじゃん?!…最初は…」


「…今は…?」


「オレガメンドウミテモラッテマス」


「よし」


 人間2号が人間1号のあたまをなでた。

 なんだっけ。人間がひろってかぞくにするの、なんていうんだっけ。


「きゃん!」


 思いだした!


 ペットだ!


 なんだおまえもペットか。人間2号は人間1号のペットはじぶんだけがいいって思ってたから、なんかさいしょこわかったんだ!


 そう思うと人間2号になかまいしきがめばえた。


「きゃんきゃん!」


 おたがいにペットがんばろうな!


 大きな人間に、人間1号が手をふってわかれていくせなかをみながら、人間2号にせいえんをおくる。


「…なんか、俺を見て吠えてる気がするけど、あんまりいい気がしないのはなせだ…」


 人間2号がなんか言ってるけどぼくわかんない!



 


 こうして大きな人間にひろわれたぼくは、おばあちゃんにもかわいがられてしあわせなペットでかぞくになった。


 人間1号と人間2号もげんきかな。人間2号もかわいがられてるかな。


 またどこかであのふたりにあえたらいいな。なんて思いながら、今日もぼくはおばあちゃんのひざのうえでねむるのです。

お久しぶりですー。

諸事情あって、一話だけおまけ更新です!

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