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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター3 1年生編 / 三学期
41/105

M35 雪の日



 ――3学期。


 新しい学期が始まった。期間は1月中盤から3月中盤までの2ヶ月間。授業も余り無くてゆったりとした時期だそうだ。やっぱり日本に較べると段違いにノンビリしたカリキュラムだよな。まあ、楽しくて良いけど。






 と或る日。


 マリが朝、声を上げた。


「どしたの?」


 起きたばかりのあたしが自室から寝ぼけマナコで顔を出すと


「雪!雪だよ!!ヒナちゃん!」


 マリがキラッキラと目を輝かせてあたしを見た。


「!」


 あたしは無言でマリの居る窓に駆け寄った。


「・・・わぁ・・・」


 思わず声が漏れる。


 灰色の空から白い綿が降り注ぎ、大地に嵩高く積もっていく。今までにも細雪は降った事はあったけどこんなに積もったのは初めてだった。




 因みにあたしは雪が大好きだ。もっと言えば雷や台風も好きだった。いつもとは全く違う風景にドキワク感が止まらなかった。


 そして雨の日に部屋から外を眺めるのも好き。雪を踏みしめるのも好き。・・・つまりだ。




「行くよ、マリ。」


「何処に?」


「外だよ!」


 あたし達は朝食もソコソコに外へ飛び出した。




 一限目が始まるギリギリまで時間を使いたかったので校庭の隅を陣取る。つってもあたし達以外は居ないけどね。


「ヒナちゃん、何するの?」


「決まってるでしょ。雪だるさんを作るのよ!」


「雪だる・・・雪だるま!?」


 マリの目が輝く。


「そう!」


 多分、あたしの目もキラッキラの筈!




 あたし達は雪を転がして、もっと転がして、更に転がした。


「私、初めて作った!」


 マリの言葉が嬉しい。


「そう。よし!デカいの作るよ!」


「うん!」


 デカい玉の上に2人掛かりでデカい玉を乗っける。


 なかなかの大きさだ。あたしの肩くらいまである。




「何やってるの?」


 気が付くとアイナとフレアがフードとコートを被って立っていた。何時までも教室にやってこないあたし達を探しに来てくれたらしい。


「雪だるまよ!」


「ユキダルマ・・・?・・・って何?」


 嘘でしょ!?雪だるさんを知らないなんて!


 あたしはフレアの質問に仰天した。


 一体、この世界の子達は何をして遊んでいるというのか!?雪だるさん作りこそ冬の・・・いいえ、全ての遊びの頂点と言っても過言では無いのに!




「雪のお人形を作っているのよ!」


 あたしが説明する。


「お人形!?」


 フレアの目が輝く。お、食い付いたな。よーし見てなさい。


「マリ、顔と手はお願いするわ。」


「わかった!」


 マリが形を整えながら叫ぶ。マリもテンション高いな。コレコレ。これが雪だるさんの醍醐味よ。




 あたしは走った。確かアソコにあった筈。


「あった。」


 あたしはバケツを引っ掴むとマリ達の処に戻った。




 マリはなかなかのクオリティで雪だるさんの顔を完成させていた。石を2つ嵌め込み、棒を2本貼り付けて目鼻口が出来ている。


 おお、美人さんに仕上がったじゃない。最後にマリは棒きれを2本、左右に突き刺して腕を完成させる。笑っているように見えるお顔が愛くるしい。




「セイッ」


 あたしは拾ってきたバケツを頭に被せた。ちょっと斜めに被せるのがコツよ。最後にあたしが自分の手袋を雪だるさんに付けてあげ、マリがショールを被せてあげて完成した。


「出来た!」


 あたしとマリで歓声をあげる。




「・・・これで完成?」


 フレアが呟く。


「そうよ。」


「可愛いでしょ?」


 自信満々で振り返るあたし達にフレアは固まったままだ。


「朝早くに2人で寮を飛び出して行ったのが見えたから、何をしてるのかと思えば・・・」


 アイナの呆れ声。




 何だよ、可愛いだろ。雪だるさん!




「ふ。・・・ふふふ・・・。」


 2人が肩を震わせる。そして盛大に笑い出した。


「アッハッハ!・・・あー面白い。」


「そうね。良く見れば愛嬌があって可愛いわ。」


 急に笑い出した2人をあたし達はポカンと見つめる。


「ねえ、フレア。わたし達も放課後に作りましょうよ。ユキダルマ。」


「そうしよう。セーラさんも誘って。」


 お、何か楽しそうな話をしてますな。あたし達もその話に乗らせて貰いますよ?




 その日は一日、皆が校庭をチラ見する一日だった。校庭の隅に佇む雪だるさんの珍妙な光景に目を奪われている様だ。昼の休憩時間には何人もの生徒がわざわざ見に行っていた。


 ふふふ・・・。真似をしてみたいなら今のうちだよ、キミタチ。明日にはもう雪も止んでいるだろうからね。




 放課後、たくさんの生徒達があたし達の雪だるさんの周りで同じモノを作り始めていた。最初、みんなから作り方のレクチャーをお願いされたので説明してあげる。・・・って良く見れば高等部の人達も居るじゃん。




 粗方の人が雪だるまを作りあげた。


 居並ぶ大小様々な雪だるさん達。おお・・・壮観だわ。




「こんな楽しい事をしていたなんて・・・誘ってって言ったじゃない。」


 セーラが鼻を真っ赤にしながら笑顔で文句を言う。


「いや、朝に雪が降ってると知って、もう嬉しすぎて飛び出しちゃったんだよ。」


 あたしは頭を掻く。


「ホント、時々、急に子供っぽくなるんだから。」


「へへへ。」


「・・・まあ、ソコが良いんだけどね。」


 清楚系美少女の微笑みが直撃してあたしはグラリとなる。


 そこに。




『パスン』 


 と冷たい何かが飛来してあたしの顔にぶつかった。


「うわっ・・・ぷ。」


 ビックリして飛来してきた方を見るとマリがニヤリと笑いながら雪玉を手にしていた。その姿を見てあたしのボルテージが急速に上昇しバーストした。


「このお・・・やったなぁ!」


 あたしが足下の雪を固めてマリにぶつけるとマリはキャーキャー言いながら逃げ始める。




「え・・・ちょ・・・何!?喧嘩!?」


 アイナが驚いたように声を掛けてきたのであたしは首を振った。


「違うわよ。雪合戦よ!多く当てた方の勝ちよ。雪の日にしか出来ない遊びよ!あんた達もやりなさい!」


 そう言い捨ててあたしはマリを追い掛ける。




「楽しそう・・・」


 フレアが目を輝かせてあたし達を見る。そうよ、フレア。貴女はそう言う子よ。


「アイナ、セーラさん。やろうよ!」


「やりましょう!」


 セーラがその気になる。そうよ、セーラ。貴女はそう言う子よ。


「え・・・ちょっと、本気なの!?」


 アイナが戸惑いながら巻き込まれていく。そうよ、アイナ。貴女はそういう立ち位置の子よ。




 いきなり女子5人がキャーキャー言いながら始め出した雪合戦を周りの方々はポカンと見ている。やっぱ貴族の御令息、御令嬢には、流石に雪合戦は受け入れられないかな。




 ・・・30分後。誉れ高きグラスフィールド学園の校庭では、2つの陣営に分かれた高等部や初等部の生徒達による男女混合の雪合戦大会が繰り広げられているのだった。


 因みに男子の皆さんには利き手の反対側の手で投げて貰った。だってまともにやると戦闘力に差が在りすぎるんだもん。


 恐る恐る提案してみると


「ああ、其れは良い提案だ。よし、其れでやろう!」


 とノリノリで受けてくれた。


 圧倒的に不利なことを申し込んだのに何故に楽しそうなのか。


 前世でもそうだったけど、こういう時、男子って絶対に取り決めを守ってくれる。ズルをする男子って1人も居ない。しかも勝敗関係無く楽しそうなんだ。男子のこういうトコは結構好きだな。




 って言うかエラい人数が増えてるな。学園の半分くらい居るんじゃない?まだ続々と校舎から出てくる人達がいる。


 後から来た人達は先に参加してた人達に話を聞いて、目を輝かせながら人数の少なそうな方に加わっていく。凄い騒ぎだ。




 最後は、突然の大騒ぎに何事かと様子を見に来た先生方がハラハラと見守る中での終戦となった。




 もう陽も落ちて真っ暗。楽しい事ってあっと言う間に時間が過ぎ去るよね。


 でも雪はまだ降っている。凄い降雪量じゃん。日本で言えば信越方面くらい降ってるんじゃない?




 生徒達は互いの労を労って、それぞれの寮に戻っていった。因みに女子寮に戻ってきた御令嬢方の雪塗れの姿に、マゼルダ婦人が悲鳴を上げたのはご愛敬。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「楽しかったね。」


 マリがハチミツ入りの紅茶をあたしの前に置きながら言った。


「だねー。まさかあんな大人数で雪合戦が始まるとはね。」


「ね。」


 マリの小首を傾げながら微笑む姿があざとい。おのれ・・・魅入ってしまうじゃないか。




「あ・・・」


 マリは声を上げてコタツから抜け出すと、サンデーグラスを持ち出してパタパタと窓口に走って行った。そして窓を開けるとゴソゴソと何かやっている。


 ・・・うんうん。あたしも小さい頃に良くやったよ、ソレ。あたしは訊かなくてもマリが何をやっているのかが判ってしまう。




「どうしたの、マリ?」


 勿論、ちゃんと尋ねてあげますとも。


「へへへ。」


 ・・・マリの笑い声が、たまに「あたしに似てきた」と思うのは気のせいだよね。とにかくマリは頬を紅色に染めてあたしにサンデーグラスを突き出した。くー・・・可愛ええなぁ。


「じゃーん。」


 そこにはコンモリと積まれた雪の山。


「おおー、かき氷じゃん。」


 あたしも笑顔になる。


「1回してみたかったの。」


「願いが叶ったね。」


「うん。」


 こんな時のマリは幼子のように無邪気で可愛らしい。




「何を掛けようか・・・ってハチミツしか無いか。」


 マリがブツブツ呟きながらキッチンに入っていく。




「待った、マリ。」


 無いなら作れば良いじゃない。あたしはマリを追い掛けてキッチンに入った。




 氷嚢庫から余ってたレモンとミルクを取り出す。魔法で炭に火を付けて、鍋にミルクを投入。そしてレモンをスライスして、煮えてきたミルクに投入。そして最後にハチミツを多めに投入して炭を減らし、弱火にしたらゆっくりとかき回す。レモンの香りが強まって来たところで終了。




 眼を輝かせるマリにウインクして鍋を窓から外に出す。


「さ、後は冷えるのを待ちましょ。」


「はーい。」


 マリはウキウキで返事をする。




 出来上がったシロップもどきは中々の出来だった。ホントはハチミツにスライスレモンをたくさん入れて2~3日置くのが定番なんだけどね。ま、この際いいか。




 外に出していたサンデーグラスにレモンシロップを掛ける。スプーンで掬って口に運ぶ。


「!」


 マリが目を見開く。


「美味しい!」


「いいね、コレ。」


 ・・・ただ、寒い。コタツとは言っても温石を入れているだけだから実はそんなに温かくないんだ。




「ねえ、マリ。」


「なに?」


「コレさ、布団の中で食べない?」


 あたしが提案するとマリは嬉しそうに頷いた。


「うん、そうしよう。」






 ベッドの中に潜り込むとあたし達はかき氷を堪能した。ハチミツの甘さとレモンの酸味と香り、それにミルクのまろやかさが上手く混ざり合っている。雪の冷たさとシロップのハーモニーは、2人でベッドに潜って食べるというシチュエーションも相俟ってメチャクチャ美味しい。


「このハチミツとレモンを初めて混ぜた人はきっと天才だね。」


 あたしが言うとマリが頷いた。


「元々はレモネードとおんなじなんだよね。」


「え、そうなの?この世界にもあるじゃん。」


「うん。でも、ソレを雪に掛けて食べてるのは多分私達だけだよ。」


 ・・・あたし達だけかぁ。何か嬉しい。


「へへへ。」


 あたしが笑うとマリも微笑む。




「ねえ、ヒナちゃん・・・」


「なに?」


 マリが頬を染めてあたしを見る。


「かき氷は美味しかった?」


「美味しかったよ。」


「そう・・・。味見させてよ。」


 ?・・・味見も何も、同じの食べてたじゃん・・・。マリの表情を見てあたしは気が付いた。


「あ・・・」


 あたしが声を上げるのと同時にマリの顔が近づく。


「チュッ。」


 柔らかい感触があたしの唇に触れる。


 マリは直ぐに唇を離すと舌でペロリと自分の唇を舐めた。


「・・・ホントだ。美味しい。」


 悪戯っぽい表情で頬を染めながら、彼女は微笑む。


「・・・」


 あたしはその蠱惑的な笑みに目を奪われながら


「あたしにも頂戴よ。」


 と言った。


 マリは恥ずかしそうに頷く。


「いいよ、食べて。」




 あたしもマリに


「チュッ。」


 と口づける。




 空になったサンデーグラスを置くと、あたし達は仰向けに寝転んだ。




「明日も雪合戦するのかな。」


「どうだろうね。もう校庭がグチャグチャになってたから出来ないかもね。」




 ・・・そっか。


「残念。」


 あたしは呟いた。





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