M36 ヒナマリ
2月も半ば。
いやー、良く降るわ。雪。
初めて雪合戦した日から、多い、少ないはあれどもう10回くらいは降ってる。でも、みんな飽きずに雪だるさん作ったり雪合戦をやってつくったりたりしてる。
あたしはチョットもう雪は食傷気味だわ。知らなかった。雪って降りすぎると飽きるんだね。
ってな訳であたしはソロソロ何か別の楽しみを探したいお年頃。
今日もコタツに入って、奥の窓から見える雪をボケッと眺めつつ「何か無いかなぁ・・・」と考えていた。
因みに、ウチのコタツは女子寮で流行りを見せていて、結構な数のコタツが御令嬢のお部屋に導入されている。貴族は床に座るの抵抗有るんじゃないのかい?
まあでも、毎度あり。
最近は男子寮にも少し導入されてるとか。あとマゼルダ婦人も管理室に入れてくれてるとか。ご利用有り難う御座います。
「2月・・・2月かぁ・・・。なんかあったかなぁ・・・」
そう呟いて思いだした。
「あ。」
「どうしたの?」
本を読んでいたマリが顔を上げる。
「バレンタイン・・・。」
「あ・・・。」
マリも忘れていたみたいだった。
「そう言えばそんなのあったね。興味無かったから思い出さなかった。」
うん、マリはそうだろうな。
あたしもあんまり思い出は無かったから印象に薄かった。
「ヒナちゃんもバレンタインで誰かにあげたの?」
「友チョコだけね。」
あたしはバレンタインで1000円以上掛けた記憶が無い。本命は彼女持ちだったし、義理なんてあげる気は無かった。だから友チョコ用に特売品を1個ずつ渡していただけだ。
「そうなんだ。ヒナちゃんの所は何か面白いチョコとか無かったの?」
地域限定って奴か・・・。
「・・・ラブチョコってのがあったな・・・。」
あたしは遠い目をして答えた。
昔は女子が男子にチョコレートを贈る日だったそうだけど、今はそんな事ない。男子も普通に女子に渡したりするし、女子同士は当たり前だし。
本命チョコ、義理チョコ、友チョコ・・・数々あれど。
あたし達の周りではラブチョコっていうのが在った。女子が女子に渡す「恋人になっても良いくらい好きだよ」的な意味合いのチョコだ。
このチョコだけは決まりが在って、形としては友チョコとして渡さないとダメ。中にピンクのハート型の紙を入れて意思表示をする。其処にコメントを入れてもいい。で、貰った側はホワイトデーに返事を返す。贈る品物の中に。
「私もだよ」ならピンクの星型の紙を。「友達のままが良い」なら青の星形を。この返事はあんまり無いけど「もう近寄らないで」なら黒の星形を入れるんだ。
あたしはホワイトデーが大変だった。開けるとピンクのハートが入っているチョコが必ず何個かあったんだ。
実際のところコレが一番気を使う。女の子のそう言う気持ちを傷付けたく無いし、でも付き合えないしで。
だから毎年、青色星形を用意して「気持ちは嬉しい。でもお友達でいようね。」的な事をコメントに入れて。でもやっぱり傷付けてはしまうから、此方から積極的に話し掛けて優しくして。お金も飛んでいって・・・。
・・・ったく、ラブチョコとか考えた奴、マジふざけんな。・・・つーか、何で女のあたしがホワイトデーで苦労するんだよ。もう色々とおかしかった。
「ふーん・・・」
マリが微妙な顔で頷いた。
「・・・後半のオチは何となく予想ついたけどね。」
・・・そうスか。
「来年はマリに渡すよ。」
「うん、私も渡す。」
マリが笑った。
ヒナがチョコを渡してマリがチョコを渡す。端から見れば普通に友チョコ。でも、実際は・・・ラブチョコ?
「・・・」
其処までボーッと考えた時、あたしは全然関係無い事を思いついて口にした。
「ヒナとマリ。」
「え?」
あたしが突然名前を呟いた事にマリが首を傾げる。
「ヒナとマリをの名前を足してみて。」
「・・・ヒナマリ?」
「マリの『マ』と『リ』の間に『ツ』を入れたら・・・?」
「ヒナマツリ・・・雛祭り!」
マリの眼が輝くのを見てあたしはニヤリと笑った。
「やってみる?」
「やりたい!」
マリの言葉で、あたし達のやる事が決まった。
「・・・とは言ったモノの・・・」
あたしは眉間に皺を寄せる。
「雛人形なんてどうやって作れば良いんだろうね?あたし十二単衣とか解んないし。お内裏様なんて尚更だよ。」
「・・・ヒナちゃん。」
マリがグッとあたしを覗き込む。
「な・・・なに?」
「違うよ。お内裏様って男雛と女雛の両方を差す言葉だよ。」
「うそ!?でもお雛様って言うよね。アレが女雛じゃないの?」
マリは首を振った。
「違うよ。お雛様ってお内裏様も三人官女も五人囃子も全部含めたお人形の事を言うんだよ。」
「・・・マジで?」
前世で17年も生きてきて初めて知る衝撃の事実。ってか何でこの子はそんな事まで知ってるの?
「・・・一度、貴女の雑学テストをしてみたいわ。」
「?・・・なんで?」
マリにはあたしの驚愕が伝わらなかったらしい。首を傾げられてしまった。
「それよりさ、ヒナちゃん。」
「ん?」
「別に前世の雛祭りに拘らなくても良いじゃない。」
今度はあたしが首を傾げる。
「どゆこと?」
「私とヒナちゃんの人形を作って貰って飾ろうよ。あとアイナさんとフレアさんとセーラさんも。」
「・・・いいねえ。・・・ソレ良いよ、マリ。そうしよう。」
あたしは俄然やる気が湧いてきた。それなら衣装も悩むこと無いじゃない。
「人形本体は・・・木工ギルドでお願い出来るかしら?・・・衣装は裁縫ギルドで良いわよね。飾りは・・・どうしよう?」
「モミの枝とか梅の枝とかで良いんじゃない?」
「梅があるの?」
「うん、日本の梅の花に似たモノがあるよ。農林ギルドの人に訊けば解るんじゃないかなあ?」
・・・ほう、いい話を聞いた。梅の花さえ在ればソレっぽく為りそうじゃ無い?
「よし、行こう!」
「ドコに?」
「今言ったギルド全部!」
こうしてあたし達はいつもの3人を掻っ攫った。
部屋で3人が尋ねてくる。
「ヒナ、今度はなにをするの?」
「人形作るのよ。」
「人形?」
美少女3人が揃って小首を傾げるなや。おじさんムラムラくるわ。
「あたし達5人の人形を作って飾るのよ。」
「・・・!」
3人の眼が輝く。
「で・・・でも何で急に?」
「3月と言えば冬も終わりに近づくでしょ。4月には新入生も入ってくるわ。だからソレに向けて幸せな出会いと幸せな春の到来を願う女の子のお祭りよ。」
「・・・」
3人は呑み込み切れていない様だ。
「・・・でも、季節は春でも6月くらい迄は寒いよ?」
「それに女の子のお祭りにしなくても・・・」
ああ!君ら、細かい。細かいぞ。そんなもん、ノリと勢いだ。
「良いのよ。こんなのは言った者勝ちなのよ。ソレに春と言えば柔らかい春の陽差し。ホラ、女の子のイメージでしょうが。」
「・・・でも、リューダ様も似合いそう・・・」
ウグッ・・・!た・・・確かに・・・。メチャクチャ似合うかも知れない。彼の外見が漂わせる乙女パワーは底知れないモノを感じる時がある。乙女力で明らかにあたしが負けてる時があるんだ。
あたしは何だか妙に焦って訴える。
「か・・・彼は特別よ!よく考えて見て!エリオット様やエルロア様が春の陽差しの中で柔らかに微笑みながらドレスを纏う姿を・・・!似合わないでしょ!?何ボケてんだと思うでしょ!?」
「・・・ブフッ。」
4人が吹き出した。そして俯いて肩を震わせている。
よし、説得は上手くいったようだ。あたしは額の冷や汗を拭って頷いた。
「でも、それなら・・・。」
アイナ顔を紅くしてモジモジと呟く。
ん?
「エルロア様やリューダ様、あと・・・エリオット様も・・・お誘いしたいわ・・・。」
乙女だねぇ・・・。
あたしはニンマリと笑う。
「じゃあ、誘ってみようか?」
「!・・・うん!」
顔を輝かせるアイナに皆が微笑む。あと、フレアさん?貴女も顔が紅いわよ?
初めての男子寮訪問は流石に緊張する。
「やあ、待たせたね。今日はどうしたのかな?」
男子生徒の奇異の視線にビクつくあたし達に爽やかな声が掛けられた。聞き慣れたエリオット様の声にあたし達はホッとなって笑顔を向けた。
「突然にごめんなさい。」
「いや、構わないさ。暇を持て余してた処だったからね。」
そう答えるエルロア様の視線はフレアに向けられている。
「僕も朝の訓練を終えた処だから大丈夫ですよ。」
リューダ様の優しげな眼差しはあたしに向けられる。
春の陽差しの中、ドレスを纏い優しく微笑むリューダ様・・・の図があたしの脳裏に浮かぶ。うん、この笑顔ならガチで似合うわ。・・・いやいや。
それにしても朝の訓練か。あの夏の日からずっと続けてるんだな。エラいなこの人。そりゃ、強くなるよね。
「ふふふ。そうですか。では今度、新しいメニュー表でも渡しましょうか?」
あたしが言うと
「是非!」
とリューダ様は眼を輝かせた。
その会話にエリオット様とエルロア様が入ってくる。
「何だ?新しいメニュー表が貰えるのか?」
「まさか1人占めは無いよな、リューダ。」
「解ってるよ。」
リューダ様が珍しくぶっちょう面で答えるのを見てあたし達は笑いだした。
あたし達は学園の馬車を2台借りて木工ギルドに向かった。流石に8人も乗せられる様な大型の馬車は無かったんだ。
組み分けは勿論、エリオット様とアイナ、エルロア様とフレアの4人。あたしとマリ、セーラとリューダ様の4人。これに別れる。
「ヒナさん、今度は何をするんですか?」
リューダ様がキラキラの眼差しであたしを見る。おぅ・・・尊いぜ。
3学期を迎えて、男子3人があたしの事をヒナと呼ぶ様になった。
男子に呼ばれるとなんかドキドキする。生まれてこの方、男子に下の名前で呼ばれたことが無かったんで。まさか世界を越えて呼ばれる事になろうとは。しかも3人とも絶世の美少年だ。
「人形を作りたいんです。」
「人形?」
リューダ様は『何故?』と言いたげに首を傾げる。
「今年度の記念に。それと来年度も素晴らしい学年になります様にって願いを込めて。」
セーラがコッチを見る。
『え!?さっきと理由が違う!』
とでも言いたげだ。
よし、ならばあたしは気付かないフリだ。
木工ギルドで、ギルドマスターのバイラルさんが応対してくれる。コタツ作成に協力して貰って以来だ。
「お嬢様が発案してくれたコタツの売れ行きが絶好調でしてね。ハナコ商会から次々と大型発注を頂いておりましてね、何でも北方の国々に飛ぶように売れているとか。ギルド加盟の木細工屋への仕事卸で大忙しです。お陰でギルド加盟を希望する職人が増えてまして大助かりです。」
おお、それは何より。
でも、そっか・・・。大忙しか・・・じゃあ、ちょっと言い辛いな。どうしようかな。
「今日はどう言ったご用件で?」
「ええ・・・」
あたしは少し言い渋ったけど、言うだけ言ってみようと考えた。
「実は、あたし達8人の人形を木彫りか何かで作れないかなと思って来たんですけど・・・」
「木彫り人形・・・?」
あたしは馬車の中でリューダ様に話したコンセプトを話した。別の馬車に乗っていたアイナ達4人がコッチを見る。
『え!?理由が違う!』
とでも言いたげだ。
よし、ならばあたしは気付かないフリだ。
「・・・今年度の思い出の証と来年度に向けての希望ですか。」
バイラルさんが呟く。
「その証に木彫りの人形を・・・成る程。」
「でも、お忙しいのなら・・・」
「いえ、お引き受けさせて頂きましょう。『何が売れるかはやってみないと分からない』と言うのはコタツの件で身を以て知った処です。実際にお嬢様はその立役者。その方の依頼であれば断る理由が御座いません。」
・・・なんというか感動してしまった。
「有り難う御座います。宜しくお願い致します。」
あたしは頭を下げた。
その後、細かく打ち合わせに入った。
「人形は白木で作りましょう。枠組みは此処でやるとして・・・ガラスは鍛冶ギルドに発注しよう。髪は裁縫ギルドに相談・・・ポーズはどうしますか?」
あ、ポーズ・・・。考えて無かった。
あたしは7人を振り返った。
「僕達男子は剣を構えている姿で良いんじゃないかな?」
とリューダ様。
「いいね。5人の姫君を護る3人のナイトか。」
とエルロア様。
「悪くない。」
とエリオット様。
・・・一瞬、春の陽差しの中で柔らかに微笑みながらドレスを纏う3人の美少年の姿を想像してしまい、あたしは込み上げる笑いを押さえ込む為に腹筋に力を込めた。
「じゃあ、女性陣は・・・」
笑いの衝動を収めたあたしは見目麗しい御令嬢方のほうへ振り返った。
「アイナは・・・意外と奥手だからちょっとビクついた感じ?」
「ちょ・・・ヒナ!?」
と何を言い出すんだって顔のアイナ。
「フレアは意外と乙女だから愛らしく微笑んでる感じ?」
「ヒナちゃん!」
と顔を真っ赤にするフレア。
「セーラは黙ってればお淑やかだからお淑やかだけど悪い笑顔で。」
「悪い笑顔って何!?」
と顔を怒らせるセーラ。
「マリは・・・」
あたしがマリを見たときセーラが横から口を出した。
「寄り添う感じよね。誰にとは言わないけど。」
「セ・・・セーラさん!」
とユデダコのマリ。
「あたしは・・・」
「「「仁王立ち」」」
アイナ、フレア、セーラの声がハモる。
「何でだ!?」
とあたし。
「ではソレで良いですね。」
なんやかんやとワチャワチャした挙げ句にポーズはそのままで良いと言う事に落ち着いた。
その後、裁縫ギルド、農林ギルドと回って寮に戻ったのは夕方の門限ギリギリだった。
女子寮に雛壇が届いたのは3月3日を一週間も超えた頃だった。まあ、日時指定はしなかったしね。今までと違ってだいぶ手間の掛かるモノだったから間に合わないだろうとは思っていた。
でも・・・なかなかに良い物が届いたように思う。
木枠のガラスケースに3段仕様の雛壇。
最上段にはあたし達5人娘を模した制服姿の人形が並んでいて左からアイナ、マリ、あたし、セーラ、フレア。
2段目には制服姿の3人のナイトが並んでいる。左からエリオット様、リューダ様、エルロア様が剣を構えているんだ。うん、カッコ良い。
実はアイナとフレアを両端にしたのはコレが理由。エリオット様とエルロア様の位置は妙に両端に寄っている。当人達は知らない事だけどアイナの前にエリオット様、フレアの前にエルロア様が来るように配置している。護ってやってね、御二方。
3段目には木々の枝を飾った。モミ、竹、それと農林ギルドで見つけた梅の枝。そして『ぼんぼり』も作って貰った。
・・・良いじゃない。・・・良いんだけどさ。
後ろで7人が肩を震わせている。
「なによ。言いたい事が有るんならはっきり言いなさいよ。」
あたしがジト眼を投げつける。
途端に笑い声が響きわたる。
「あっはは、おっかしい!」
セーラの声が響く。
「ヒナの仁王立ちが、もう・・・嵌まりすぎていて・・・」
とアイナが震える。
「・・・なんか・・・勝ち気な笑顔が・・・ピッタリ・・・」
フレアが締め括る。
男性3人は声を押し殺して後ろを向いている。
「ヒ・・・ヒナちゃん!私はカッコ良いと思うよ。」
マリが慌ててフォローしてくれる。・・・けど、貴女、お顔が笑っていてよ?
なんつーか。最後にこういうオチかよ。あたしはムクれた。
ふふ。まあ・・・でも楽しい1年では在ったわ。ホントよ?
次回はS7の話になります。
宜しくお願いします。




