M34 冬休み
前回、前書きで今回から3学期と予告していましたが、登場人物達に冬休みを過ごさせてやりたかったので、冬休みのお話を入れさせて頂きました。
・・・ウソです。単純に頭から抜けていました。すみません。
今後ともよろしくお願いいたします。
マリから2つ目のプレゼントを受け取った翌朝。
「何か良い案は出そう?」
マリがコタツに座るあたしの前に紅茶を置きながら尋ねて来た。
「うーん・・・」
あたしは唸る。
冬休みの初日から、アイナ達の「聖夜ツリーに代わる何かを考えてくれ。」と言う依頼にあたしは悩んでいた。何を悩ませるって寮母様にまで期待されているというのがあたしを悩ませている。
年明けに向けて適当にツリーを飾り直せば良いと思っていたのにそうも行かなくなってしまった。
「ねえ、マリ。」
「何?」
「この世界はお正月って何をするの?」
「・・・」
マリは顎に指を当てて考える。仕草が可愛いな・・・いやいや。
「うーん・・・特には何もしないかな。貴族は王都で王家の人が主催の簡単なパーティーを楽しんだりしてるけど、世間一般の人は年明け用の飾りを家や道路に飾って、何か近所で集まって宴会を開いてるみたい。」
「そっか・・・」
なんかつまんないな。
「門松・・・とか在るの?」
「門松?・・・竹がこの国には無いと思うよ。」
「・・・マジで?」
あたしは愕然となる。
「確か、竹って温かい地域にしか生えないって前世に本で読んだ気がする。」
・・・貴女の知識は一体どれ程のもの何だろう。・・・いやそれよりも。
「訊きに行こう。」
あたしはマリの手を掴むとアイナ、フレア、セーラを連れ出して、農林ギルドに学園所有の馬車を走らせる。3人は誘ってみると、其れまでやってた事を放っぽり出して付いてきた。
「竹ですか?」
農林ギルドのマスターのサイネさんが答えてくれた。
「・・・在りますけど。」
「ホントですか!?」
「・・・来月末に使う予定があるんです。」
OH・・・。だよね。都合が良すぎると思ったわ。使い途があるからわざわざ他国から取り寄せてんだよね。
「そうですかぁ・・・」
あたしは露骨にガッカリする。
でもサイネさんは興味を持った様だった。
「竹なんて・・・何に使うつもりなんですか?」
「・・・年明けのモニュメントでも作ろうかと思ったんです。」
「・・・詳しくお訊きしても宜しいですか?」
お、何だ?訊きたいのかい?
あたしはサイネさんに考えを話した。その結果。
「解りました。都合致しましょう。」
「え!?」
サイネさんの返事に驚いて確認してしまう。
「・・・宜しいのですか?」
「はい。お客様がご使用になるのは来月末ですから、今から追加発注を掛ければ間に合います。・・・それよりもお嬢様のお話に興味があります。その代わりと言っては何ですが、完成した物を見せて頂けるでしょうか?・・・あと評判も。」
「勿論です。訪問日を教えて頂ければご案内致しますわ。」
倉庫には何十本もの大きな竹が保管されていた。
「足りる?」
尋ねてくるアイナにあたしは頷いた。
「充分。」
そしてフレアに振り返る。
「フレア、カール商会から『お飾り』って直ぐ届くかしら?」
「え!?・・・い・・・いつまでに届けばいい?」
「2~3日くらいまで位には。」
フレアはホッとした様な表情で頷いた。
「ソレなら大丈夫。どのくらい必要?」
「たーくさん。」
「・・・」
フレアの表情にあたしはウインクしてポケットを弄る。出てきたのは金貨7枚。日本円にして凡そ70万円くらい。
「コレで買えるだけ。」
「す・・・凄い量になっちゃうよ。」
「良いのよ。」
友人の商会を敢えて使う事に意味が在るんだから。カール商会はハナコ商会が少し手の薄い南国方面との交易に強い。お父様同士の付き合いも上手くいってるみたいだし、娘のあたしからも何かアプローチを取っておいて損は無いわ。
そのやり取りを聴いてセーラが笑い出す。
「豪快ね。ホント面白い。」
「でしょ?こういうのは楽しまないとね。」
あたしはセーラにもウインクする。・・・お?頬を赤らめる美少女の図を頂きました。いいよ、楽しみにしといて。
あたしは農林ギルドの人に、長さを指定してカット加工をお願いすると
「よし、じゃあみんなでお昼ご飯を食べに行きましょう。」
と言って、『みんなで外食』の楽しみに色めき立つ4人を連れてギルドを出た。
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
植木鉢に入った門松の原型が大量に届いたのは注文してから3日後だった。カール商会から届いた大量のお飾りも同日に届いた。
「・・・」
あたし達5人は黙って届いた山積みの物資を見上げた。
「・・・多すぎたな。」
あたしが呟くと4人がガクッと姿勢を崩した。
「ま、何とかなるでしょ。」
あたしは大きい門松の前に立つと1つ頷いて、お飾りの入った箱の1つを開けた。
中には縄やら、紙で作られた人型の何かや、用途不明かつ色とりどりのお飾りがギッシリと入っていた。
――・・・確か前世に『注連縄』ってのが在ったわよね。
張り切って用意したは良いけど、実はお正月の飾りのそれぞれの意味は良く知らない。マリに訊いてみたけど彼女も良く知らないみたい。・・・じゃあ適当にやるか。
一番デカい門松は3m程も在るので、脚立を引っ張り出した。マリに門松の反対側に立って貰い、左右の端と端でゆったり感を持たせながら縄を絞めてみる。・・・ソレっぽい?
後は縄の弛んだところに適当な飾りを5個ほどぶら下げた。
「・・・」
下で3人が見上げている。どんな表情だろう?と窺って見ると眼がキラッキラと輝いていた。うん、まあ良し。
その頃には、例の如く暇を持て余した御令嬢方が『また何かやってる』って感じで集まってきた。アイナが尋ねてくる。
「コレも何かコンセプトは在るの?」
・・・きたな。どうも貴族のご子息・御令嬢はコンセプトが好きらしい。
「・・・コンセプト・・・って程では無いのだけれど。」
「まあ、是非伺いたいわ。」
いつの間にか側に来ていた寮母様が尋ねる。
あたしは答えた。
「竹を使いたかったんです。」
「竹を?」
「はい。」
あたしは頷いた。
本来の由来なんて知らないから、マリと2人で捻り出しておいたソレっぽい理由を話す。
「竹って何処までも真っ直ぐに天を目指して伸びていくじゃないですか。ソレに成長も普通の木とは比べ物にならないくらい早いって聞きます。あと、病気にもあまり掛からないし固くて強いし。」
「・・・そうなのね。」
寮母様は感心した様に頷く。
「・・・だから、年始めにこの木を飾ってあたし達『グラスフィールドの令嬢達』も、竹の様に真っ直ぐに伸びやかに成長できますようにって祈りを込めたんです。」
どうよ。完璧でしょ?
「・・・」
あれ?反応無いな。
「・・・」
あれ!?ダメだった!?嘘でしょ!?完璧だと思ったのに!!
あたしとマリが不安げに視線を交わし合ったとき。
「素晴らしいわ!!」
寮母様が珍しく大きな声を上げた。
おうっ!?・・・ビビった。
「何て素敵な祈りなんでしょう。感動したわ。」
寮母様は感激してくれた様だ。・・・良かった。取り敢えず寮母様の期待は裏切らずに済んだみたいだ。
「ヒナ!私達にも何かさせて!」
セーラが下から叫ぶ。
あたしは頷いた。
「勿論。他の皆さんも宜しければ一緒に参加して頂けると助かります。」
いや、マジで頼む。届いた量が予想の遙か上をいっていたので、少人数ではとても終わらせられる気がしないんだ。
結果。聖夜ツリーの時の再現となった。キャーキャー言いながら御令嬢達が物資に群がっていく。今回は門松の数が大小合わせて20個ほど在るのでボリュームもタップリだ。
『娘達よ、存分に楽しんでくれ。』気分はすっかりお父さんだ。
「ハナコさん、飾り付けは何か決まりが在るんですか?」
「特に無いですよ。あたしは竹が使いたかっただけなので、ご自由に飾ってあげてくださいな。」
楽しげな御令嬢達を見てあたしの顔も思わず綻んでしまう。
夕刻には門松の飾り付けは全部終了した。色とりどりの門松が立ち並ぶ。
いやぁ、数の力って凄いわ。50人近くでやってしまうと、あの絶望的な量が綺麗に片づいてしまう。やっぱ戦いは数だよな。
あとは配置だけど・・・。うら若き乙女達の力では動かせない様なデカい3個はロビーに飾るとして、その他は皆が思い思いに飾る事にした。みんなが何処に飾るかが楽しみだ。
「聖夜ツリーはどうするんですか?」
だよな。みんなソレが気になるよな。
「そうですね・・・。飾りは外して、学園が許してくれたら女子寮の横に植えたいですね。――ご苦労様って。」
御令嬢方の嬉しそうに笑うお顔がホントに愛らしい。
「では、学園には私から責任を持って掛け合いましょう。」
寮母様が請け負ってくれる。
後日、年を跨ぐ事も無くモミの木は農林ギルドの方の助けを借りて女子寮の横の広い庭に植え変えられた。
「ホント、貴女の側に居ると毎日が楽しいわ。」
「へへへ。いやぁ。」
アイナの微笑みにあたしは照れ笑いを浮かべる。
そして例に拠って学園が、あたし達5人が手掛けた一番デカい門松を中央ロビーに寄越せと言ってきた。・・・まあ予測はしてたので
「中央ロビーじゃなくて正門前に飾るなら良いですよ。」
と条件を付けて了承する。
どうせ取られるなら外を歩く人達にもアピールしないとね。とはいえ、4人は不満げだったが。特にセーラが。結構怒ってたな。
ついでにもう1つデカいのを男子寮のロビーに提供した。
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
新年。
あたしとマリは新年のご挨拶をした。
「新年明けましておめでとう御座います。」
「おめでとう御座います。」
「今年も宜しくね、マリ。」
「うん、ずっと宜しくね。ヒナちゃん。」
2人でニッコリと笑い合う。
いやー、好きな子と迎えるお正月なんて良い新年だわ。
「そういや、コッチでは新年を何て呼ぶの?」
「新年。」
「え?」
「新年としか呼ばないよ。」
そっかぁ・・・味気ないな。
「年賀状とかお年玉とか初詣とか。」
「無いなぁ。」
そっかぁ・・・味気ないな。
サイネさんは門松を見に来てあたしとマリが捏ち上げたコンセプトを気に入ったらしく、来年の新たなイベントとして動くそうだ。今度、お父様のところに行くって言ってた。
そして案の定、あたしとマリはお父様に呼ばれて聖夜ツリーと門松について根掘り葉掘り訊かれた。グラスフィールドの聖夜ツリーがなかなか好評だったらしい。実際にツリーを見た人達は少数だけど、国の新規イベントとして新しい需要を期待出来るそうだ。
『今までは新商品を生み出す事ばかりを考えていたが、ヤマダとマリーベル嬢を見習って新規イベントの開発にも力を注いでいきたいと思っているよ。』
ソレはいいアイデアです、お父様。楽しい事はたくさん在った方が良いもんね。
それならば、とあたしはハロウィンの事も話して置いた。捏ち上げたコンセプトも含めて話をするとお父様は感心した様に頷いていた。
『コレからも何か思いついたら是非教えて欲しい。』
なんてお父様が言うモノだから嬉しくなってしまった。出来る男に期待されるのは嬉しいよね。
ついでにコタツの追加発注が好調らしくて、あたしは追加の取り分で金貨282枚を頂いた。2820万円!!
14歳の娘にあげる額じゃ無いでしょうが。
『お前はお金の使い方を良く理解しているから。』
お父様はそう仰ったけど、いや限度があるでしょう?・・・なんて建前を言い訳にして有り難く頂いたけどね。何しろ聖夜ツリーと門松で金貨を30枚くらい使ってしまってたから。残金は金貨で340枚くらい。
ふっふっふ。コレで何か思いついても自由にやれそう。




