買い物4
八束も頻りに頷いている。
簡単に、『異世界チート』なんて言っても、本当に『チート』するのは、簡単ではないだろう。特に、俺達はただの学生でしかないし、異世界の人間がどんな反応をして、世間にどんな影響を受けるのか。なんて分かりっこない。
例え、その道の専門家だったとしても、異なる世界の反応を予測するのは、難しいんじゃないか?
「まあ、小辺さんの実家、飲食店だったらしいし、その手伝いをしてたから。ってのもあるんじゃね?」
「え。飲食店だったのか」
道理で、あんなに手際よく料理できる訳だ。店の手伝いで、お客さんと接する機会があったなら、普通の高校生よりは、経験や知識があると思うし。それにしたって凄いと思うけど。
「寧ろ知らなかったのか……。かなり有名な話なんだが」
そ、そんな有名な話だったのか……。い、いや、でも、両親共に違う所、出身だし……。もっと言ったら、俺自身、あそこで生まれた訳じゃないから、知らなくても、仕方ないよね?友達が少ないのは、関係ないよね?
黙り込んだ俺に、何かを感じ取ったのか、呆れたようにため息を吐かれた。
「まあ、あの感じだと、暫らくはここに居そうだし、仲良くしておくのもいいかもな」
「私もそう思いますね」
……今までの話を聞いた後の、その発言。利用する気満々にしか見えないんだけど。アンジェラさんは兎も角、相変わらずの八束である。流石だ。
「と言うか、その話何処から聞いたの?」
「俺は、何時も話してる奴らからだな。あ、あと本人」
「本人?!小辺さんと知り合いなの?!」
「最近知り合った」
まさか、もう実行していたとは……。行動が速過ぎるだろ。
「それって有名になった後じゃないの?良く邪険に扱われなかったね」
宝くじじゃないけど、名が知れられた後に、話しかけて来る奴なんて、信用できない。ふつーは、それ以前から、仲良くしていた人を、優先するだろう。
「噂になる前に、話しかけたからかね。後純粋に、俺の話術?人望?」
……なんだこいつ。
まあ、外面が良いことだけは、認めるが。
小辺さんが男好きなイメージは無い。けど、女子である以上は、どうしても八束の印象は良くなるだろう。残念な事に。
少なくとも僕とか、まあ、例に出したら申し訳ないけど、影井が話しかけるよりは、好印象な筈だ。
流石に、神谷より好かれてるってことは無いと思うけど……。
いや、本性が分かっている所為で、そう思ってしまうが、他の人から見たら、神谷と同じくらい?もしかしたら、それ以上に、八束が好かれてる可能性も……あるのか?分かんないけど。
「……つまり、今回みたいな事が起こると思って、事前に小辺さんに話しかけてたってこと?」
実際言葉にしてみると、なかなか効率主義すぎる……と言うか、やっぱり、失礼なんじゃ……?
ただ、ここまで予測できてて、行動に移してるとなると、最早、失礼を超えてる気はするけど。
んー、なんて言うか、そこまで極められるなら、それを一つの才能として、認めるべきなのでは?みたいな不思議な感覚が湧いてる。
ここまで来ると、もう才能だよね。うん。
「いや、もしかしたら、そのうち、日本食作ってくれるんじゃねーかな、と思って。仲良くなったらおすそ分け有りそうだろ?」
……違った。
違うのは違うんだけど、なんとも否定しにくい理由だ……。確かに。前の世界のご飯は恋しい。今は大丈夫だけど、もっと時間が経過したら……うん。
あんまり考えたくは無いけど、残念ながら、すぐ帰れる保証もない。って言うか帰れる可能性の方が低い。
そんな中でも、日本食が食べられたら、幾らか気は紛れる気はする。
少なくとも、今のトマトだらけの料理を食べてるよりは。
仲良くなったら、お裾分けもして貰えるかも?だし、八束が貰うなら、俺も貰う……んだろうな。
目の前で八束が美味しそうに食べてるのに、和食の誘惑に勝てるとは思えないし……。
そんな風に、恩恵を授かる身としては、八束の事を批判できる筈もない。
多少モヤモヤしてしまうものの、八束の行動を黙認するしか選択肢はないのだ。どれだけ罪悪感を覚えた所で、結局一番大切なのは、我が身でなのある。大変な目に遭っている人は、出来る限り助けてあげたいとは思う。けど、自分が不利益を被ってまで、助けたいとは思わない。
行動に移さない同情や罪悪感なんて、自己満足以外の何物でもないだろう。そう考えると、八束の様に割り切っている方が、潔くて逆に良いのかもしれない。




