買い物5
「……まあ、確かに。ただ、こう……程々にね」
まあ、自分が偽善者だって気付きつつも、ついついこういう事を言ってしまうんだけど。何も行動を起こさないよりは、マシだと思いたいのかもしれない。
「そりゃ、嫌われたら、意味ないからな。そりゃ気を付けるよ」
いや、そういう意味で言ったんじゃないんだけどな……。これ以上説明する気力もなかったから、放置するけども。
「そういう事ですので、この資金は遠慮なく受け取っていいと思いますよ」
俺の葛藤が見透かされたのか、アンジェラさんは、こちらを安心させるように、ほほ笑む。
あんまり納得は行ってないけど、ここ迄、気を遣わせてしまったら、拒否する訳にもいかない。
「ありがとうございます」
お金を受け取ろうとして、地面にぶちまけられた硬貨が視界に入った。思わず、溜息が出たが、仕方ないので、袋の中に集める。何故、八束が散らかした物を、俺が片付けなければ、ならないのか……。執事だと言うなら、逆に俺の物を片付ける立場だろうに……。
と言うか、片付けはしなくていいから、無駄に散らかすのは辞めて欲しい。しかも、人の物を……。
「ところで、これってどれぐらいの金額なんだ?」
八束が、俺の手の中を覗き込んで、ぼやく。態々覗き込むくらいなら、そこに落ちてるのを、拾えばいいだろうに……。ついでに、拾うのを手伝うとかさ……。
まあ、お金を拾うくらいなら、別にいいんだけども。
確かに、八束の言う事は一理ある。
何となく貰ったけど、どのくらいが価値があるかは、深く考えてなかった。お小遣いと言うくらいだから、何となく千円くらいかな?と思ってたけど。
硬貨の価値や、物価を知るのは、大事だ。今は城に閉じ籠っているが、いつかは、追い出されるかもしれないし……。その時に、何も知らない状態で放り出されるよりは、この世界の知識が少しでもあった方が、楽になるだろう。特に、お金関連の知識は、何をするにも、いるだろうしな……。
それに何より、今から買い物をするのに、物の価値が分からなかったら、話にならないだろう。買おうとして、お金が足りませんでしたー。なんてことになったら、恥ずかしすぎる。
「どのくらい……5000ヴァロですね」
……聞いてみたものの、どれくらいの価値なのか全くわからない。ヴァロと言うのが、お金の単位なのは分かるが……。
アンジェラさんも、この説明では足りないと感じたのだろう。それでも、上手い説明が浮かばないのか、難しい顔をしている。
お互い、相手の世界について詳しくないから、すり合わせも難しいのか……。
然も同じ世界ならまだしも、世界すら違うから、基準となる物も分からない。車なんかはこの世界になさそうだし、白米なんかも、見てないなあ……。
パンは、この世界にもあるが、製造の手間が違うだろう。前の世界なら、工場で大量生産も出来たが、この世界に工場があるとは思えない。そんな物を比較しても、正確な価値は分からない気がする。そもそも、この世界では、食パンも見かけないし……。
「うーん。じゃあ、100ヴァロで、大体何が買えそう?」
「そうですね……。トマト一個分くらいでしょうか……」
「他に買えそうなのは?」
「うーん……あ、掌くらいの鳥が、それくらいで売ってましたね」
え?鳥……?掌くらいの大きさの物なら、ペット用だろうか?まさか、そんな小さい物を食べるとは思えない。
それにしたって、トマトと鳥が同じってどういう事なんだ?鳥が安すぎないか……?生き物の値段は良く分からないが、カブトムシですら、かなりの金額だった記憶があるが……。この世界では、ペットが安い、のか……?
「鳥……?食べる用か……?」
「いや、流石に食べる用では無いんじゃない?」
俺の思考と真逆の発言に、思わず突っ込んでしまう。アンジェラさんも、若干、八束に引きながらも頷いた。
「そうですね。ペット用の子です。お祭りとかで、よく見かけますよ」
あー。なるほど?金魚すくいみたいなノリだろうか?それならまだ、理解できなくはない。
八束的には、あんまり納得できなかったのか、顔を顰めた。
「まあ、実際に出かけて商品見た方が、分かるかもしれないね。百聞は一見に如かず、って言うし」
こうやって問答だけで、情報を詰めるのは無理があるだろう。話せば話すほど、謎が増えて話が脱線しそうだし……。それよりは実際に色んな物の値段を見た方が、お互い楽だと思う。
「確かにな……」
「では、出かける準備をしましょうか」
そう言うと、アンジェラさんは立ち上がる。慌てて俺達は彼女の後に続いた。




