買い物3
異世界に来て、強いスキルを得たら、はしゃいじゃう気持ちは、分からんでもない。俺も初日にぶっ倒れたし。
「でも、閉じこもってる奴らの方が、俺らより、金は使ってねーだろ」
そう言えば、異世界転移した日から、ずっと部屋に閉じ籠っている人達もいるらしい。こちらも気持ちは、分からなくはない。と言うか、はしゃいでいるより、余程、健全だろう。
今後家に帰れるか分からないし、仮に帰れたとしても、地球で何年経っているのか分からないのだ。最悪、浦島太郎の様に、家族は全員死んでいた。なんてことになっていたら、本当に救いがない。それなら、帰る方法も探さず、部屋に籠っていた方がマシかもね。
「……まあ、そういう方々は、もう〝そういう者〟として、扱われているみたいですね。それよりも、今行動していて、戦闘向きのスキルを持ってない方に、注目が集まっています。コナベ様の活躍が大きいようですね」
「確かに。あれは俺が王でも贔屓したくなるわ」
「え?何があったの?」
訳知り顔で、頷く八束。どうやら、二人は事情を知っているようで、置いてきぼりにされた気分である。
「お前……もっと勇者事情に詳しくなった方がいいと思うぞ?」
……そんな呆れた顔で見られる事か?ていうか、勇者事情ってなんだよ。意味は分かるが、変な造語を作るな。寧ろ何故、八束はそんなこと知ってるんだ?結構な割合で、俺と一緒にいる筈だから、誰かと話す暇なんて、ないと思うんでけど……。
「コナベ様が、異世界料理を城の方に振る舞ったんですよ」
コナベ様って、小辺真希さんの事か。
彼女は料理上手だったから、料理を皆に振舞っても違和感はない。確か、家が大衆食堂を経営してたんだっけ?俺は行った事ないけど、結構評判の店らしい。
家庭科の時も、断トツで手際良かったし、すごい美味しそうなの作ってたなあ。因みに、八束も割と手馴れてた。
俺?
……聞かないで欲しい。
アンジェラさんにとって、異世界って事は、俺たちの世界の料理って事だよね?何を作ったんだろう。和食か……?いや、でも材料なさそうだよなあ。
「因みに作ったのはコロッケらしい」
相変わらず、思考を読み取られたかの様な、タイミングだ。
「コロッケ?コロッケってこの世界には存在しないのか?」
確かに、この世界で食べた事は無いけれど、洋風っぽい世界だからね。庶民中心に、普及してるもんだと思ってた。
「なんか、クリームコロッケならあるらしいが、中身がポテトと玉ねぎと肉を刻んだ物だったのが、斬新なんだとよ」
「でも、城って身分の高い人しかいないよね?なんか今までの物より、安っぽくなってるけど、それでいいの?」
「その辺は、勇者ブランド?あとは物珍しさ?とかか?」
八束もイマイチ納得してないような返事である。そんなに勇者って凄い物なのだろうか?
自分と同級生しかいないからか、余計、分からない……。
「魔物に脅かされている現状、そこまで差し迫っては居ませんが、食料問題も浮上しつつありますからね。国側の思惑もあるのかと」
「ええと、どういう事?」
アンジェラさんが口を挟んでくれたが、イマイチ話が見えない。
「クリームソースは、作るのにお金も、時間も、掛かります。然し、ジャガイモや玉ねぎなら、比較的安価に手に入ります。それ等を付け合せではなく、メイン料理として、利用できることに価値があるのです。大量の油で揚げるので、庶民は食べられませんしね」
あ。庶民は食べられないのか。まあ、確かに。あれだけ大量の油で揚げてたら、お金がかかるよな。
揚げないと、食べられない訳じゃないから、余計に、やる必要がないってことか。
「なるほど。富裕層のプライドを守らせつつ、ちょっとした節約を進めてくって、方針な訳か。確かに、ジャガイモなら、腹は膨れるし、高級肉使えば、さらに付加価値がつきそうだな」
あー。国産牛コロッケ、みたいな。普通のコロッケより割高なのに、実際食べてみると、『あれ、お肉さん何処に……』なんてことも少なくない。それでも、『国産牛』と言う名前を見ると、また買ってしまう。それ程までに、魅力的な響きなのだ。
「それにしても、前の世界でリーズナブルだったコロッケを、城の人に提供する発想……って言うか、度胸?兎に角、凄いと思う」
「実際に成功してるしな」




