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武術訓練なう

「なあ、聞いてるか?」

「癇に障るんだけど」

 俺の言葉に八束は心外そうな顔をするが、こっちの方が心外だわ。

「いいか?お前はさあ、能力があるから、余裕かも、しれないけども。こっちは、そうは、いかないんだよ」

 はあ、はあ、と息を何度も吸って、吐いて、を繰り返す。足が重い。話す体力があるなら、走る方に力をまわしたいんだが。


「余力があるんだろ?そんなこと言いつつ。分かってんだぞ。俺は」

 まあ、そうなんだけど。この訓練をしているのは戦闘向きの能力の持ってない人ばかりだ。そして戦闘向きの能力のない人は前の世界の時から運動が苦手な人が多かった。ミューさんが言っていた性格に基づいた職業チョイスと言うのはこれを指していたのだろう。身体強化されているとはいえ、もともと運動が苦手な人たちだ。ついていくのは容易い。俺も身体強化されているみたいだしな。

 俺達は下手に目立たないように丁度真ん中らへんを走っている。まあ、確かに全力ではないよ?ないけども、全力ではないとはいえ疲れるのだ。何せ距離が半端じゃない。というか何周走ればいいのか分からない。一周する度に「もう一周だ!」と言われ続け、かれこれ十周目だ。

 これ凄い疲れるんだよな。身体的には勿論、特に精神が。

 人間は予測する生き物だ。何をするにも、こうなるだろう、という結論を予想せずにはいられない。

 そんな人間にとってゴールが見えないということほど、辛いことはないだろう。多分。実際問題俺は辛い訳だし。

 俺は息を整えながら、そんなことを考える。これで少しは落ち着いて話ができるだろう。


「はあ?俺が嘘ついてる、って言いたいのか?」

「勝手な予測だが」

「頑張ってるのにか?」

「勝手な予測だが」

「岩石並みにぶれないな……。まあ、あってるんだけどさ」

 同じ事の繰り返しって影井と話した時を思い出す。今回は質問を繰り返した俺も悪いんだけど。それでも同じこと言うのはずるいだろうに。


「さっさと認めればいいものを……」

 やれやれと肩をすくめる八束。

 そんなに飽きられるほど、俺はしつこかったか?いや、そんなことは無い。

 おそらく言葉が見つからなかったのだろう。だとしても、そこまで力を入れて言う必要もなかっただろうに。


「そう言えば、この中に俺の他に戦闘スキルを持ってるやつはいるのか?」

「肩身が狭いだろうね、そんなやつがいたら。まあ、いないよ」

「よく考えて行動してない感じがするな。それともこの国を信用してるってことなのか?何にせよ、警戒不足と言わざるを得ない。能力を隠していれば、この国と敵対関係になった場合も、割と有利でいられるかもしれないのに。やっぱり能力バレてるのとバレてないのとでは違うと思うからね」

 こんなに長く話しているのに、涼し気な顔で八束は言う。元から俺より体力はあった八束だけど、それでも、ここまで楽勝な雰囲気は出てなかったはず。やはり、スキルの力は凄いらしい。なんて羨ましいんだ。

 しかもそのスキル、俺と契約したから、出てきたものなんだよな?つまり俺のスキルじゃん。なんでこいつが楽してるんだよ。狡い。

 楽できてるのは俺のおかげなんだから、少しは感謝してくれても良くないだろうか?

 いや、別に感謝しなくてもいいけど。疲れているからだろうか、思考が変な方向に向かっている気がする。


「念の為に、って思う人は少ないのかもね。先生や姫様もいるし、これだけの能力があれば問題ない、って過信してるのかもしれないし」

「しっかりしろよ、って俺は言いたくなるわ。まあ俺の事じゃないからどうでもいいんだけどな」

「な、な……なんて薄情なんだ!って言うかこれ、いつまで続けるの?そろそろ面倒になってきたんだけど」

 八束が「暇だからしりとりしながら会話しようぜ!」と言ったのが全ての発端だった。初めはちょっと面白かったものの、だんだん考えるのが面倒になってくるし、自分の言いたいこと言えないし、嫌になってきていた。


「ちょっとした頭の体操になっていいだろ。だって暇じゃん。話すことないじゃん」

「話さなくてよくない?」

「コミュ症のお前には分からないかもしれないが、俺にとっては沈黙が辛いんだよ」

「そう、俺は沈黙に慣れてるからな……って違うわ!俺も沈黙は辛いし。

 そういうことじゃないでしょ。今は話すことが辛いんだよ」

「なんか話せよ」

 全然話聞いてないな……。どうして俺の周りには話の聞かない男ばかり集まるのか……。

 仕方がない。俺はしぶしぶ口を開く。

「なんかあっちは楽しそうだよな……」

 そう言って俺が見たのは、訓練場?の真ん中あたり。そこでは神谷達スキル持ちが剣(のような物)を振るっていた。

「なんか美人な騎士様もいるしなあ」

 確かに。前の世界では見たこともないような髪と瞳の色をした、前の世界ではテレビの画面ぐらいでしかお目にかかれないような整った顔立ちの女性がいた。鎧を着こみ、剣を握っている。

 神谷はその人に教わっているらしい。


「ってか、美人に興味あるの?」

「いや、ないけど」

 なんだそれ。興味ないのに興味あるふりされるとなんか腹立つんだけど。お前が本気になったら、あの女騎士も落とせるかもしれない。とか考えちゃうじゃん。


「いや、でもなんかあっちは楽しそうだよなー。とは思うぜ?」

「あっちにいた方が良かった?」

「いや、疲れそうだからいいわ」

 そう言った八束は何を思ったか、黙って走り始める。

 と思ったら、騎士が見えてきていた。凄い目敏いな。

 こうやって大して真面目でもないくせに、教師からのポイントを稼いでいるのだろう。本来は俺の方がまともなのに……。


 ・


「次は腹筋だ。二人一組になれ」

 何周まわったか、数えるのも馬鹿らしくなってきた頃、やっと走るのを止めろと言う指示が出た。

 後ろを見てみると、皆息も絶え絶えである。

 最後の一人が走りきるまで休憩。その後、こう声を掛けられたわけであるが……。


「まあ、俺達二人で組むよな」

 そう言って、八束が俺を見る。すると影井がこちらにやってきた。

「ねえ、一緒に……」

 そして、八束を見て固まる。かと思うと、きりっと睨みつける。まるで親の仇でも見ているかのようだ。俺が訂正しなかった所為なんだろうけど。

 影井って思ったより攻撃的なんだな……。睨んでくるなんて思わなかった。彼は大人しいイメージだったからなぁ。


「え、えっと、三人で一緒に組むか?俺が二人の足持つから……」

 あまりの眼力にタジタジになった八束はおずおずと言う。

 然し尚も睨みつける影井。影井の警戒心を弱める為、八束が愛想笑いをするが効果はないようだ。

 八束が何とかしろ、と言いたげにこちらを見てくるが、どうしようもない。今更、八束って実はいい奴なんだよ~。なんてどの口で言えばいいのだ。今は時が解決してくれることを待つしかないだろう。そんな思いを込めて八束に微笑みかけた。すると彼はこちらを睨みつけてきた。俺があてにならないと感じとったのだろう。おお、怖い怖い。

 二人と言うか一人が睨み、一人が愛想笑いをしている中、騎士の声がかかる。

「おい、そこ。早くペアを決めて腹筋をしなさい」

「あ、あの」

 弱弱しい声だ。その場にいた全員の目がその声の発生源に向く。

 そこに立っていたのは、八束の事が好きなロリメイド、フォルちゃんだ。なぜこんなところに……。

「何故こんなところに……」

 八束も同じことを思ったのだろうが、声に出てるぞ。俺と違うところは純粋な疑問だけではなく、若干恐怖の色が混ざっているところか。

「丁度、一人人数が余るんですよね?なら、私がヤツカ様と組みます」

 そう、にっこりと八束に向かって笑いかけた。対する八束は苦虫を潰したかのような顔をしている。

「大丈夫か?お前腹筋出来るのか?」

 心配そうに声を掛けるが、俺は知っている。奴が本当に心配しているのはフォルちゃんじゃない。自分自身なのだ。

「心配してくれてありがとうございます。ですが心配いりません!体力には自信がありますから」

 八束の最後の悪あがきは無駄に終わった。本人にこういわれてしまえば、引き下がるほかない。

 公衆の面前で幼い女の子にこういわれて、「いや、お前が嫌いだから」で断るのはなかなか印象が悪いしな……。

 少女は嬉々として八束の方に向かう。彼女もなかなかあきらめが悪い。八束に嫌われていることに、気付いてないのだろうか?気付いてないんだろうな……。恋する乙女は盲目と言うし、そもそも八束は嫌いな奴にも笑顔で接するタイプだからなぁ。

「なんかよく分からないけど助かったね」

 そう言う影井も笑顔だ。

 然し助かった、とはどういうことなのだろう?そんな俺の疑問が顔に出ていたのか、影井は答える。

「だって絡まれてたんでしょ?」

 そう言われて気付く。なるほど、影井からはそう見えるのか……。つまり、俺の事を助けようと思いがあふれ出た結果の睨みだったんだな。

「持久走の時もずっと目を点けられてたよね?早くて追いつけなかったけど……」

 ごめん。と声を振り絞りだす影井。なんか……罪悪感が凄いんだけど……。こっちこそ、ごめん。別に虐められてたとかじゃなく、ただ友達と話してただけなんだ。

 でもまあ、気にしてはいなかったけど、言われてみれば確かにすれ違った影井の目は八束を睨んでいた気がしないでもない。俺たちに話しかけようとしていたようにも思える。

 影井が俺たちに追いつけなかったのは、特に影井の体力がないという訳ではなく、異世界補正が彼にはないに等しいからだろう。事実、元の世界でもそんなに運動神経は悪くなかった。

 実際に走ってる時よりも、補正無しの人と比べたときの方が、異世界補正ってやっぱり凄いんだな、と実感する。影井には悪いんだけどね。本当。せめて、どうにかして彼に彼の能力を教えられないだろうか?


「じゃあ、僕が先に腹筋するね」

 そう言って影井は地面に寝転がった。

 俺は影井の足を押さえながら、八束の方を見る。すると、死んだ目をしながらフォルちゃんの足を押さえている。その姿はかなり哀愁を漂わせていた。南無阿弥陀仏。

 足を握られているフォルちゃんは必死に腹筋している。自ら言っただけはあってなかなかの速度だ。

 顔が赤いのは腹筋のせいか、八束に足を掴まれているからなのか。

 傍から見ていても恋人、と言うよりは親の違う仲の良い兄弟、にしか見えない二人だけども……。

 二人の仲はどうなるんだろうなぁ……。


「今、何回、?」

 はぁ、はぁ、と息を切らしながら、確認してくる影井。確認する体力があれば腹筋すればいいだろうに……。

「二十回だね」

「うー」

 俺は、腹筋する影井を見て、次は俺の番か、と深々とため息をついた。腹筋得意じゃないんだよな……。


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