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魔術訓練.......と言うか授業?

 昼食後、俺達は少し大きめの部屋に案内された。

 そこには沢山の机と椅子と教壇があって、前の壁には黒板のようなものがあり……、まあ、つまり教室のような部屋だった。

 前の世界で言うと理科室がイメージと近いだろうか?

 どうやら魔術の訓練は訓練と言うよりは授業に近いらしい。


 教えてくれるのは、結構歳のいったおじいさんだ。優しげな口調で語り掛けて来るような声。

 ただでさえ眠くなりそうな音色にプラス、午前中体を動かしたことで疲れが溜まり、今はお腹いっぱい。

 ダウンする生徒が続出していた。

 皆、気持ち良さそうに寝ている。

 その様をおじいちゃん先生は目を細めてみているわけだけど。


 俺?俺は寝ないよ。正しくは寝ないわけではなく、寝れないんだ。正直なところ眠くて眠くて仕方がないんだが、寝ようとすると隣にいる八束が抓ってくる。何の罰ゲームだよ。


 隣をちらりと伺ってみる。

 八束は今日の午前中ぐらいの運動じゃ疲れもしないようで寝る気配はない。

 逆隣の影井はぐーすか寝ている。羨ましいかぎりだ。

 八束は影井を起こす気は無いようである。席が遠いから、というのもあると思うが、一番は起きられると面倒だからだろう。暇さえあれば八束を睨むからな、影井は。

 いつの日か二人が仲良くなってくれることを祈ろう。

 って言うかこの席、すごい日当り良好で丁度いいぐらいの太陽が差し込んでくるんだよな……ポカポカしていて……それでもって…………。


 痛っ。

 八束につねられた。

 然し、それでもまだ眠い。恐るべしおじいちゃん先生の子守唄よ。

 ちゃんと話を聞こうとしても、内容が頭に入ってこないんだよなぁ……。

 そうだ。八束に聞こう。

 八束ならちゃんと話を聞いているだろうし、馬鹿ではないので理解もしているはずだ。


「ねえ、あの人さっきから何言ってるか分かる?」

「さあ?」

 え。なんだこいつ。寝てないのに話聞いてなかったのか?

 俺が余程冷めた目をしていたのか八束は慌てて言葉を重ねる。

「いや、本当に何言ってんのか分かんないんだって。難しくて」

「八束……お前ってバカだったの?」

「いや、そうじゃないとは思うんだが……というかおかしくないか?この状況」

 おかしい?何がおかしいというのだろう?と言うか眠くて頭が働かない。あーねむい。

「だってよ、みんな午前中に運動してて疲れてるのは分かるけどさ。この寝る率は異常じゃね?しかも、この教室にいるのは魔法のスキルを持ってない人達。ってことは大体運動スキル持ってる訳よ。すると、武術訓練の時にそこまで厳しくされてないんじゃない?なのに眠くなるっておかしくね?……って聞いてる?」

「聞いてるよ、聞いてる」

「だからよ、なんか見てくれない……?」

 そんなこと言われても、何を見ればいいのやら……。とおじいちゃんを目を凝らして見てみると何か見えた。

 ……え?

 眠りの呪文?マジ?

 なんでこのじじい眠りの呪文かけてきてるんだ?

 なんか驚きすぎて目が覚めてきたわ。いや、眠いけど。

「何が見えたのか?」

 八束が急かすように聞いてくる。

「いや、俺達眠りの呪文を掛けられてるみたいなんだけど……」

「はあ?!マジかよ……だからみんな寝てるのか……じゃあ、なんで俺は眠くないんだ?」

 不思議そうにしている八束の方をじっと見た。

 どうやら彼は執事のスキルで眠り耐性がついているらしい。

 まあ確かに執事って大変そうだからな……。ご主人の為に身を粉にして働くってイメージ強いし。いや、でも羨ましい。てか眠い。

「あー寝るな寝るな。これどうにかなんねえの……って、ああ、そうだ」

 八束が何やらゴソゴソと動き出すが、目蓋が重くてよく見えない。

 ふと気が付くと、カップを手渡された。温かい。


「……これは?」

「とりあえず飲め」

 だそうなので言われるがままに飲んでみる。

 口にした瞬間、はっと目が覚めた。味は……苦い。良薬は口に苦しと言うことだろうか?どうせなら美味しくしてくれればよかったのに……。

「前、俺の運んだ料理に能力を付与できるって言ったが、お茶を入れても同じ効果があるらしい。それには眠気覚ましの効果を付与させてみたんだが……。どうだ?」

「効果覿面だよ……っていうかそのお茶はどうやって入れたの?」

「ああ、なんかお茶セットなら自由に出し入れできるっぽいんだよね」

 そう言ってティーセットを出したり消したりしている。なにあれ凄い。

「便利な能力だなあ」

「だろ?」

 俺もなにか出せないかと目を閉じて力を込めてみるが、案の定何も起きない。悲しい。

 八束に何やってんだこいつ……というような目で見られた。悲しい。


「と言うか、なぜ眠りの呪文なんてかけられてるんだ?俺達」

 と聞かれてもなあ。

 この国の人達は俺達勇者が強くなるのは大歓迎、の筈なんだけれども……。

 八束は声を潜める。

「なあ、この爺さんが敵の刺客、ってパターンはないのか?正体は実は魔物で……」

「いや、魔物ではないね、れっきとした人間だよ」

「じゃあ、魔物に協力する人間で、俺たちに殺意を……」

「持ってないね。心の中で謝ってるよ」

「じゃあ娘を人質に取られ……」

「あの人、天涯孤独の身だったらしいよ」

「……」

 八束にじっと見つめられ、ゾッと寒気に襲われる。

「な、なんだよ……」

「いや、お前の能力って便利だけどつまんないなあと思って」

 つまんないってなんだよ。つまんないって。まあ俺もこの能力が好きなわけじゃないけども、今、この時はこの能力があって良かったと思うよ?ある程度、相手のことはわかるし。

 いや、八束のセリフも俺がこの能力があると分かっているからこそ出た、慢心のようなものなのかもしれないな。

 然しながら、この能力があるからと言って答えが全てわかる訳でもない。あのおじいちゃんが心の中で眠りの呪文をかけている理由を思ってくれない限りは。

 だからこそ、考える必要がある。


「そう言えば、武術訓練の時も、やけに俺達だけ、厳しかったよな?」

「俺達ってのは、スキルを持ってない奴らに、ってことか?」

 俺は八束の確認にこくりと頷く。

「確かに、言われてみればそうだな、まるで俺たちが根を上げて、それ以降訓練に来ないように仕向けてるかのようだった……」

「でも、俺たちを育成したいならそんなことはしないよなぁ。スキルが無いものは用無しってことなのかな?」

 2人でうーんうーんと唸る。然し、それっぽい回答は思い浮かばない。

 あまりにも必死に考え込んでいたものだから、近づいてくる影に俺たちは気が付かなかった。


 ・


「お主らは起きておるのか?」

 そう声をかけられた時は飛び上がりそうなほどびっくりした。顔を上げてみると、そこにいたのはついさっきまで教壇にいたはずのおじいちゃんだった。

 いつの間に、ここに……と思っているのもつかの間、

「とりあえず、ここじゃなんじゃから、移動しようかの」

 と別室に案内された。

 この部屋はおじいちゃんの研究室のようで、分厚い本や、よくわからない物体が転がっている。

 そんな中、俺たちは八束の入れたお茶を飲んでいた。


「して、お主らはなぜ儂の呪文が効かなかったか、教えてくれぬかのう?」

 声をかけられた時は驚きすぎて気が付かなかったが、このおじいちゃん、心無しか嬉しそうである。やはり、授業妨害は本意ではなかったらしい。


「俺の職業が実は執事でして……眠り耐性があったんです」

「ふむ、それなら魔法系スキルがないのに眠らなかったのは納得じゃな。ではそこの彼は?」

 そう言って不思議そうにこちらを窺う。

「彼は俺が無理やりおこしました。スキルで」

「ふむ……そうか……」

 おじいちゃんは尚も此方を踏みするかのように見つめてくる。

 何故そんなに見てくるのだ。背中に冷や汗がつたうのが分かる。別にまだ僕たち嘘ついてないよ……。

 あ、八束はついてたわ。あいつは知らん。いざとなったら、切り捨てよう。


「ところで、何故眠りの呪文なんて唱えてたんですか?」

「ああ、その点は謝罪させてほしいのじゃ。本当に申し訳ない……」

 深々と頭を下げるおじいちゃん。

 その姿は誠心誠意謝っているようにしか見えなくて、心の中でだけど、じじいと呼んだことを後悔した。多分このおじいちゃんにも理由があったのだろう。(実際、見てみても嘘はついてないようだし)それを一方的に断罪することなんてできない。

 俺はおじいちゃんに頭を上げるように言った。八束は少し不満そうだったが、無視だ。無視。

 おじいちゃんはそれでも何度も頭を下げ、顔を上げる。

「こう言うと言い訳がましいと思うかもしれんがのう。儂としても、本当はきちんと教えたんじゃ。けどのう、教会から圧力がかかっとってのう……」

 俺達は自然と顔を見合わせた。あの教皇がいる教会だ。それだけでも心象が悪いのに、影井に嫌がらせをするミケと繋がっている可能性もある訳だ、これが。ミケがこの世界と連絡手段を持っているのなら、信託、とか言って教会の奴らを操ることも出来るだろうから。

 全く別の思惑で動いている可能性もなくはないけど、神と教会っていう点から不思議と繋がっているように思えてくる。いや、俺達が勝手に名付けたんだけど。

 うーん。名付けのチョイス失敗したかなあ。思い込みは良くない。

 でもさ、影井も無能力なんだよなぁ。そうなると、影井の能力上げを妨害している可能性もある訳で……うーん。


「圧力、とはどんな内容の物なんですか?」

 俺が考え込んでいるうちに、八束は他の事が気になったらしく、質問した。

「能力のない者に訓練を施す必要はない……と」

「何故そんなことを……」

「さあ?奴ら曰く、才能のない者に労力を割くのがもったいない……との事じゃが、本心かどうかは怪しいのう。才能がないとはいえ、一般人より能力はあるじゃろうにの……勇者を万全な状態で戦わせるには、能力を持ってない訓練こそ大切じゃろうて」

「そう思うなら、教会の言うことなんて無視すりゃ良かったろうに……」

 八束の責めるような口調に、おじいちゃんは苦笑いをした。

「そういう訳にもいかんのじゃ。教会の奴らには借りがあるからのう」

「そういうものなのかね」

 八束は納得いかないとでも言いたげに肩を竦めた。


「じゃあ、武術の訓練をしてくれた騎士団の人たちも教会に借りがあるって事なんですか?」

 ふと思いついた疑問を口にしてみる。

「いや、それはないじゃろう。騎士の連中はこれと決めたら己の信念を曲げない者が多い。例え教会に借りがあろうとも、自らの信念を曲げることはないだろう。武術の訓練が異様に厳しかったのなら、そうするべきだ、と思っている騎士団が訓練にあたったからだろう。つまり、わざと厳しい騎士団にスキルのないものの武術訓練を任せた、ということじゃな」

 はあ。なるほど。騎士団なら、戦場を生き残るために厳しく訓練を施さなくてはいけない。と考える所謂、体育会系?の発想をしていてもおかしくない。偏見かもしれないけど。


「ところで、なのじゃが……」

 おじいちゃんは俺と八束の顔を交互に見る。一体なんだろうか?

「お主ら、魔法について学ぶ気はないか?」

「あ、あります!」

 気が付いたら僕は即答していた。いや、だって強くなれるなら、なんでもしたいでしょう?この世界、前の世界よりも致死率は高い訳だし。

「俺も学べるなら学びたいけど……大丈夫なのか?」

 八束は心配そうに尋ねる。

「なあに、二人ぐらいなら心配いらんじゃろ。なんとでも誤魔化せるわい。本来なら学びたいと思う者全員に教えてやりたいんじゃがのう……本来、勉学の機会と言うものは平等に与えられるべきじゃと、儂は思うんじゃが……うむ……」

 そんなに嫌なのに教会の言うこと聞いちゃうのか。よっぽど大きな借りが教会にあるんだろうなぁ……。そうなると気になってくるわけだけど……。

 見てみると素材とか情報の提供とか……なんか地味だ。あ、お城勤めが出来るようになったのも教会のおかげらしい。でもまあ、そんなに興味を惹かれる内容ではない訳で……。大きな借り……にも思えないしなあ。

 ちりが積もって山になった、と言うことなのかもしれない。

 そんな恩ある教会に背いてまで俺達に教えてくれることには感謝しないとな。でも二人だけなのかあ。もし教会の狙いが影井の邪魔をすることだった場合の事を考えると、影井にも授業に参加してもらった方がいいんじゃないだろうか?それに影井は俺の友達だし。本人からこの授業に参加してるってことは魔法を学びたいと気持ちがあるということなのだろうし。彼の気持ちを汲むのなら、友達ならば、影井もいっしょに学べるようにお願いすべきな気がしてきた……。


「あの、もう一人追加で魔法を教えてもらうことは出来ませんか?」

 俺の質問に、おじいちゃんが腕を組み、むむむ。と唸る。

「それは難しいのう……教えてやりたいのはやまやまなんじゃが……」

「なんで駄目なんでしょう?」

 八束が不思議そうな顔をする。

「こういうのは一人特例を作ってしまうと、次から次へと人が増えることになりかねん。少ないうちはいいが、人数が増えてくると、教会側にばれてしまう」

 たかが一人、されど一人、と。そういうことなんだろう。

 おじいちゃんの言うことは最もなので、それ以上はいわない。ごめんよ。影井。

 八束がほっとしたように息を吐いたのを見逃さなかったぞ。俺は。八束よ。影井を避けてばかりいたら、解ける誤解も解けなくなるよ……?って俺が言える立場じゃないんだけど。ごめんよ。八束。


「じゃあ、仕方がないですね……」

「そういってもらえると助かるのう……」

 おじいちゃんは肩を撫で下ろした。


「じゃあ、明日からこの部屋に集合じゃ」

「「はい!」」

 元気のいい俺たちの声が響き渡った。

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