影
重苦しい空気が流れ、三人が沈黙する中マカは急に吹っ切れた様に笑いだす。
「あはは、ごめんごめん、そんな深刻そうな顔しなくても良いからさ」
そういいながらいつもの無邪気な笑みで皆を見渡す。
「でもさ、私がしななかったら皆がどうなるか分かんないし、私さ」
そういうとそっぽを向き一呼吸おいて皆を見渡した。
その瞳には涙を浮かべていた。
「皆が死んじゃうところもう、見たくないしさ」
そう言うとマカは髪を靡かせながら空を見上げた。
「あーあ、せっかく当てたゲームでこうなっちゃうなんて、思いもしなかったなぁ、ま、そんなことは今は置いといて、皆……バイバイ」
マカはそう言うと絨毯を開き、空へと舞い上がる。
「マカ!」
アゲハが引き留めるが、マカはにこりと笑ってすぐさまどこかへ飛んでいった。
「くそ! あいつまさか……」
何かを察知したのかアゲハは無我夢中で走り出す。
「待って!アゲハ!」
ライトも追いかけようとするがアゲハには聞こえておらず、ライムは動こうとしない、そんなライムに気付きライトはその場に立ち止まる。
「ど、どうしたんですか?ライムさん! 早く二人を追いかけないと」
ライムの元へ急ぐがいつもの様子と違うことがすぐに分かった。
「……あたし」
「どうしたんですか? 何かあったんですか?」
「……」
何を質問しても答えてはくれず、沈黙の時間が流れる。
「……あの、もしかして……ライムさんですか?」
「!?」
ライムはその言葉に反応し、ライトの顔を見上げる。
「その、さっきから様子が変だし、なんだか怯えているような……もしかしてカシファさんって
貴方なんですか?」
ライムはその正論に立ち向かおうとはせず、ライトに背を向ける。
「そう、私の本名は楠木 カシファだよ、マカは違う」
「……」
何も言えず立ち竦むライトの目線を合わせることが出来ず、何も言わず走り出す。
「ま、待ってください!」
ライトが引き留めるが先々森の奥へと入り、それを追いかけた。
(どうしてどうして!?何でこうなるの! あたしが何したって……ううんそれよりまずは早く逃げないと
ライトさんに殺される!!)
後ろを追いかけて来るライトを見て、道具を後ろへと投げつける。
「きゃ! ま、待ってください!ライムさん!」
どうやら少しばかりの足止めにはなったようだ。
あとはジグザグに走り、ライトの姿が遠くなると茂みに隠れ、その場を凌ぐ。
後から来たライトはそのままその茂みを追い越し、さらに森の奥へと入っていった。
それを影から見て、周りに誰も居ないことを確認すると深くため息を吐き、乱れた呼吸を整える。
(これからどうしようか? そもそもなぜ私なんだ! )
ライムには全く思い当たる節が無い。
友達なんてろくにいないし、学校も通信制だから家からもあまり出ない。
(もしかして、那奈が、今までの私の我が儘に耐えかねて……でも、あのとき庇って……)
考えれば考える程に話はまとまらず、余計にややこしくなっていく。
頭をくしゃくしゃにしながら、ひとまずはここに居ることにした。
(……また霧が出てきた)
辺りはまたもや霧が出始め、視界が悪くなっていた、だがライムは不安よりも安心感の方があった。
(これだけ霧が出たら……バレないよね? ライトさん大丈夫かな……!? でも今はそんな場合じゃないし、それに森だったらモンスターもほとんど居ないって言ってたから安心か)
そう思いながらチラチラと周りに警戒していると、前方から何かが近づいてくる音が微かに聞こえた。
(!?……気のせいか)
だがその音はすぐに無くなり、ライムもあまり気にせずその場に留まった。
どれだけ時間が経っただろうか、ずいぶんと長い時間ライムはその場にいたような気がした。
三人はどうしているのか、そんな事ばかりが頭から離れなかった。
「はぁ」
何度目かのため息を吐いたときライムの耳にまたあの音が聞こえる。
ガサガサ!
(!? 誰かいる、やっぱり!)
ライムが立ち上がった時、背後から聞こえた足音に振り返ったのと同時にライムは木にぶつかっていた。
「いた! な、なに!?」
目を開くとそこには何もおらず、ライムは首を傾げながら辺りを探索する。
「もしかして、ライトさん?」
だが、返事は来ない、でも確かに押された気がしたんだけどと思いながら木の裏を見ていた時、また衝撃がライムを襲う。
地面に勢いよく飛ばされ、痛みを堪えながらすぐに振り返るがやはり 誰もいない。
(どうして誰もいないんだ……もしかしてモンスター?!)
そう確信したとき今度は体全体に体当たりをされたような重くのし掛かるような衝撃が加わる。
「きゃ!」
後ろにあった木に思いっきり当たり、武器を構えようとメニュー欄を開き、手を伸ばそうとしたとき、今度は鋭い痛みが右腕を襲う。
「いっ!」
目の前には何もないのにライムの右腕からは出血し、反射的に左手で腕を押さえる。
(どうしよう! どこから攻撃してるのか全然分からない! )
慌てる頭を冷静にさせようと周りに意識を集中させるが、一方で傷が増えていくだけだ。
(このままじゃ……本当に)
死んでしまう、そう思ったとき太い何かがライムの首に掛かり、きつく絞めていく。
「ぐ!」
両足を動かして抵抗しようとするが足にも何かが乗り、動かせない状態だ。
今までの事がフラッシュバックする、このまま自分が死んだら皆はこのゲームから出られる。
でも、私はどうなるのだろうか?
そう考えを巡らせているとき、大量の草がライムの上に被さり急に首に掛かっていた力が無くなる、それと共にライトが剣を振り下ろしていた。
ギェェェァァア!!!
奇声と共に敵の要るところだけこんもりとしていた草が一気にライムの足に落ちた。
「ライトさん」
男の格好をしているかもしれないが、その時一瞬ライトが勇者に見えた、そんなのほほんとしている場合では無いことも分かっているのだが。
「よかったです無事で! あ! けがしてますよ!?」
そう言うと直ぐ様薬草を取りだし怪我の治療をしてくれるライトを見て、今まで自分が殺されるかもしれないと考えていたことが、恥ずかしく思えてきた。
「ありがとう、ライトさん」
怪我も大抵治り、ライトの手を取り立ち上がると頭を下げる。
「とんでもないです、でも本当に良かった無事で。」
にこにこと微笑むライト、そんな彼女にライムはいつも助けられていた、だけれどつっかえているとこがあった。
「……」
「?どうかしましたか?ライムさん」
ライムがなにも言わないので不思議そうに首を傾げる。
「ずっと思ってたんだけどさ、私達友達でしょ?」
「……」
「お互いため口でいこうよ、あたしもライトって呼ぶね」
「……友達……ですか」
「?」
懐かしむような声で何かを見上げると、やはり先程みたいに微笑む。
「ど、どうしたの?」
ライムも変なことを言ってしまったのかと慌てるが、その様子を見てライトは少しだけ涙を浮かべる。
「いいえ、何でもないんです……ただ嬉しくて……でも残念ですが」
「友達にはなれないでしょうね」
「え……」
いきなりの言葉にそれしか言うことが出来ず戸惑うライムをみて、ライトは目に涙をためながら向き直る。
「ライムさんは人殺しなんかと友達になれますか?」
「え、な、何言ってるの?意味わかんないよ」
「……私とライムさんはただ同じゲームをして、偶然閉じ込められて、ゴールを目指している、ただそれだけなんです。」
「……」
淡々口調で話すライトはまるで別人のようだった、そんな話を聞いて、驚くしかないライムは何も言えなかった。
「……ビックリさせてすみません。」
「わ、私それでもライトと友達になりたい!」
「……ありがとうございます」
「こんな優しいライトが人殺しするわけないじゃん!冗談でしょ?ねぇ?……だ、誰を殺したの?」
あまり聞いてはいけないだろうが、冗談であればここらで冗談と認めてほしいと、貸すかな希望を持って聞いてみる。
「お母さん」
「そんなまさか……どうして」
「自分の事しか考えてなかったからです、それにこのゲームを始めたのも、退院祝いにってアゲハが買ったんです」
「退院?な、何がどうなって」
「フフ、まぁ良いじゃないですか♪ こんな暗い話、でも友達なんて言ってくれてありがとうございます、私とっても嬉しかったです!」
「え、うん」
納得はしていないがやはり人には突っ込まれたくない過去もあれば現実もある。
ライムはそう思いながら自分の過去の記憶をふと思い出していたのだった。
(お母さん……か)




