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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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第93話:『近づいて』

――エルムローゼ伯爵家から

リディアが朝食を食べに訪れ。


アイゼンドルフ伯爵家から

ユリウスがはるばるスープを求めに来る。


此処《ここ》、貴族食堂……もとい。


『アストラル公爵家の食堂』は……今日も今日とて。

いや……今日はなんだか。


特に賑やかで――


……


「皆、おはよう……って、やけに人が多いな」


「あっ!……レナード様っ!

えっと、リディアさんと――」


――そう、アイナが紹介をし掛けた瞬間

ユリウスは、すっと立ち上がり――


「――ユリウス。

ユリウス・アイゼンドルフです。


レナード・アストラル公爵

ご挨拶が遅れて申し訳ありません。

若輩者ですので、何卒……」


「いや、寧ろ礼を言うのは私の方だ。

ユリウス君……今後とも、アイナを含め

当家とも、末永く良い関係を築いて貰えれば嬉しい」


「なっ……こ、此方こそ!よろしくお願いしますっ!」


――と、少し恐縮しながらお辞儀をしたのだった。


「まぁっ♪ユリウス様カッコイイですわ~っ♪」


「な゛ッ?!……う、煩いぞリディアっ!

って……す、すみませんレナード公爵っ!」


「ふふっ……構わないさ。

楽しく過ごして貰えるならそれが一番だ。

自分の家だと思って、好きなだけ過ごしてくれると良い。


っと……アイナ。

少し話がしたいのだが、構わないか?」


「は、はいっ!……どうぞっ!」


そう応えたアイナ、だがレナードは

賑やかな食堂を一度見回し――


「いや……少し、外へ出よう。

バラ園の様子も見ておきたいんだ、構わないか?」


「は、はいっ!……では、

皆さんはお食事を楽しんでてくださいね~!」


◆


――ところは変わりバラ園。


朝の冷え込みは少しだけ弱まっているが

時々吹く風は、僅かにまだ冷たい。


……そんな中

レナードは少し急ぎ気味に話し始めた。


「アイナ……アイゼンドルフ伯爵邸での事を

君の口からは未だ聞けていない」


「え……?」


「無論、内情を聞き出すつもりは無い。

セシリアさんからも、必要な報告は受けている。


だが……ジョセフへの手紙に返事が無かった時、

私は正直……少し、慌てた」


「……す、すみません」


「責めている訳ではない」


レナードは

僅かに風で揺れる白薔薇へ視線を向け、続けた。


「……ユリウス君の様子を見れば分かる。

君はきっと、あの屋敷でも君らしく在ったのだろう。


だが私は……報告書ではなく、君の言葉で聞きたい」


「え、ええと……報告、ですか?

その……どこから話せば良いのか……」


「最初からで構わない」


「でも、他家の内情を漏らすのは……良くないです。

し、執事さんにもきつく止められて……」


「アイナ、私が訊いているのは仕事内容や

アイゼンドルフ家の内情では無い。

私は、君が苦しくなかったかを……いや。


……すまない。踏み込み過ぎた質問だった。

今の発言は、忘れてくれて構わない」


「なっ……待って下さいっ!

何も問題が無かったかと言えば、それは……ありました。

でも、それは家政先の事情がとかじゃ無く!

私が……寂しかったんです。


……でも。


私、馬鹿みたいに単純なので

困ってる人を見かけると、そっちの方に集中しちゃって。


それで……ジョセフから届いた手紙に

返事が出来なかったのは……正直、恥ずかしいんですけど

殆ど意味が理解出来なくて……」


「何?……ジョセフは一体何を書いたんだ?」


「えっと……何かの呪文みたいでした。

って、今も持ってますっ!……これですっ!」


そう言ってジョセフの手紙を差し出したアイナ。


……一方、暫く読み進めたレナードは


突如として、吹き出すように笑い――


……


「ふふふっ……これは、確かに難解だ。


慣れ親しんだ彼の口調とは……ふふっ……

違いすぎて……最早《もはや》

悪意さえ感じるぞ……これは……ふふふっ……」


――手紙を見つめたまま

プルプルと震えながらそう言ったレナードの姿に

アイナも思わず吹き出し――


「……で、ですよねぇっ!?

だって、こんなの届いたら固まりますって!

返せないですって!……私、メイドですよ!?」


「ふふふっ……そうだな、確かにこれは……

ふふふっ……ゴホンッ。


……とは言え、内容は至って真剣だ。


簡単に説明するならば――


『皆、寂しがっている

若様……つまり、私も寂しがっている。

だけど、実は自分が一番寂しい。

早く帰って来て下さい』


――と、言った所か。


しかし……ふふっ……駄目だ。

この手紙は……破壊力が強い……ふふっ……」


この後、アイナに手紙を返してからも

レナードは暫くの間、表情を戻せず……アイナは

そんな彼の姿を、唯《ただ》嬉しげに見つめていた。


そして――


……


「……君の留守は長く見積もっても三週に満たなかった。

だが……皆、寂しがっていた。

手紙の通り……私も、寂しいと感じていた。


……君が居ると必ず起きる『騒ぎ』を

私は、いつの間にか必要としていた。

その事に気付いた瞬間……私は、少し恐ろしかった」


「そんな……って、言うか。

騒ぎが全部私のせいみたいに言わないで下さいよぉっ!」


「いや、君のせいだ……全部」


「ちょ!?なんて酷い事を……!」


「……寂しさを感じたのも、

君が帰って来た途端《とたん》、

屋敷に再び光が戻った様に感じたのも。


……他家からの賓客を嬉しいと思えたのも、

食堂が賑やかになったのも、

ジョセフが元気になったのも、

セシリアさんが戻ったのも……全て。


アイナ……君の『所為《せい》』だ」


「じ、じゃあ……もうちょっと素直に褒めて下さい」


「それは……無理だ」


「何でですかっ?!」


「……これで精一杯だからだ」


「へ……ッ?……」


「……アイナ。

私は、君にいくつか……」


何かを決意した様に

レナードがそう言い掛けた、瞬間――


「イヨォォォォォッ~!――


『ポンッ!』


――大変ですだッ!」


「何処から持って来たのよその『小鼓』はァァァッ!!!

って……何があったの?」


『見得』を切りつつ、

クラリスから借りた『小鼓』を小脇に抱え

何処か満足げな表情を浮かべたジョセフは――


「リ、リディア様が――


『此処の食堂を令嬢と令息たちの憩いの場にするのですわ♪』


――とか言いながら、多方面に招待状を書き始めただ~ッ!

しかも――


『成程、それは僕にとってもありがたいな。

人脈づくりは貴族の基本だ……』


――とか言いながら

何故かユリウス様まで協力してるだぁぁぁッ!」


「当主の許可ァァァッ!!!」


「確かに、私は何も聞いていないが」


「ほらァァァッ!!」


「だが……それも、良いかも知れないな。

確かに、アイナのスープは癒される」


「ニャァァァァァァッ!?」


「アイナ様が久し振りに猫神様を降臨させただ……」


「其処ォッ!手紙との落差ァァァッ!!」


……この日、アストラル公爵家のバラ園に響き渡った

ツッコミ過多なアイナの絶叫。


そんな、いつも通りの日常の中、

レナードは、何故か物憂げで――

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