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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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第92話:『日常と、距離』

“リディアの逆襲&セシリアの大逆転事件”から数日後。


……アストラル公爵家の食堂では、

大量に届いた『教育願い』の振り分けが行われていた。


……


「う~ん……これは論外ですだ。

アイナ様、これみて欲しいだ」


「あ~……確かにひっどいわね、これ。


『白いリネンが一枚も無く、殻を使う方法を用いたら

リネンが卵臭くなり、ブルーイングは

間違えて墨汁を入れてしまって

全てが灰色に成りました』


……うわぁ。


って、これ系さっきからまぁまぁ多いけど

何でこんな事になってるの?」


「あぁ、それは若様が――


『当家に全ての使用人が押し寄せては困る。

アイナが当家に伝えた技術を、予め

家政院に伝えておくべきだ』


――そう言って手紙で出したからだと思うだよ」


「え゛……分量とか、方法の細かい部分って

私、レナード様からは訊ねられてないんだけど……」


――そう言い掛けた瞬間

セシリアはアイナの心配を打ち消す様に言った。


「いえ、坊ちゃまは全てを正確に記載されました。

ですので、恐らくは家政院側が伝え方を間違えたか

受け取り手が未熟だったのでしょうね」


「あ~……セシリアさんが見ていたのなら

間違い無い筈ですけど……って、はぁ~っ。


嫌だなぁ……レナード様に

ご迷惑をお掛けしちゃいそうなのが特に……」


「……何を言うのです、アイナ。

今回の『教育』はボランティアではありませんよ?」


「へっ……ど、どういう事ですか?」


「家政院、及び王都……並びに、全国の貴族たちから

アストラル公爵家へと送られる全ての人員は

教育後、一定額の費用を当家に支払う事と成っています。


今回の件は、寧ろ

アストラル公爵家に利益を齎す

一つの『事業』として考えられる状況なのですよ?」


「なッ……わ、私にそんな価値は……!」


「何を言ってるのですかアイナちゃん様っ!

ありますわ?!価値なんて天井知らずですわ!?」


「にゃぁぁぁっ?!……なッ、なっ!?

……何で普通にいるんですかリディアさん!!」


「朝食を食べに来たのですわ?」


「い、いや……そんな

『街の食堂』みたいな感覚で来られても……」


「だ、駄目ですの?!……レ、レナード様は

『何時でも来て良い』って言ってくださったのに……」


「い、いえ……それなら大丈夫です……」


「安心しましたわっ♪……では!

早速パンとスープを下さいな♪」


「って、質素ですねえッ?!」


「アイナちゃん様と同じものが食べたいのですわ?」


「なッ?!……あ、ありがとうございます……」


「何故か分かりませんけれど感謝されましたわ♪」


……などと、朝から賑やかなアストラル公爵家。


だが、この日訪れたのはリディアだけでは無く――


……


「東西《とぅざぃ》ッ!とぉ~うざぁ〜いッ!……大変ですだッ!」


「なんか風流《ふうりゅう》ねぇぇぇッ!?

って……何があったの?」


……直後、なんだか

楽しそうに駆け込んで来たジョセフに依って齎された

来訪者の情報は、アイナを驚愕させた。


「とっても遠くから、はるばる

『アイナ様のスープ』を飲みに来たお客様がいるだよ!


……だから、早く用意して欲しいだ!」


「いや……どういう事よ!?」


と……首を傾げるどころでは無い

『捻れっぷり』を披露したアイナの下《もと》へ現れた

“訪問者”は――


……


「……久し振りだな、暴走メイド。

いや……白の継承者アイナ」


「なッ……ユ、ユリウス様ッ?!

だ……大丈夫なんですか!?」


「なっ……心配してくれるのは嬉しいが

これでも僕は、当主に成った身だ。


だから、だ……大丈夫だっ!」


「当主に成ったって……ま、まさか……?!」


「勘違いするな……父は生きてる。

唯《ただ》、僕が出歩けるまでに成ったから

『気が変わらぬ内に』って、父が

僕に家督を譲ったんだ……」


「そ、そうだったんですね……って。


スープ!……い、今用意しますねっ!

あ……でも、残念ながら今日は

『ミネストローネ』では無いんですけど……」


「構わない、お前が作ったのが飲みたいだけだからな」


「それなら良かったです!……って。

リ、リディアさん……?」


……この瞬間。

リディアは何故か……固まっていた。


「あ、あの……そちらのお方は

殿方……ですわよね……?」


騒ぐでも無く、ユリウスの顔を見つめ

少し『ソワソワ』としつつそう問うたリディア。


一方、ユリウスは少しだけ警戒していて――


「なっ……どういう意味だ?」


「い、いえ……その……とっ、整った

お顔立ちだと思っただけですわ?!」


「なっ……ほ、褒めてくれてるなら

その……あ、ありがとう。


って、すまん……人付き合いには未だ慣れてないんだ。


……僕は、ユリウス・アイゼンドルフ。

つい数日前、家督を継いだばかりの新人当主だ」


「ま、まぁっ……ご丁寧にどうもですわっ♪

では、わたくしもっ!――


――わたくしは、リディア・フォン・エルムローゼ。

エルムローゼ伯爵家、長女ですわ♪

以後、お見知りおきを……」


……スッと立ち上がり

膝折礼《カーテシー》をしつつ、そう言ったリディア。


一方――


「な、何で食堂が

『社交場』みたいに成ってるんですかぁぁぁッ!」


――そう、絶叫したアイナ。


だが……アイナは勿論、

この場にいる誰も気付いていなかった。


本来、交わる筈の無かった二人の距離が

この日、ほんの少しだけ近付いた事を――

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