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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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第91話:『帰って来た、途端に』

――“アイナの凱旋&セシリア師匠爆誕事件”の翌々日。


アイナは、新しく割り振られた自らの自室に

ちょっとだけ、挙動不審であった――


……


「やっぱり……広い。

部屋の構造が、便利……と、言うか。

いちメイドの部屋にしては、余りに豪華過ぎる様な……」


「恐らくは対外的な兼ね合いでも在るのでしょう。

『白の継承者』などと呼ばれるメイドの自室が

ボロボロでは、笑い者にされてしまう恐れがあります」


「に゛ゃぁぁぁッ!? ……って。

いつから居たんですか、セシリアさんッ!!」


「貴女が部屋のあちこちで

キョロキョロとしていた時からです。


私に割り振られた部屋と、同じ広さですね……やはり

対外的な側面が……でも、少し此方の部屋の方が

豪華にされている様ですね。


……至る所に『白薔薇』があしらわれて居ますし」


「確かに……って、セシリアさん!?

ふ、服……どうしたんですか……それ」


「貴女の『助言通り』にしたのですが……可怪しいですか?」


「い、いや……って言うか

も、持ってたんですか?!灰色バージョン!」


「いえ、染料を少し落としただけですが……」


「落としたって……ま、マジですか」


「ええ、大マジです」


「セ、セシリアさんの口から

『大マジ』って言葉が出る事にも驚きましたけど!


兎に角……今日からは、本格的に

お屋敷の家政に関わる訳ですし

二週間と少しお屋敷を空けて居た訳ですし。


色々と、張り切らないとですねっ!」


……目を輝かせ、

やる気を漲らせた様にそう宣言したアイナ。


だが……この直後。

そんな彼女の決意を上書きする様に齎された

ジョセフの声――


「お久し振りに、大変ですだぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


「約二週間強振りねぇぇぇッ!!!


……って、何があったの?」


「予定通りリディア様がお越しになりました、ですだ!」


「予定通りなら『大変』じゃないと思うんだけど……って。

その前に……今回の訪問理由は?」


アイナは酷く警戒した様にそう問うた。


「えっと……手紙では伝えきらなかった続報が

主な理由だそうですだよ?」


「成程……って、そう言えばリディアさんのお陰で

私とセシリアさんのお部屋まで用意されてたのよね?」


「ですだ!……だから。

もし、アイナ様がお礼の一言も言わなかったら

アストラル公爵家の名前に傷が……」


「だぁ~っ!そんな言い方しないでも行くからぁっ!」


「良かったですだ……作戦成功ですだ!」


「な゛ッ……!」


◆


「アイナちゃん様ぁぁぁっ♪王都以来ですわね~っ♪」


――会うや否や、アイナに飛びつき抱きついたリディア。

そして、アイナは辟易《へきえき》……とは。


せず――


「お、お久し振りです……って、その前に。

なんと言うか、その……ありがとうございましたっ!」


――と、お礼を告げた。


直後……意味が分からず、目をパチクリとさせ

唖然としていたリディアだったが――


「んまぁぁぁっ♪なにか分かりませんけれど

アイナちゃん様に感謝されてしまいましたわ~っ♪

クラリス!今日はお祝いに華やかな音ですわ!」


「畏まりました、では失礼を致しまして――」


『ファァァァ~~~ン……』


……リディアの側付きクラリスの奏でた音。

それは――


『笙《しょう》』


――と呼ばれる、雅楽《ががく》器の音色であった。


「雅《みやび》ですだ……なんか浄められそうですだ」


「華やかだけどッ!華やかだけどぉぉぉッ!!」


……今日もアストラル家は大騒ぎである。

ともあれ、再会の喜びと

華やかで雅な音色が響き渡る中――


……


「そうそう!危うく忘れる所でしたわ……アイナちゃん様!

今日は、沢山のお祝いに来たのですわ♪」


「た、沢山のお祝い?……どういう事ですか?」


「一つ一つのお祝いがおっきいのですわ!

まずは、これですわねッ――」


そう言ってリディアが取り出したのは

『王都新聞』の号外だった。


見出しには――


『白の継承者問題完全解決!

アイナ・リーネル白の継承者へ!

&セシリア・ヴァレンティア王都を去る!』


――そう、デカデカと記されていた。


「――早速、王都では大騒ぎなのですわ♪

そのお陰なのか、わたくしが

アイナちゃん様のお友達だと知れ渡った結果

知り合いのご令嬢たちから

お手紙も沢山預かりましたわっ♪


……それでは、次のニュース。


ですわっ♪――」


「まだあるんですか?!……って。

なんですか、この手紙の量……」


直後、側付き使用人クラリスに依って

差し出された……いや。


最早《もはや》『置かれた』と言う方が適切なほどの

大量のファンレターやらラブコールの手紙の山。


リディアはその中から一枚を抜き取ると

音読を始めた――


「え~――


『深愛なる白の継承者、アイナ・リーネル様。

名前の続きを教えて頂きた……』


――って。


無いですわ!そんな物っ!

ものを知らないにも程がありますわ!

アイナちゃん様に失礼なっ!

全くっ!……次の手紙に移りますわっ!」


「いや、リディアさんだって最初は……」


「次のお手紙ぃ~♪――


『嗚呼《あぁ》っ!貴女の事を思うと胸が張り裂けそうだ!

アイナ・リーネル嬢、どうか私と結婚を!……』


――って、ラブレターでしたわ?!

じゃんじゃん行きますわよ~♪

次にぃ~♪……」


「い、いつまで続くんですかそのお手紙……」


……この後、暫くの間続いたリディアの『お便り紹介』

内容の内訳は――


・ラブレター二割

・ファンレター三割

・使用人の教育依頼、及び見学依頼、合計五割


――と言った様子で。

その総数は、一〇〇通を優に超えて居た。


……


「う゛っ……な、なんだか

凄い騒ぎになってるんですね、私の事って……」


「そんなの……当たり前ですわ?

権威を嫌い、主に仕える事を絶対として宣言しただけで無く

結果として『ある貴族の不正』まで暴いてしまったのですから

ファンが増えないわけがないのですわ♪」


「不正を暴く?……私

そんな事した覚えが無いんですけど……」


「無自覚とは恐れ入りましたわっ♪

流石はアイナちゃん様♪

念の為の補足説明ですけれど……例の

『クラウス・エーレンベルク』とか言う男の話ですわ♪


表向きは『臨時の地方勤務』ですけれど、

実質の所は……二度と王都には戻れませんわね♪

王命により、過去の振る舞いまで

確りと洗い直されたそうですから……


……ま、詳しい話は

被害に遭った使用人たちから齎された

感謝の手紙たちに記されているはずですわ♪


クラリスっ!後で

アイナちゃん様にお渡しして下さいなっ♪」


「畏まりました、お嬢様」


「そ、そんなに色々あったんですね……って。

今日は、それを伝えに来てくださったんですか?」


「ええっ!……でも、それだけではありませんわ?

今日こそ決着をつけますわよ!アイナちゃん様っ♪」


「な゛ッ……い、嫌な予感が……」


……この後。


アイナの『予感』通り、リディアの『お戯れ』は

暫くの間続き――


……


「も、もう……負けでいいですからぁぁぁッ!」


――アストラル公爵家に響いたアイナの絶叫。


それは、とても平和なファンファーレであった。

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