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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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第86話:『白と黒のあいだに』

――王都からの帰路。


アイナは、馬車に揺られながら

帰還への期待に胸を膨らませて居た。


……それと同時に

『ベールを外したセシリア』から

目が、離せなくなっていた。


……だが、それは『物珍しさ』からでは無く。

まるで、遠くて近い『思い出』に触れているかの様な

真っ直ぐで、純粋な眼差しで――


……


「……何か、私の顔についていますか?」


「へっ!?あ、いやそのっ!

や、やっぱり綺麗だなぁ~って……」


「口説いているのですか?」


「い、いえそのっ……何ていうか

実感が、湧かなくて……」


「継承の事ですか?」


「そ、それもですけど……」


「……昔の話、ですか?」


「は、はいっ!……出発前、お話してた……」


「やはり、その話でしたか。


……良いでしょう。

この様子なら到着は夜に成る事でしょうし

少し、思い出話に浸りましょうか――」


そう言って、窓の外に視線を移したセシリアは

アイナと出会った当時の話を始めた……だが、それは。


アイナの憧れていた完璧な純白とは

僅かに違っていて――


「――これは、貴女を頻繁に見かける様に成った頃。

そして……貴女が私を『純白のメイド』

『憧れ』と呼んでくれた頃の話です。


……あれは、私にとって『最後の一年』でした」


「さ、最後……?」


「私が白を纏って居た……いいえ。

纏う事を許された最後の、一年だったのです」


「だ……誰が駄目って言ったんですか!?」


「誰でもありません……自分自身の未熟さが。

『二度と纏ってはいけない』……そう、告げたのです」


「そんな……でも……」


「……アイナ。

貴女は……『和歌』と言う

極東の島国で生まれた文化を知っていますか?」


「し、知らないです……それが

セシリアさんが白を纏わなく成った理由……ですか?」


「いいえ……『和歌』は美しくも強い、言葉の絹織物。

そして、苦しみを沢山の言葉で語りたくは無い時

包んでくれる温かな羽織なのです――


『悲しみに 数多《あまた》の色を 飲み干せば

衣染めたる 鴉《からす》なりけり』


――私が、漆黒を纏った理由。

貴女に全てを話せば、きっと貴女は泣いてくれるでしょう。

護ろうと、励まそうと……

……白に戻そうとまでしてくれるでしょう。


でも……私はこの悲しみを捨ててはいけない。

レナード坊ちゃまが、私を赦してくれるのだとしても」


「そ、その……聞かない方が良い話なら

私、無理に聞いたりはしません……でも。

もし、セシリアさんが話して楽になるのなら……


まっ、真心までっ……もっ……もし!

届いている様に見えていてもっ!

まだ、セシリアさんの中には白が輝いているんですっ!


だからっ!……」


――懸命に、唯《ただ》ひたすらに。

セシリアを想い、叫ぶように伝えたアイナに対し――


「やはり、貴女は……昔と変わりませんね、アイナ。

ありがとう……でも、駄目です。

私の苦しみまで背負おうとするなんて。

あの日、私の差し出した手は

貴女にそんな物を背負わせる為では無かったのだから。


貴女に……貴女と言う純白に

触れたいと願った、憧れの手だったのですから。


ありがとう、アイナ――」


――そう告げ、静かにアイナを抱き締めた。


それは、漸《ようや》く届いた想いの形として

護ると決めた、誓いを表すかの様に――


……


「――僅かにでも、貴女が聞いてくれた事。

貴女の存在が『最後の一年』を輝かせてくれた事。

それらを伝えられただけでも、今はホッとしています。


……私は、白には戻れないでしょう。

でも、そんな私を大切にしてくれる貴女は……」


――夕暮れ時、そう言い掛けたセシリアを制すると

アイナは、小さく溜息を吐き――


「ほんっと……白ってめんどくさい色ですね!

セシリアさんに至っては『純白』だから

些細な変化でも、すっごい目立つんです!


でも……きっと。


セシリアさんの黒は、

その白を護る為に着てる色なんです。


……雨と泥に涙していた、誰かの大切な『真心』を

護る為に羽織ると決めた色なんです……だから。


何時か、苦しみや悲しみに

ちょっと折り合いがついてからで構いません。


その時はその黒にも

ベールさんにも、ありがとうを告げて。


まずは――『灰色』から始めましょう!」


「は、灰色……?


……ふふっ♪

それは……私の髪を見て、決めたのですね?」


「へ……?い、いやいやいや!

あっ、でもセシリアさんって何色でも似合いそうですし!

まずは『差し色』から始めてみませんかっ?」


「ふふっ♪……女同士、服の話で盛り上がるなんて

本当に楽しいですね……ありがとう、アイナ」


――夕暮れ時。


馬車は、アストラル公爵家の領土に入って居た。


……セシリアの心を刺し続けていた

過去の苦しみと言う漆黒は

アイナの純粋なる白に包まれ……僅かに

その痛みを、薄れさせていた――


……


「アイナ……貴女の真心に対する最大の感謝として

一首、和歌を送りましょう――


『全《すべ》て吸《す》ひ 黒き衣の 苦しみを

白鷺《しらさぎ》の羽 そっと包まむ』


――ありがとう、アイナ」


そう告げたセシリアの横顔は

夕暮れの光に照らされ、柔らかな色に染まっていた。


馬車は、アストラル公爵家の領土を静かに進む。


……二人の帰る場所は

もうすぐ、そこ――

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