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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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第83話:『病理』

……どよめきの中、手を震わせながら

次の書類に目を向けたクラウスは

予定していたのだろう何枚かの書類を脇に避け。


『本命』と思しき書類を手に取り――


……


「……さて。


此方の書類を読み上げる前に……今一度。


お集まりの皆様に、我らが王都の立場を

お伝えさせていただこうかと思います。


……今回の騒動に於《お》いて、王都は

白の継承者候補『アイナ・リーネル』に対し

正当な機会を与える事を決定致しました。


それは、見定める為でもあり

全ての存在に公平な機会を与える為の温情です。


その為に、今回……そちらの

『家政管理院・最高責任者』

セシリア・ヴァレンティア様を審査官として、

名門、アイゼンドルフ伯爵家の全面協力を頂き、

アイナ・リーネルが本当に

『白の継承者』に相応しいのか否か

素養を確かめる為の試験を行いました。


……期間は二週間。


万が一を考え……いえ、公平を期す為

アイゼンドルフ伯爵家には、我らが王都側へ

忌憚《きたん》無きご報告を頂ける様

予め、ご連絡を差し上げておりました。


その報告次第では、彼女を家政業務から……いえ。

断罪さえも吝《やぶさ》かでは無いと言う、強い意志を以て。


此方の『報告書』を読み上げさせて頂きます――」


直後、わざとらしく掲げた『報告書』を

ゆっくりと読み上げ始めたクラウス。


……その差出人は、アイゼンドルフ伯爵家執事

『エルンスト・ハルトマン』であった――


「――【候補者アイナ・リーネル/白の継承者試験報告書】


ふむ、これは……よい表題ですね。

さて――


『……試験開始日前日の夜、到着。


到着日の内に当家の規定をご説明差し上げた所

本人は、大筋でこの要求を受け入れたものの

実際には、規定外の行動が目立ち

違反行為が多々見受けられ

その都度注意を申し上げたが、改善は無かった。


具体的には――


・使用人用厨房の修繕申請を強行

・伯爵家私的領域への過度な踏み込み

・ご子息:ユリウス・アイゼンドルフ様への過干渉


――など。


尚《なお》、これらは本人が訪れてから

約、三日の間に発生したものである』


――との事ですが。


アイナ・リーネルさん、

並びに、セシリア・ヴァレンティア監査官。


何か……申開きは御座いますか?」


ひらひら、と……『報告書』を揺らしながら

笑みを浮かべ、そう問うたクラウス……そして。

直後、会場中から上がった嫌悪を思わせる様な声。


中には、アイナへの罵声雑言も含まれていて――


「ふざけんなッ!

メイドが屋敷に迷惑かけるって何様だ!」

「そうだそうだ!白の継承者どころか

メイドとしての資質さえ怪しいぞ!!!」


「まぁ、平民たちの言う通りですわね!

嗚呼!……恐ろしいっ!

当家に招いていなくて幸いでしたわ?」


――皆が一気にアイナを責め立てた。

だが……この直後。


セシリアの喝《かつ》が飛んだ――


……


「――お黙りなさいッ!!!」


水を打った様な静寂の中、慄《おのの》く者達に対し

セシリアは二通の封筒を示した――


「これら二通の封筒の中身は、私自身

昨日、漸《ようや》く目を通したばかりの『報告書』です。


一通は……たった今

エーレンベルク卿のお示しに成った

『報告書』の『写し』……そして。

もう一通は、その『後日談』と言うべき物です。


ですが、これらはエーレンベルク卿では無く

私が読み上げるか、或いは

執行官に直接ご確認頂くのが宜しいかと」


静かに、そう告げたセシリア……直後

執行官の求めに応《おう》じ

『後日談』を読み上げ始めた彼女は――


「では、代読を致します――


『アイナ様は、此方のお願い申し上げた事に対し

自らの基準に照らし合わせ、結果としてお破りに成られた。


ですが、そのお陰でユリウス様の健康状態は改善し

屋敷を覆っていた諸問題は解決へと導かれ

私めを含めた、当家の使用人一同の

意識改革までをも行われた。


試験の為、協力をしたに過ぎない当家は

アイナ様の類い稀なる手腕に依って、救われたのです。


アイナ・リーネル……彼女こそが

白の継承者に相応しい逸材で御座います』


――との、事です」


瞬間、会場中から息を呑む様な声が上がった。

そして、直後クラウスは執行官に手渡された

『後日談』と『写し』を食い入る様に横から見つめ

僅かに苛立った様に、持論を展開した――


「こ、この様な事もあるのですねぇ……?

『家政管理院・最高責任者』

『白鷺の魔女』『黒衣の裁定人』……そして。


『白の継承者』とまで称えられた貴女が

どの様な手を用いたのかは分かりませんが

同じく、家政に従事する者を脅し

自らを有利に運ぶための文章を作成させるとは。


み、見て下さい!……この文章など

明らかな走り書きではありませんか!

……此れは恐らく、

家政管理院・最高責任者の立場を振りかざされ

脅された結果ッ!……」


「脅しですか……私にその様な行動を取る

必要性は微塵もありませんが……まぁ良いでしょう。


では、もう一通……此方は

衛兵にさえ渡したくありません。


……執行官。

直接お渡しに上がっても、宜しいですね?」


「……許可します。

監査官セシリア・ヴァレンティア……こちらへ」


「では――」


……直後、セシリアの手に依り

執行官へと手渡された一通の手紙。


彼女の懐深くへとしまい込まれていた手紙の封蝋に

執行官は、目を見開き――


「……これは、アイゼンドルフ伯爵家の封蝋。

さ、差出人は……何方《どなた》です?」


――そう、問うた。


「差出人は……ユリウス・アイゼンドルフ。

内容は、私も預かり知らぬ物です」


問いに対し、そう短く返したセシリア。

だが、彼女の発言に『貴賓席の者達』は

大きくどよめき……そして。


……その名が告げられた瞬間。


クラウス・エーレンベルクの顔からは

完全に笑みが消えた――


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