第81話:『審理』
【王都・中央審理会館】
『世紀のメイド!
遂に白の継承者審理会へ!』
そんな見出しの新聞が王都中を駆け巡る中
『平民傍聴席』は、隙間もないほどの人で埋め尽くされ
貴族たちが座る『貴賓席』には
リディア・フォン・エルムローゼの姿もあった。
……また、雛壇に並ぶ
審理官たちの顔ぶれは一様に硬く
彼らを囲む貴族たちの視線には、僅かな侮蔑と
僅かな『恐怖』が含まれていた――
……
「被告人、入廷――」
――執行官の刺すような声が響き渡り
巨大な重扉が開かれ、全員の視線が一点に集中した。
だが、アイナは一切臆する事無く
毅然とした足取りで歩んだ――
「おぉ……あれが白の継承者、アイナか……」
「馬鹿!まだ候補だ!でも、美人だな……」
「ああ、ちょっと胸は小せえが……」
――群衆から漏れ聞こえる下卑た声など気にも止めず
『審理台』へと一直線に向かったアイナは――
『パチッ……パチッ……』
――『審理台』の上で、自らホックを外し
ドレスを脱ぎ始めた。
直後、そんなアイナの暴挙とも言える行動に
民衆からは『色めき立つ』様な
下劣な声が上がり始め――
「静粛にッ!!!
なっ……何をしているのです?!
止めなさいっ!アイナ・リーネルッ!!」
――法槌を乱打しつつ
そう、叫ぶように問うた執行官に対し――
「何って……審理を受ける準備です。
こんなドレス、私じゃありませんから……あと。
胸が小さいんじゃなくて『スレンダー』なだけです。
兎に角……よい……しょっとッ!!」
――アイナはそう告げると
勢い良くドレスを脱ぎ捨て
審理台の柵部分にそれを掛けた。
瞬間、とっさに目を塞いで居た執行官。
……だが。
民衆から上がった残念そうな声に――
「な、なんでぃ驚かせやがって……着てるじゃねえか」
「なによアンタっ!あんな子の裸が見たかったの?!」
「い、いや……そうじゃなくて……イテッ!?
叩くことはねえだろぉ?!……ったく。
何でメイド服なんざ重ね着してんだよ……」
――恐る恐るアイナに視線を移した執行官。
彼女は――何時ものメイド服を纏っていた。
……それは、彼女の覚悟であり、
矜持であり、
そして――希望であった。
「……お待たせ致しました。
これで、やっと息が出来ます……はぁ~っ!
苦しかったぁぁぁぁぁっ……」
「キャー!アイナちゃん様~っ!素敵ですわ~っ♪」
『貴賓席』から発せられたリディアの熱狂的な声。
「へっ……?って、リディアさん!?
お久しぶりで……」
「はい、其処まで。
……全く。
ここを何処だと思ってるんだい?
アイナ・リーネル……井戸端会議なら
後で幾らでも出来るだろうに」
久し振りの再会に水を指す、這うような声。
それは、クラウス・エーレンベルクの発した物だった。
……彼の発言を皮切りに、会場は静まり返り
そんな状況に満足したのか
僅かに笑みを浮かべた彼は、更に続けた――
「……さて、アイナ・リーネル。
君には数々の嫌疑が掛かっている訳だが。
……先ずは、王都が受けた
幾つかの『被害』について、
お集まり頂いた皆様にもわかり易く
簡潔に説明差し上げるとしよう。
先ず……これは、君が勤めて居た
アストラル公爵家の使用人たちにも関連する
由々しき問題ではあるのだが……アイナ・リーネル。
……君が、彼らから
『白の聖女』や『守護天使』などと呼ばれ
崇め奉られて居たと言う話はこの間、本件の書状を持ち
君のもとを訪ねた際、君自身も認めた純然たる事実だが。
その、冗談にしても些か度の過ぎた発言は
回り回って、王都にまで鳴り響いてしまった。
……その最たる原因も明らかだ。
本日、貴賓席にお集まり頂いて居る
関係者各位の皆様もよく御存知の通り……仮にも
『公爵家当主』と言う身分でありながら
いちメイドに過ぎない、アイナ・リーネルを
当主自ら、夜会に連れ出した挙げ句
子爵家ご令嬢からのお誘いを断ってまで
舞踏場を私物化した……と。
……此処まででも、既に充分過ぎる程の
浅ましく、愚劣な行為の数々ではあるのですが。
……中でも、夜会当日の
当主、レナード・アストラル公爵の行為は
余りに身勝手極まりなかった。
自らの為、開かれていた生誕祭を途中で退場し
挙げ句、その理由を体調不良などと。
……貴女と踊っていたあの瞬間の、一体何処に
体調不良と言えるだけの要素があったのですか?
そうは……見えませんでしたがねぇ?」
……会場に響いたどよめきと嘲笑の声。
静かに拳を握りしめるアイナ。
だが、そんな中……セシリアは静かに声を上げた。
「……エーレンベルク卿。
今回の審理会は――
アイナ・リーネルが『白の継承者』に相応しいか。
――その審理の為、開かれたものである筈です。
『アストラル家への告発』は
別の機会に為さるべきかと」
「……ええ、そちらもそちらで準備はしておりますがね?
唯……前提として、
皆様に知って頂きたかった……それだけの話です。
……さて、続けますが。
大層な『祀り上げ』と、公爵の私物化に依って
平和な王都にとんでもない騒ぎを齎した
『アイナ・リーネル』と言う一人のメイドが
今度は『白の継承者候補』にまで駆け上がろうとしている。
たった今、私の説明に茶々を……いえ、失礼。
ご忠告くださった【セシリア・ヴァレンティア】様の
『過去の栄光』にまで手を伸ばし
その穢らわしい手で、最上級の煌めく純白を穢そうと
我が物にしようと画策して居る……と、言うのは。
恐らく、王都にお住まいの方々であれば
人づてか、各紙の見出しで
充分にご理解頂けているものかと思います。
そして……今日、お集まりの皆様には
本件を、公明正大な審理会の目に依って審理した上で
アイナ・リーネルに下される沙汰を見届けて頂きたい。
それが、本日皆様にお集まり頂いた理由であり……
……アイナ・リーネル。
貴女の犯した数々の過ちを、正す為でもあるのです」




