第80話:『心理』
「……ふがっ?!」
『ゴンッ!!』
「いったぁぁぁいッ!……って。
わ、私……あのまま寝ちゃってたんだ……」
――早朝。
寄り掛かっていた『トランク』からずり落ち
頭を強打していたアイナは……腰をさすりながら
ふらふらと立ち上がり……そして。
そんな彼女の姿を、困ったように見つめる
『五人の使用人たち』に気付き――
「い、イヤァァァァァッ!!!
襲われるぅぅぅッ!!!」
――五人全員を纏めて『変質者扱い』したのだった。
「お、落ち着いて下さいませ!
私共はアイナ様の側付きを命じられた使用人で……!」
「それはそれでいやぁぁぁっ!!!」
「「「「「何故に!?」」」」」
……朝から阿鼻叫喚である。
ともあれ……この後、漸く
事情を理解したアイナは――
……
「……み、見なかったことにして下さい!」
――口止めをしていた。
そして――
「と……兎に角、アイナ様。
本日は『白の継承者・特別審理会』が
正午より予定されております。
その為、アイナ様に置かれましては
少々『整えて頂く』必要がございまして……」
「と、整える?……何をですか?」
「その……お召し物を
此方の何れかからお選び頂きたく……」
そう言って使用人が差し出したのは
『白の継承者』をイメージした様な純白のドレスと
『メイド服』をイメージした様な
エプロンドレス風のドレスだった。
だが――
「あの……どっちも嫌なんですけど」
「そ、そういう訳には参りませんっ!
何れかをお選び頂けなければ、私共のクビが……!」
「飛びません!……って。
言い切れない程、脅されてるんですか?」
……アイナの問いに俯きで応えた使用人たち。
暫しの沈黙の後、アイナは――
「分かりました。でも……」
――とある『秘策』を条件に
『白の継承者ドレス』を着用する事を
了承したのだった――
……
「ほ……本当に宜しいのですか?アイナ様」
「ええ、私が要求したんですから良いんです!
それと……もし、責められたら
ちゃんと私のせいにして下さいね?」
「お、お気遣いはありがたいですが……」
「良いですから!」
ドレス姿と成ったアイナ……だが、彼女の直ぐ側には
コルセットだけが装着されず
机の上に置かれていて――
◆
「……随分と着飾らせたものですね、王都も」
「な……何でセシリアさんは何時も通りなんですか?!
っていうか、恥ずかしいので
あまり触れないで下さいっ……!」
――暫くの後、審理会館へと向かう馬車の前。
セシリアとアイナはそんな会話を交わしていた。
「触れてはいません。見ているだけです」
「み……見ないでっ!」
「嫌です」
「何でですかぁぁぁっ!」
――そんなやり取りを交わす二人を乗せ
やがて馬車は【王都・中央審理会館】へ到着した。
◆
「到着致しました」
そう言って、静かに馬車の扉を開いた御者の声に
周囲の状況を見回したアイナ。
「な……なんか、物々しいですね」
兵士たちの冷徹な視線と
遠巻きにこちらを伺う群衆のざわめき。
馬車の外に広がるその異様な光景に
アイナは小さく身をすくめて居た。
「当然です……アイナ。
貴女は今、王都で最も注目されている『平民』なのです。
野次馬や、記者は勿論、王族に至るまでが
貴女を好奇の目で見つめているのです。
……だからこそ、貴女は負けてはいけない。
彼らがどの様な無礼な態度を取ろうとも
或いは、どの様に厚遇しようとも……貴女は
彼らの所有物になどなってはいけません。
……唯の偶像と成った白に
『気取る』以外の価値など無い事を
貴女は……知っている筈なのですから」
この瞬間、セシリアの言わんとした言葉の全てを
アイナは理解していなかった。
だが、彼女は分かっていた。
……自らが選ぶべき道を。
自らの、求める道と……その先の光景を。




