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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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第77話:『いかないで』

ユリウスから“命じられ”た翌朝。


アイゼンドルフ邸を去るまで後二日と成った日。

アイナは、自室で唸っていた――


「うぅっ……どうすれば……う~ぅ~っ……」


――幾度と無く、頭を過ぎる妙な『想像』


だが、その一方で……アイナの心は

ユリウスの悲しみを強く受け取っても居た。


「……でも。

ユリウス様、明らかに何かを決意してたし……


……行かないって言う選択肢はないけど

でも……う~ん……」


間《あいだ》の取れない感情の中に在ったアイナ

そんな中、部屋を訪ねて来たエルンスト。


彼は、アイナに対し――


「……アイナ様、お坊ちゃまがお呼びです。

『急ぎ、身支度をして来る様に』だ、そうです」


――そう、伝えた。


「みみみ身支度ぅ!?……何させるつもりですかっ?!」


「さぁ、詳しくは伺ってはおりませんが

出来る限りお急ぎに成って下さいませ。


ユリウスお坊ちゃまが

久しくお出しに成らなかった

強く求める様な感情を、私めは

無下にしたく御座いませんので。


では……失礼を致します」


「え、ちょ……ちょっとぉぉぉっ!?

私、何を求められてるんですかァァァッ?!」


振り返る事も無く何処かへ立ち去ったエルンスト。

一方、残されたアイナはと言うと……


「……い、いざと成ったら大声で叫んだり

セシリアさんの所に逃げたり……だ、大丈夫よね?!」


……完全に『警戒』していた。


この時、朝食さえ取る余裕を失って居たアイナ。


そして……暫くの後。

意を決した様に身支度を済ませた彼女は

『戦闘態勢』とでも言うべき眼力と鼻息で

勇み足と成りながら、ユリウスの部屋を目指し――


◆


「し、失礼しますッ!――」


『コンコンコンコン』


――“扉を開いてからノックをする”と言う

『奇行』に至りつつ、ユリウスの部屋へと入室した。


だが、彼女の視線の先には――


「……き、来たかアイナ。

待ってた……ぞ……」


――俯き、手に銀色に輝く何かを握り締め

酷く、深刻な様子で呟いたユリウスの姿が在った。


この瞬間……アイナの目に映ったユリウスの姿は

何処か殺気立っている様にも見えて――


「ユユユッ、ユリウス様ぁッ?!

わ、私が何か……怒らせるよよよ様な事をぉっ!?」


――仰け反り、慄《おのの》いたアイナ。

だが、ユリウスはそんな彼女に対し

扉を閉める様、要求し――


「ほ、他の使用人たちには……見られたくないんだ。

終わるまでは……だから……ちゃんと、鍵もしてくれ」


「だっ……駄目ですっ!そんなの……嫌ですっ!!

ユリウス様はそんな事しない人でっ!……」


――説得の為か

酷く狼狽《うろた》えながらもそう言い掛けたアイナ。

だが、ユリウスはそんなアイナの態度に首を傾げつつ――


「何を言ってる……?

お前が言ったんだろ?――


『枝毛を切らないと、髪が維持出来ない』


――って」


「へ……?」


気が抜けた様な声を出したアイナ。


直後、ユリウスの手元へと目を向けた彼女は

握られた銀色に輝く“それ”が

『鋏《ハサミ》』である事に気付き――


「ま……まさか、ユリウス様が頼みたい事って……」


「……ああ。

枝毛を……お前に切って貰いたいんだ、アイナ。


……に、苦手じゃないよな?」


「寧《むし》ろ得意ですけど……って。

わ、私で良いんですか?!」


「い、良いに決まってる……だろ」


「は――ッ……はいっ!」


……直後、ユリウスから鋏《ハサミ》を受け取ったアイナは

ユリウスを窓際に座らせ、確りと髪の状態を確認した。


そして――


……


「……では、始めます。

嫌だったら直ぐに言って下さい……すぐに止めます。


それと、動いて止められると危ないので。

必ず、言葉で教えてくださいねっ!」


「わ……わかった」


「では、始めます――」


『シャキッ……シャキッ……』


一手ずつ、丁寧に……滑らせる様に

痛んだ枝毛部分だけをカットし、細櫛を用いながら

繊細に作業を続けたアイナ。


……ユリウスを照らす陽の光は

彼の決意を応援するかの様に、彼の

繊細で滑らかな銀髪を輝かせていた――


……


「これで……良しっ!

えっと……終わりました」


「そ……そうか……かっ、鏡を……貸してくれ」


「は、はいっ!……ど、どうでしょうか?」


「か……母さ……ッ?!

今のは忘れろッ!……わ、忘れろ!」


「……はい。

何も、聞いてません……大丈夫です、ユリウス様」


「……嘘だ。

絶対に、誰かに言うだろ……僕の事、笑うだろ……」


「笑いません。

泣く事はあっても……笑ったりなんて、しません」


「ほ、本当か……?」


「当たり前です」


「……なら。

聞いて欲しい……少しだけ」


「はい、沢山でも……聞きます」


……


「……母さんは、庭仕事が好きで。

泥だらけに成りながら、いつも笑顔で……使用人たちも

そんな母さんの姿に癒されてる感じだった。


僕も……そんな母さんが大好きだったんだ。


大好きだったんだ……


……母さんの作ってくれる林檎《りんご》のコンポート。

でも……食べられなくなった。


もう、見るのも嫌だ……食べられない物が沢山増えた。

着られない服も、見たくない景色も……全部が。


怖くなった……僕は。


……アイナ。


僕は……母さんに……会いたいんだ……ッ……」


……この後も、ユリウスの心を受け止め続けたアイナ。


彼が涙を流せばハンカチを手渡し

震えれば、背中を擦り続けた。


そして――


……


「……ありがとう。

笑わず聞いてくれて……ってか、本当に泣くんだな」


「だ、だってぇ……ユリウス様がぁっ

沢山話してくれてっ……私っ……

信じて貰えてぇ……っ……グスンッ……」


「な……何で僕より泣いてるんだよっ!?」


「ご、ごめんなさい……グスンッ……」


「ふっ……はははっ!……」


「な、なんで笑うんですかぁっ!

酷いですよぉっ!……」


「ご、ごめんっ!……でもっ……あはははっ!」


「ちょっとぉぉぉっ!……」


……この日。

苦しみに一つの区切りをつけたユリウスは

長らく浮かべる事の無かった笑みを浮かべて居た――


……


「……枝毛って、髪の毛を濡れたままにしたり

強くこすったりすると起きやすいんです。


それと……栄養不足も枝毛の原因ですからね?

大切なお母様の為にも、ちゃんと食べて下さい。


どうしても嫌なら、スープにして飲んで下さい!

わ……私の顔を思い出して、笑ってもいいですから!」


「わかった……なぁ、アイナ。

後、二日しか居ないんだよな?……」


「は、はい……その後は、もしかしたら

私、メイドさんでは居られなく成るかも知れなくて……


……私『こんな』ですから。

結構、危ないんです私……なので。


さ……最終日まで、ちゃんと頑張りますっ!

だから、ユリウス様も……沢山食べて

沢山、笑って下さいね!


お部屋からも……出たく成ったら出れば良いんです。

エルンストさんも、メランダさんも……使用人の皆さんは

ユリウス様の元気な姿を見たくて見たくて

皆さん、ウズウズしてましたし!

あっ……でも、気負わないで下さいね?


それと……手紙でも良いので、料理人に対して

味の感想とか、教えてあげてくださいね!


それから!……」


「……分かった。

もう、分かったから……下がってくれ、アイナ」


「へ?……は……はいっ……」


……この瞬間

急激に冷めた目つきに変わったユリウス。


直後、アイナは追い出されるように部屋を後にした――


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