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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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第76話:『ゆらめいて』

――“ユリウス様に追い出された事件”の翌日。


アイナは、ジョセフからの手紙を眺めつつ

溜息を吐いていた。


「あと六日か……バルトさんの口振りなら

私が居なくても大丈夫だし、お屋敷の方も

音の原因は害獣だったし、厨房も綺麗に成って

ユリウス様も……少しずつだけど

心を取り戻してくれてる。


……けど。


時間、足りないなぁ……っ」


小さく漏らした思い――


『母さんが……消える……からッ……』


――幼い心に深く刻まれた消えない傷。


アイナ自身、それを取り去れるなどとは考えていなかった。

だが……未《いま》だ、ユリウスは食堂に顔を出さず

彼の部屋に入る事を許されている者も限られている。


……バルトから伝えられた、事態解決までの予定も

想定されていた三週間を超え、完全な解決には

凡《およ》そひと月程掛かると言う。


彼女は……その圧倒的な

時間の不足を憂いていた――


「私、駄目だなぁっ……」


――直後、ジョセフからの手紙を懐に仕舞い

この日もアイゼンドルフ邸の家政に務めたアイナ。


だが……この日から数日の間。

ユリウスは、彼女の入室さえ拒み続け――


◆


「良いから……下がってくれ、早く」


「……はい。

すみませんでした……」


――そうして、再び入室を断られた日。


アイナに残された試験期間は

あと、三日と成っていた――


◆


「はぁ~ッ……私、どうしたら良いんだろう……」


――残り三日と成った夜。


ユリウスに拒絶された事を除いては

アイゼンドルフ邸での家政を

卒無くこなしていたアイナは、反面

自室で一人、自信喪失していた。


「踏み込み、過ぎたのかなぁ……


……私が嫌われるのは仕方ないけど、でも

ユリウス様があのまま、また塞ぎ込んじゃったら……」


……伝わらない思いに歯痒さを感じつつ

そう、愚痴を零して居たアイナ。

そんな中、再び彼女の耳に届いた


『声』


それは――


『母さん……母さん……』


――明らかに、ユリウスの物だった。


「ッ……!


……駄目だ。

此処で悩んでたって

ユリウス様の苦しみは取れない。


もし……追い出されても。

それでも……助けなきゃ――」


直後、意を決した様に部屋を飛び出したアイナは

一直線にユリウスの部屋に向かった――


……


「……やっぱり。

また、魘《うな》されてる……鍵は……って。


……開いてる?


ならッ――」


……直後、意を決し

ユリウスの部屋へと入ったアイナは

其処で、エルンストと鉢合わせた。


「アイナ様?……何を……」


「心配だっただけです、エルンストさんこそ……」


「母さ……ん……いや……だ……」


「……話は後にしましょう。

兎に角、今は――」


……言うや否や、ユリウスの眠るベッドへと

一直線に近づいたアイナは――


「――大丈夫です。

ユリウス様は……大丈夫です……大丈夫……」


――そう囁きながら

魘《うな》されるユリウスを撫で始めた。


すると――


「母さん……僕……は……大好き……から……」


――魘《うな》され

苦痛に歪んでいたユリウスの表情はほぐれ始め

落ち着きを取り戻し始めていた。


「そんな……ッ……アイナ様……」


「シッ……やっと落ち着いたんですから

お静かに……」


「え、ええ……失礼を……」


……


「……大丈夫……大丈夫です。

真心は……ちゃんと……ユリウス様の中に……」


……穏やかに、静かに。

ユリウスの不安を取り払う様に

そっと、彼を撫で続けたアイナ。


……一方、そんなアイナの姿に

エルンストは静かに息を吐き――


「後は、お任せ致します……では、私はこれで」


――そう言い残すと

音を立てぬよう、静かに部屋を去ったのだった。


その一方、部屋に残されたアイナは

それを気にする事も無く、引き続き

ユリウスを撫で続けていた……そして。


……


「……もう、落ち着いたみたいですね。

良かった、これで少しはお返しも出来……」


「ッ!?――」


「きゃぁっ――!? 」


……


「……ア、アイナ?

こっ、此処で何をしてた……?」


「す、すみませんっ!

そ、その……ユリウス様が……その……

寝苦しそうだったので……」


「なっ……ほ、ほっといてくれ」


「で、ですよね!……すみませんでしたっ!

で……では、私はこれで失礼し……」


「ま、待てっ!……アイナ。

ひ、一つだけ……約束しろ」


「はいっ……?!」


「……あ、明日だ。

明日……昼頃に僕の部屋に来い。

そ、それで……僕が何を頼んでも、

ちゃんとその通りにしろっ!

そしたら……全部、許してやる……から……」


「へっ……?

そ、それって……あわわわっ!?

わわわ私っ……そう言うことは出来ませんっ!!!」


「来てくれない……のか?」


この瞬間、ユリウスは酷く切なげに肩を落とし――


「へ……?

い、いえっ!……来ますっ!絶対来ますっ!」


「……そ、そうか。

なら……良い、下がっていい……


あっ、ありがとう……」


「へ?」


「聞こえてただろっ!……は、早く下がれよぉっ!」


「はいぃっ!……しっ、失礼しますっ!」


……


「……な、何なんだろう。

あ、明日……私……どうすれば良いんだろ……」


……妙な『誤解』を過ぎらせつつも

アイナは、自室へと戻り眠りに就いたのだった。


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