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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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第75話:『かがやいて』

――深夜、アイナの絶叫が

アイゼンドルフ邸に響き渡った日から数え、一週間後の事。


……屋敷の厨房と食堂には手が加えられ

バルトに依って展開された『毒蛇包囲作戦』と

そんな彼から、御使いを頼まれたメランダの

『屋敷内害獣駆除作戦』が同時展開されていたこの日。


アイナの下に届いた一通の手紙。


……それは、アストラル公爵家の庭師

ジョセフからの物だった――


……


「え……」


――手紙を開いた瞬間、アイナは言葉を失った。


『遥啓《ようけい》


緑なす梢《こずえ》を渡る風も、

心なしか寂しく感じられる今日この頃、

アイナ様におかれましては、

他家でのご奉公、いかがお過ごしでしょうか。


貴女が別の屋敷へ手伝いに行かれてから、まだ一週間程。

されど、貴女のいないこの屋敷は、

驚くほど活気を欠いており、時の流れが酷く遅く感じられます。


若様もまた、貴女の細やかな気配りや、

屋敷を明るくする働きぶりを大変懐かしんでおられ、

事あるごと、寂しさを隠しきれないご様子です。


……そして、若様のみならず、

同じ屋敷を支える同僚たる私もまた、

貴女の不在を心細く思っている一人にございます。


庭から見える窓辺に貴女の姿がないだけで、

いつもの仕事の調子が狂うような、

奇妙な感覚を覚えております。

私たちが日々、どれほど貴女の存在に助けられ、

励まされていたかを、この一週間で深く思い知らされました。


慣れぬ環境での二週間、

さぞ気苦労も多いことと存じます。

どうかお身体を大切になさってください。


屋敷の全員が、そして私も、

貴女がこの場所へ無事にお戻りになる日を、

今か今かと待ち侘びております。


謹言


ジョセフ・アルヴェイン』


……


「ジョセフ、さん……よね?」


……アイナは『絶句』していた。

そして――


「い、いや……八割以上

分かんないんですけどぉぉぉッ!?」


――この日、改めて

ジョセフの『家柄』を再認識していたアイナ。


ともあれ……この後。

そんな『解読不能』な手紙を懐に仕舞い

この日も、アイゼンドルフ邸での家政に

全力を尽くそうと決意をしたアイナ。


そして……昼食時を過ぎた頃、一週間前の約束通り

ユリウスの部屋を訪れていたアイナは――


◆


「……うん、これで窓も開けられる様になりましたっ!

唯《ただ》、埃が舞ったりとかは無いと思いますけど

ユリウス様は一応、離れててくださいね!」


「き……気をつけろよ」


「へっ?……あ、ありがとうございますっ!」


「なっ?!……バ、バカッ!壊すなって意味だっ!」


「え~、心配して貰えたって思ったのに~……兎に角!

開きますね~……」


「お、おう……」


……直後。


長らく開けられる事のなかった窓は

軋む様な音を立てながらも

ゆっくりと開かれ……そして。

部屋には清浄な空気が流れ込み――


「……ぶわぁっ!?」


――瞬間


ユリウスの髪は風に舞い上がり

その、儚くも美しい顔は昼の日差しに依って

綺羅びやかに照らされた――


「へっ!?……だ、大丈夫ですかユリウス様っ!?」


「かっ、風に煽られて少し髪が乱れただけだっ!」


そう言うと、何故か慌てて髪を整え始めたユリウス。

だが……一方で、アイナは

ユリウスの乱れた髪に注目しつつ

机においてあった櫛《くし》を手に取り――


「あぁっ!手ぐしだと髪の毛引っ張っちゃいますからっ!

貸してくださいっ!……こうやって、毛先から少しずつ

ゆっくり通すと、もつれたり切れたりしづらくて!……」


――そう言ってユリウスの輝く銀の髪を梳かし始めた。

だが、当のユリウスは僅かに震えていて……


「さ、触るな……止めて……」


「へっ……?」


「き……切っちゃ駄目だ……駄目なんだッ!!!」


……その言葉とは裏腹に、震える手で力無く

アイナの手を押し退けたユリウス。


そして、驚くアイナに対しユリウスは続けた――


「お、お前はこの間――


『ユリウス様は髪を切るべきです!』


――って言った。

でも……駄目なんだ……っ……これを切ったら……

母さんが……母さんが……消える……から……ッ……」


――溢れる涙を隠す事もせず

膝から崩れ落ちる様に、

髪を護る様に……静かに、手を添えたユリウス。


アイナは……暫くの間、言葉を失っていた。


「……分かりました。

じゃあ……切りましょう」


「な……止めて……っ!……誰か……助け……」


「ユリウス様、説明しますから

先ずは、鏡を視てください……」


……そう言って、手鏡を差し出したアイナ。

恐る恐るそれを受け取ったユリウスに対し、

彼女は静かに続けた。


「……日差しにあたると輝いて綺麗ですし

ユリウス様は整ったお顔立ちなので、伸ばしても

全然可笑しくないですし、寧《むし》ろ

凄くお似合いなんですけど……でも。


鏡で良く見てください……毛先、凄く傷んでませんか?」


「す……少し、跳ねてる……けど……」


「そう、それです!……正確には『枝毛』です。

折角、綺麗な御髪《おぐし》なのに

そのまま放置してると、どんどん悪化して

最終的には維持出来なくなっちゃいます。


それから……不安にさせる様な事を口走って

申し訳ありませんでした。


でも……伸ばしたいと仰るのに

それを無理やりに切ったりはしません。


唯《ただ》……思い出は、取っておくだけじゃなくて

ちゃんと手入れしてあげて欲しいんです。


……あと、折角のカッコイイお顔が勿体無いので

伸ばすにしても、括ったりして

お顔が見えるようにしてて下さいね!」


そう言って笑みを浮かべたアイナ。

一方のユリウスは、そんなアイナを――


「も……もう、掃除は終わったんだから!

へ、部屋から出ていけよっ!……」


――そう言って、部屋から追い出したのだった。


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