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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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第71話:『つかまえて』

ざわつく使用人たち。


『呪われる』『冗談じゃねえ』『厄災が降りかかる』


そんな声が漏れ聞こえる中

猟師のバルトは、強く咳払いをして――


「……嬢ちゃん、その蛇の大きさは?」


「分かりません」


「……色は?」


「分かりません」


「なら……見かけた時間は?」


「……深夜だったと思いますけど

私は直接には見て無くて……正確な時間は分かりません」


「チッ……情報が少ねえな。

毒蛇ってのは種類によっちゃあ洒落にならんのだぞ?」


――少ない情報量に舌打ちをしつつ、そう言った。

だが、そんな彼に対し

セシリアは――


「深夜一時頃、逃げた先は間違い無く雑木林でした。

方角は……直接指し示したほうが早いでしょう」


そう言って情報に補足をつけた。

だが、そんな中……エルンストは

それらの会話を遮る様に、声を上げた。


「お待ちくださいッ!!……百歩譲って、

毒蛇だとして……ならば何故

執拗に当家ばかりを狙うのです?!」


「……狙ってんじゃねえさ。

その蛇の棲みやすい場所が、たまたま

この屋敷の周辺にあったってだけだ。


……逃げた先が雑木林ってだけで充分だが

人が入らねえ場所ってのは案外存在するもんだぜ?

更には小動物やら水場でもあれば、蛇にとっちゃあ楽園だぜ」


「で、では……深夜に物音が響くのは?!」


「其奴は知らねえが……鼠でも居るんじゃねえのか?

もしくは、猫が住み着いてるか。

或いはその両方か……この屋敷のデカさなら

壁の中は猫でも鼠でも走り放題だろうさ」


「なっ……」


絶句するエルンスト、そしてアイナは手を打った。


「あぁぁぁっ!だからあの時、音が飛んでたんですね!

よかったぁ~っ……まだちょっとだけ

このお屋敷、おばけが居るのかと思ってました」


「“そっち”が居るかどうかは別としても、だ。

家に出る獣やらの駆除は、残念だが俺の専門じゃ無え。

だが、知り合いは居る……必要なら後で連絡は取ってやるさ」


……バルトは後ろ頭を掻きながらそう言うと

足元に置いていた道具鞄を担ぎ

アイナとセシリアに目を向け、案内を頼んだ。


「さて……仕事の時間だ、案内してくれ」


彼がそう言った瞬間、場の空気はガラリと変わった。

殺気とも、覇気とも違う覚悟の様な彼の感情は

使用人たちの恐れをも飲み込むほど、強く――


◆


「……成程な。此奴《こいつ》ぁ確かに住み良い場所だろうぜ」


――雑木林にて。


到着早々、少し皮肉った様に言ったバルトに対し

セシリアは冷静に問うた。


「そうですか……駆除は可能でしょうか?」


「ああ、やり方は多岐に渡るが……一つ確かなのは

少なく見積もっても一週間、酷けりゃ三週間は掛かる。

駆除だけならまだしも……って、此奴ぁ……チッ。


……嫌なモン見ちまった。

嬢ちゃん……それと、

そっちの『黒ずくめの姉さん』もだが

こっからは、ちょっと下がってな……女子供には

あまり気持ちの良い絵面じゃねえからな……」


そう言うと、何かを隠す様に雑木林側に立ったバルト。

だが、その行動の真意に気づいたセシリアは――


「お心遣いは感謝を。ですが、その猫は証拠であり

毒蛇の犠牲者です……隠す必要などありません」


「……その口振りだと、アンタは見たんだな。

分かった……なら、先ずは。

此奴の仇討ちの為にも、此奴自身に『教わる』か」


……そう言って、手袋をはめたバルトは

猫の死骸へと静かに近づき、手を合わせた後

そっと、傷口の様子を確認した。


そして――


……


「成程、良く分かった……ありがとうな」


――暫くの後、そう言って再び手を合わせたバルトは

ゆっくりと振り返り、アイナたちに対し

ある、見立てを報告した。


「……傷の深さ、傷口と傷口の間隔も相当に広い。

此奴は小型の毒蛇じゃ無ぇ……なかなかに大きな野郎だ。

ましてや、複数回に渡って噛んだ後がある。


相当『焦って』やがったみてえだぜ、毒蛇の野郎は……」


バルトの報告に、使用人たちが怯える中

アイナは、静かに猫へと歩み寄り――


「……沢山、教えてくれてありがとう。

ちゃんと、君が眠れるように……お墓。

立てるから……っ……」


――堪えきれず、涙を流しながらも

必死に手を合わせ、小さな命を悼んだ。


……そんな彼女の背後で

セシリア・ヴァレンティアは

静かに手を合わせ……そして。


懐から、一枚の大きな白布を取り出すと――


「アイナ……その子を、天に送ってあげましょう」


――そう言って、弔いの準備を整えたのだった。


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