第70話:『うけとめて』
「……少し、熱い」
「あ~……以後気をつけます!
その代わり、今度は『適温』で持ってくるので
すぐに扉開けてくださいね?」
「……怪我の事は、もう良いのか?」
「いえ!……それは、念の為にお医者様を呼ぶべきです。
どうしても嫌なら、私で良ければ治療しますし。
他の方が良ければその方に……でも。
お坊ちゃまのやり方だと、痛みが取れないですよ?」
「……その、お坊ちゃまって言うの止めてくれ」
「はい!では……お名前を!」
「……ユリウス。
ユリウス・アイゼンドルフだ」
「か……カッコイイ名前ですねぇ……」
「世辞なんて止めてくれ」
「え?自覚無しですか?……」
「……煩い」
「お顔も……」
「煩いって言ってるだろ……もう飲んだんだから
下がってくれ……」
「あっ!忘れてました!……では!
晩ごはんも私が持ってきますね~!」
「……エルンストはどうした?」
「え?パンを買ってきてくれましたよ?」
「なっ、彼奴を使いっ走りにしたのか?……恐ろしい」
「……それはきっと
『お坊ちゃまの為です』ってお伝えしたからだと思います。
……では!また後でっ!」
直後、ユリウスに一礼し食堂へと戻ったアイナ。
一方のユリウスは――
「扉、閉めていけよ……暴走メイド」
――そう言って、静かに扉を閉めたのだった。
◆
一方、食堂へと戻ったアイナは
駆け寄って来た若いメイド『メランダ』から
猟師の到着を伝えられていた。
だが――
「丁度良すぎて、食事する暇がないので
先に、ご飯食べても良いですか?
……ユリウス様が美味しそうに食べるから
私もお腹空いちゃって……」
――『嘘から出た真』
とでも言うべき状況を訴えたアイナ。
彼女は『ミネストローネ』と『パン』を手に
マイペースに食事を取り始めていた。
一方、使用人たちは唖然としていて……そして。
メランダは狼狽えながら問うた。
「……あ、会ったんですか?!
っていうか……た、食べたんですか?!」
「え?……はい、食べてましたし
髪の毛長かったですし、イケメンでしたし
お部屋が意外と綺麗でした。
でも……手は怪我をしていたので
後でお医者様か、そうでなくても
ちゃんと治療の出来る方を連れて行くべきです。
でも、今はご飯食べてるはずなので
邪魔しないほうが良いかもですね~」
あっけらかんと答えるアイナに対し
使用人たちは尚も唖然としていた。
だが――
「な、なら……パンだけじゃ無く
果物とか、そうじゃなくても……デザート位なら……!」
「だよな?!……肉とか食って貰ってよ!
栄養つけて貰いてえよな!」
――使用人たちの中に芽生えた『欲』
だが、これまで沈黙を貫いていたセシリアは
彼らを諭した――
「良い兆候ですが……何れにせよ、徐々に行うべきです。
病中病後の食事と同義であると捉えるのが良いでしょう。
ですが……デザート程度なら構いません」
家政に関わる者たちが畏怖する存在――
【セシリア・ヴァレンティア】
――彼女の発言は、彼らの『欲』を適切な熱に留めた。
そして――
……
「……あ~っ!美味しかったぁ~っ♪
って、皆さんはどうでした?」
――昼食後、ご機嫌な様子で
『ミネストローネ』の出来を訊ねたアイナ。
対する使用人たちは皆、穏やかな表情で
満足気に受け答えていた。
そんな状況に笑みを浮かべたアイナは、
直後――
「良かったです!……っと、メランダさん。
猟師さんは何処に?」
「あちらで半分、不貞た様に
スープを召し上がって居る方がそうですが……」
「え゛?!……いつから?!」
「アイナ様が『後回し』にされた時から
ずっと、いらっしゃいますけど……」
「う゛ッ……」
「……美味かったぜ、嬢ちゃん。
それで、呼び出した理由は?」
「す、すみません……えっとあの……」
「……名前か?
フテネ・ミネストローネとでも名乗っておくか」
「と、共食いっ!?」
「何?……はっはっは!!!
面白え嬢ちゃんだな……バルト・クラインだ。
で?……用件は?」
「あっ……アイナ・リーネルですっ!
えっと、お仕事の内容は……雑木林に潜む毒蛇の駆除です!」
アイナがそう言った瞬間
使用人たちの顔から、血の気が引いた――




