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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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第7話:白への『リネン』

――“守護天使アイナ、噴水浄化事件”


その、翌朝……アイナは

自室で“プリプリ”としていた――


「全く……何なのよ!

公爵家って噴水の掃除くらい

普段からしてるはずじゃないの!?

なんであの程度のことで聖女扱いされるのよっ!?


……まぁ、ちょっとだけ嬉しいけど。

って、そうじゃなくて!……今日こそ辞めてやる。


あの後、結局レナード様からは

『特別報酬』さえ無かったし……もし

本当に噴水《あれ》が呪われた噴水なら

何かしらの害があるかも知れないわけだし

とっ、兎に角……面倒事に巻き込まれる前に

今日こそ、辞めてやるんだからっ! 」


――決意を新たに

今日も今日とて、部屋の扉を

“壊さない程度に”勢い良く開いたアイナは

その足で、レナードのもとへと向かった――


◆


『ゴン! ゴン!ゴン! ゴッ……ガチャッ! 』


「失礼しま……」


――ノックもそこそこに執務室の扉を開いたアイナ

だが、レナードは特に驚くでもなく。


何故か腕を組み、真剣な顔で

アイナを見据えていて――


「アイナ」


「な……何ですか?」


「やはり……君は凄いな」


「な、何がですか?……って言うか

いきなり……なんですか?」


「……噴水の件だ。


あれは……私を含め、昨日まで

屋敷に関わる者が誰も近寄らなかった噴水だ。


それが今や……皆の憩いの場になっている」


「いや、掃除しただけですけど?」


「だとしても、だ」


――レナードは

執務室の窓から白く輝く噴水へ目を向けた。


「これからする発言は、

当主として良いものではないが……正直な事を言えば

私はあまり、気にしていなかったんだ。


……噴水《あれ》に纏わる話を」


「え? ……でも、レナード様は昨日完全防護で……」


「……汚れていても

『水が出るなら問題ない』……そう、思っていた」


「無視ですかそうですか」


「……だが、綺麗になった今なら分かる。

皆、こんなにも喜んでくれるのか……と」


――穏やかな声だった。


その横顔を見た瞬間、アイナは

少しだけ胸の奥にむず痒さを感じていた。


「そ……それは当然ですっ!

汚いより、綺麗な方が良いに決まってます!」


「ふふっ、君らしい答えだ」


「なっ……」


――さらりと笑うレナード


一瞬、その笑顔に見惚《みと》れ掛けたアイナは

慌てて顔を背けつつ――


(だ……駄目よアイナ!

何をちょっと“良い感じ”になってるのよ!

この男、あなたの誕生日を忘れてたのよ?!)


――脳内で必死に自分へ言い聞かせる。


だが、その直後――


「ア……アイナ様ぁぁぁっ!!」


――遠方から聞こえたジョセフの絶叫。


直後、慌てて執務室を飛び出したアイナに対し――


……


「た、大変ですだぁっ!!

リネン庫が、リネン庫がぁぁぁっ!!」


「……は?」


「良いから、早く来るだよ~っ!」


「なッ?!ちょ、ちょっとぉっ?!……」


◆


――数分後。


アイナは、半ば強制的に

屋敷のリネン庫に連れて来れられていた。


「うっわ」


ジョセフが扉を開けた瞬間

アイナは思わず顔を引き攣らせた。


……積み上がった大量のシーツ

テーブルクロス、ナプキン……だが。


そのどれもが――


「すっごい……黄ばんでる」


……長年の蓄積。


白布は全体的にくすみ、所々に

薄茶色の染みまで浮いている……一方

使用人たちは深刻そうな顔で俯いていた。


「それが最近、何度洗っても白さが戻らなくて……」

「そうなのよね……捨てるにしても

旦那様に許可無くは駄目でしょうし……」

「このままでは、公爵家の品位にも……」


――重く沈んだ空気。


だが……そんな中、アイナだけは

何故か不思議そうに瞬きをしていた。


「は? いや……え?

皆さん、何でそんな深刻そうなんですか?」


「だって、この量を捨てるとなったら……」


「いや、なんで捨てるんですか?

これくらいなら普通に漂白できますけど?」


――キョトンとしたアイナの発言

沈黙、そして――


「「「えぇぇぇぇぇぇっ!?」」」


絶叫が響いた。


「た、たたた……“ただの黄ばみ”ではないのですよ!?

これは長年蓄積された“呪いの変色”で――」


「いや、それは皮脂汚れでしょうが」


「えっ」


「えっじゃなくて……と言うか

何でもかんでも呪いにしないで下さい」


呆れ果てたアイナ、直後彼女は

ジョセフに対し、ある『お使い』を頼んだ――


「えっと……ジョセフ。

卵の殻を、大量に大鍋で煮てきて下さい」


「た、卵の殻をだか?」


「ええ、そうです」


「た、食べるんで?」


「食べません」


「じゃ、じゃあ何で……」


「漂白です」


「……へ?」


◆


――数時間後


洗濯場に持ち込まれた大鍋……その中では

アイナの指示通り、砕かれた卵の殻が白く踊っていた――


「さてと……良いですか?

卵の殻には漂白効果があるんです。

特に、白いリネン生地とは相性が良いんですよ? 」


――手際よく説明しながら

アイナはシーツを鍋へと浸していく。


一方、周囲の使用人たちは

皆、固唾《かたず》を呑んで見守っていた。


「な、何ということだ……」

「殻を煮沸しただけで……」

「浄化の儀式だ、無から有を生み出す神事だ……」


「だから、洗濯だって言ってるでしょうがッ!!」


――もはや恒例と成った使用人たちからの“拝み”

この後、汗だくになりながらもアイナはリネンを煮続けた。


それは――


『神事を穢せない』


――と、だれも代わろうとしなかったからである。


◆


……時は過ぎ、日が傾き始めた頃

洗い終えたリネンは中庭いっぱいに干された。


風が吹き、白さを取り戻した布が揺れる

太陽に輝いたそれは、

まるで、雪景色のようであった。


「良かった~白く戻ってくれて」


――笑みを浮かべ、そう呟いたアイナ、

直後、そんな彼女に掛けられた声。


「ああ……綺麗だ、アイナ」


「へっ? ……レ、レナード様?!

いいいっ!?一体、何を仰るのですかっ?!」


「本当に綺麗だ……まるで、雪のように白い」


――彼は、白布を見上げながら静かに微笑んでいた。


「あっ……そ、そっち……ですね」


「しかしアイナ……君は本当に凄いな。

屋敷が、どんどん明るくなっていく……君のお陰だ」


「なっ……た、たまたまです!

私は唯《ただ》……学んだとおりにやってるだけです」


「学んだ? ……何処に学びに行ったんだい?」


「その……基本的な事は、お父さんとお母さんから。

でも、それとは別に憧れてたんです。


……凄く、素敵な白いメイドさんに」


白布が風に揺れる中

アイナは遠くを見つめながら、ぽつりと呟いた。


「……その人、すごい人だったんです。


恩人であり、憧れの人でもあって……私

子供の頃、その人みたいになりたかったんです」


――レナードは何も言わず、唯《ただ》静かに

アイナの横顔を見つめていた……だが。


直後、そんな静寂を崩す

ジョセフの慌てた声――


「た、大変ですだぁぁぁっ!!」


――響く絶叫


「今度は何よっ!?」


駆け込んできたジョセフは半泣きで叫んだ。


「し、使用人達がっ!

“聖女様が天より白布を降らせた”とか言いながら

リネンを拝み始めましただぁっ!!」


「はぁぁぁぁぁっ!?

ってか、最早《もはや》イジってるでしょそれぇぇぇっ!」


――中庭の向こう側。


其処には確かに、白シーツへと祈りを捧げる

使用人達の姿があった。


「其処ぉっ!!!

洗濯物に向かって祈るんじゃありませんッ!!」


――アイナの

至極真っ当な指摘が、夕暮れの屋敷へ響き渡る。


その一方――


「……ふふっ」


レナードは、楽しそうに笑っていた――


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