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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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第67話:『つくって』

白の継承者、試験会場として指定された


【アイゼンドルフ伯爵家】


……だが、伯爵家の置かれた状況は

余りに、異質なものだった。


にも関わらず……試験当日の朝。

アイナは何故か、やる気を漲らせていて――


……


「でしたら……先ずは、メランダさん。

猟師さんを早急に手配して下さい!」


「り、猟師さんですか?!……な、何故いきなり……」


「急ぎの用事で……って、言うか緊急です!

急がないと……世界が危ないんですっ!世界がっ!」


……嘘である。

だが、少なくともその『必死さ』は伝わったようで――


「わっ、わかりましたからっ!

いつまでにお呼びして置けば……」

「可能なら今すぐにでもっ!」

「ひぃ?!」


――ともあれ。


この後、無事に『手配』をすませたアイナは

朝食に手を付けつつ、屋敷の問題点を

メモに羅列し始めていた。


……


「えっと……ご子息様のご飯問題と……

お部屋の清潔度も気にする……それから……」


「何を為さっているのです?」


「ヒィッ?!……って、エルンストさん?!

あ、あの!……ご子息様は、もう御飯食べられました?」


「……わかりません。

食事の提供が遅れてしまったので、

この様なメモ書きが――


【遅い、殺す気か。

あと、なんか煩い。静かにしろ】


――アイナ様、どうかお静かにお願い致します。

屋敷の律動《リズム》をお乱しに成られますと

此方と致しましても、対応を考える必要が……」


「食べたかどうかの確認もしないんですか?」


「……はい?」


「美味しかったか、不味かったか……元気かどうか

他に欲しいものはないか、お風呂は?

お手洗いは?……遊びたい物は?

何も、訊ねないんですか?」


エルンストは、再び口籠った。

そして、響き渡った何かの割れる音――


『ガシャアァァァァァアンッ!!!』


――瞬間

使用人たちの表情が凍った。


そして、エルンストは再び口を開く――


「ご子息様です……やはり、静かにしているべきです」


「ええ……『怒ってる』って事なのはわかりました。

でも、そんな事より……今は

気にすべき『問題』があるはずです」


「どう言う事です?……って。

アイナ様っ?!何処へ!?」


「決まってます、箒《ほうき》と塵取《ちりと》り。

それから、念のために救急箱も用意して下さい。

必要ならお医者様の手配も……」


「なっ?!……お待ちください!

その様な勝手事は謹んで頂きたいと……!」


「勝手事じゃありませんッ!

……怪我してるかも知れないのに放置するんですか?

エルンストさん……貴方は、誰に仕えてるんですか?

誰を……何を護るために此処に居るんですか?」


再び口籠ったエルンスト、直後。

そんな彼を放置し『ご子息』の部屋へと走ったアイナ。


彼女は――


◆


「すみませんっ!新人メイドのアイナです!

お怪我はありませんか?!

割れた欠片は私共のほうでお掃除しますから

決してお触れに成らない様に!……」


『ドンッ!!!』


――扉を殴ったかの様な音が響く。

そのことにほんの一瞬、狼狽《うろた》えつつも

アイナは尚も続けた――


「……部屋に入るなと仰られるのなら入りません。

でも、お怪我をされているのなら

せめて、救急箱を受け取って下さい。


た……正しい手順は、傷口を良く洗って

ガラス片が残っていないかを確認し

それから、傷口の保護を……」


『ドン、ドンドンドンッ!!!』


……再び、響き渡った殴打の音。

アイナは……怯えつつも、尚も続けた。


「お怪我が無いのなら良いんです……ですが、せめて。

もし割れたガラスがあるのなら、せめて触ったり

近づいたりしないように……」


そう言い掛けた瞬間、背後から掛けられた冷たい声。


「アイナ様……お戻り下さい」


それは、エルンストのものだった。

だが、アイナは一歩も引かなかった。


「いやですッ!!エルンストさんにとっても

ご子息様は大切な主の筈です!

黙って引き下がるわけには!……」


「声をお控えになりなさいッ!!!」


「エルンストさんだって大声ですっ!!!

そんな元気があるなら、エルンストさんも

一緒にお願いして下さいっ!」


――暫くの間続いた押し問答

だが、この騒ぎは突如として幕引きを迎えた。


……


「……怪我は、してない。

放っておいてくれ……出来るだけ、静かにしててくれ」


扉の向こうから発せられた、若い男の声。

その声は、酷く掠れていた。


「う、煩くしてすみませんでした……えっと

お、お昼には温かい物をお出ししますので

それでお許しを……」


「要らない……何時もので良い」


「そ、そうですよね~!……でも。

お試しで添えておきますから!」


「……」


以降、返事は無かった……だが。

直後、アイナは扉に向けて一礼すると

一直線に厨房へと向かった。


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