第65話:『生きて、居て』
――翌朝。
起床直後……アイナは
いの一番にトランクを開いて居た。
そして――
「確か……あった!
でも、どうしよう……
ここからだと遠いし……う~ん」
――彼女は、ある『手帳』を開き唸っていた。
「……でも、ちゃんとしないと。
私に出来るのは、きっとこれくらいだから……」
……暫くの後、トランクから筆記具と手紙、
そして、封筒を取り出したアイナは、
手帳に記された連絡先宛てに
手紙を認め――
……
「よしっ!……後はこれを出来るだけ早く……」
『コン・コン・コン・コン』
「にゃぁっ!?……は、はいっ!
って、セシリアさん!?
そっ……その……き、今日から
宜しくお願いしま……ッ?!」
……現れるや否や
アイナの手から手紙を抜き取ったセシリア。
そして――
「成程、良い案ね……でも、少し惜しい。
この手紙が届き、実務と成った頃には
貴女は試験を終えて居……」
「そっ、それでも良いんですっ!
だって……もう、これ以上。
き、昨日みたいな……」
……俯き、拳を握りしめるアイナに対し
セシリアは――
「……『猟師』ならば。
アイゼンドルフ家にも知り合いは居るでしょう。
庭師、或いは若いメイドに訊ねなさい。
『急ぎの用である』と……はっきりと」
「へっ?……は、はいっ!」
「……他には?」
「ほ、他……?」
「……いえ、なんでも無いわ」
「いや、気になりますってその言い方ぁッ!!」
……ともあれ。
この後……朝食を摂る為
食堂へ向かったアイナとセシリア。
だが――
◆
「ひ、広い……」
――豪華絢爛なシャンデリア
長い白卓、完璧に整えられた銀器……だが。
そのどれにも、使用感が見られない。
「……此処は、使用人用ではありませんね」
セシリアはそう言ってエルンストを見つめ
エルンストは例に依って二人を『客人』と説明した。
だが――
「……それでは試験になりません。
使用人の使う食堂は何方に?
此処は、使われていないのですか?」
昨日とは打って変わり
矢継ぎ早に質問を投げかけたセシリア。
そんな彼女に対し、エルンストは伏し目がちに
小さく答えた。
「……半年ほど前、当主様がお戻りになられた際
久々に、火を入れたのですが……」
「成程……『点かなかった』のですね?」
……声を出さず、静かに頷いたエルンスト。
そして――
「も……勿体なくないですか?
こんなに綺麗で立派なのに……」
――深く考えず、思ったままを口にしたアイナに対し
エルンストは、短く反論をした。
「……此方は。
あくまで、来客や当主様がお使いに成る場所です」
「で、でも……『使えない』んですよね?
せめて……直さないんですか?」
そう問うたアイナに対し、エルンストは口籠り
そして――
「……本日、お二人様には
此方で朝食をお出しする予定でしたが
セシリア様のご要望も御座います。
……移動致しましょう」
状況を有耶無耶にする様に、直後
二人を使用人用の食堂へと案内したエルンスト。
すると――
◆
「つ……使い込まれてますね」
――先ほどとは打って変わり。
使用人たちの使う食堂。
その奥に続く調理場は、余りに……『荒れて』いた。
煤だらけの竈、傷だらけの調理台。
調理器具は、どれも痛みが激しく
お世辞にも環境が良いとは言えない状態だった。
だが――アイナは『喜んで』いた。
「……凄く、いい感じですっ!
後は多分、煤を落としたり~
包丁類は研ぎに出したり~それから
お鍋は金物屋さんに直してもらったほうが~……って。
な、何ですか?……わ、私変なこと言いましたッ?!」
集まっていた使用人たちは
顔を見合わせ、困ったように口籠り
エルンストは静かに溜息を吐き――
「……私共の為、その様な費用の申請を行うのは
少々……都合が悪う御座います。
どうか……この件は、内密に」
――そう、諦めた様な眼差しを浮かべ言った。
だが、アイナは何故か
笑みを浮かべていて――




