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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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第63話:『止まって、居て』

――幾ばくかの時が過ぎ。


セシリアと共に馬車へと乗り込んで居たアイナは

たった今、見送ってくれたレナードたちとの会話さえ

忘れてしまうほどに、余裕を失っていた。


……


「……セシリアさんは、私が大丈夫だって。

帰ってこられるって……思いますか?」


……遠ざかるアストラル邸

静かに進みだした馬車の中、アイナは

絞り出す様にそう問うた。


「私には……貴女の色を決める権利は在りません。

ですが、同時に……外を見る事は無駄では在りません」


「……そんな。

そんな事を訊いている訳じゃッ!!……」


「アイナ・リーネル……貴女が

アストラル公爵家で培った“白”が

貴女が、護りたいと思う“色”が。


外の世界でも変わること無く、

咲き続ける事が出来るのか、それとも

決まった場所でしか咲けない色なのか。


……アイナ・リーネル。

貴女は、それを知らなければならない」


「……知って、どうするんですか?

私は、白の継承者なんて役目はッ!……」


「いいえ……『役目』では、在りません。

アイナ・リーネル……あれは『呪い』の様なもの。


それは……いつしか祀り上げられ

絶対的権威として扱われ始めた

一人の人間を縛り付けようとする

絶対の『呪い』なのです……」


「ッ……なら、どうしてッ!!!」


「……それが『呪い』だと知っていても

背負わなければ成らない色が在るのです、アイナ。


貴女は……『呪い』を得るだけでは成りません。

貴女は、それを……『祝い』にしなければ成らない」


「わ、私には無理です……そんなの……っ……!」


「無理ならば……貴女は色を失う事になる。


……耐えなさい、アイナ・リーネル。

貴女ならば耐えられる……保ちなさい。

貴女なら、白を保てると……信じなさい」


『突き放すように、引き寄せる』セシリアの物言いは

余りに抽象的すぎて……だが、同時に

セシリアの信念は、誰にも染まらぬ強さを持って居た。


◆


「……そろそろ、到着致します」


僅かに掠れた御者の声……月明かりの中

遠く微かに見え始めた屋敷は

近づけば近付くほどに、驚くほど


『輝いて』いて――


……


「セシリア様、アイナ様……到着致しました」


――御者に依って開かれた馬車の扉。


夜だと言うのに、煌々と明るく光る外灯

一切の乱れ無く、完全に整えられた屋敷までの道。


少なくとも、それは……アイナが予想していた

『悍《おぞ》ましさ』ではなかった。


だが――


「……相変わらずですね、この家は」


セシリアは静かにそう呟いた。

そして、その言葉が意味する所を理解出来ぬままに

アイナは屋敷から現れた執事に依って、

邸宅内へと案内された。


「エルンスト・ハルトマン……久し振りですね。

息災でしたか?」


「……ええ、お陰様で。


セシリア・ヴァレンティア様、並びに

アイナ・リーネル様……当アイゼンドルフ伯爵家は

王都中央政権、及び家政管理院直々の要請に則り

『白の継承者』試験の為、屋敷の開放を行います。


……期間は二週間、試験開始日は明日の正午から

終了日の正午まで、と承っております。


相違《そうい》御座いませんでしょうか?」


……この瞬間。

アイナは漸《ようや》く理解した。

『この家には、血が通っていない』……と。


「……ええ、では案内を」


そして、セシリアは感情を閉ざしたかの様に

監査官としての色を強め――


「承知致しました……ですが。

その前に、幾つか『お願い』がございます」


――執事エルンストは無機質にそう発した。


「……聞きましょう」


「では……先ず。


『試験内容の最終判断はセシリア監査官に一任せよ』


との、ご用命を頂いておりますが

当家には当家の律動《リズム》が存在しております。

故《ゆえ》に……それを著しく崩される行為、行動は

厳に慎んで頂きたく……目に余る場合、

王都への報告を行う可能性もございます」


「配慮致しましょう」


……僅かに低くなったセシリアの声。

エルンストは、更に続けた――


「……一つ。

当家のご当主様は現在、所用にて不在で御座います。

その点をご了承頂きたい、次に。


当家では、夕暮れから夜明けまでの間

外灯を絶やす事を禁忌としております。


……異変にお気づきの場合、何時《なんじ》であろうとも

私か、庭師の何方《どなた》かにお伝えを。


次に……当家の内情、及び

特に、ご子息様に対する情報の一切は

他言無用として、軽々しく外部にお話にならない様。


こちらも、厳に慎んで頂きたい。


その他、問題と成る様な行為、行動をお見かけした場合は

都度、注意をさせて頂きますので……指示に従い

直ちに該当の行為、行動をお控えいただければと。


では……お屋敷にご案内致します」


――そう言って

胸に手を当て、浅くお辞儀をしたエルンスト。


執事らしいその立ち居振る舞いとは裏腹に

彼の腰には、鈍く光る『鞘』が提げられていた。


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