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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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第57話:『悪化』

――応接室には、既に二人の来訪者が居た。


一人は家政管理院・最高責任者――


【セシリア・ヴァレンティア】


――彼女は、

以前と変わらぬ、黒手袋と黒いベールに身を包んでいた。


そして……もう一人。


王都侯爵家次男『クラウス・エーレンベルク』は

余裕の笑みを浮かべ、其処に居た――


「いやはや……良く会うねぇ?レナード公爵」


「私は、招いた覚えはないのだがな」


レナードは、ごく短くクラウスへと一瞥を向けた。

だが、すぐに視線をセシリアへ移し――


「セシリアさん……用件は『例の話』ですか?」


――黒いベールの奥、彼女の表情は以前よりも見えない。

だが、その沈黙は明らかに重く――


「あ~……私が説明しよう。

先だって届いただろう訴状……いや、失礼。


『要望書』についての話で間違いないさ。

簡単に言うなら、アイナちゃんは

“有名に成りすぎた”のさ。


『白の継承者候補』……だなんて。

図に乗るのが悪いんだ……少し、反省すべきでは?

違うかい?……レナード・アストラル君」


「……クラウス。

それは王都と家政管理院の総意か?」


「大体はね……だが、友達としての忠告が主かな?

何れにせよ、今回は少々問題が大きくなった。

それは……理解出来るだろう?レナード」


「……言葉を選べ、クラウス。

仮にも私は公爵家の当主だ。


……そもそも君は、前回の非礼さえ詫びていない」


「……これは失礼をした。

とは言え、私はあくまで友達として、

君の“公爵殿”の立場を悪くしないために――」


「エーレンベルク卿、本題を」


「――おっと。


確かに……セシリアさんの仰る通りだ。

ですが、その前にもう一つ……」


クラウスは、そこで初めて。

レナードの背後に立つアイナへと視線を移した。


「……先程から、随分と静かに佇んでおられる。

そちらの“当事者様”からも、ご意見を伺いたいのですが?


当然……構いませんよねぇ?レナード公爵」


「……物言いを改める気はない様だな、クラウス」


レナードの冷たい視線……一方で、

クラウスは……わざとらしく、

胸に手を当て――


「おや、失礼致しました……それで。

構いませんかな?……レナード公爵殿?」


――そう言って、嘲笑《ちょうしょう》じみた笑みを浮かべた。


「……私の大切な使用人に対し

『権利を奪い、牢に閉じ込める』と脅し

剰《あまつさ》え、非礼を詫びず、態度も改めないとは――


――私に、決闘でも申し込んでいるのか?

クラウス・エーレンベルク……」


「おぉっと、怖い怖い!……

……私にそんな勇気はありませんよ、公爵殿」


「なら、少しは態度を改めろ……話はそれからだ」


――レナードの声は、低く静かだった。


「失礼……では、此処からはあくまで“事務的に”

正式な確認事項を……あ、いえ。

説明はセシリアさんにお任せしましょうかねぇ?」


「……それが良いだろうな」


「では、ご説明致します――」


セシリアの声は冷静だった……だが、この瞬間

礼節を重んじる彼女には珍しく、

レナードに対しては疎か、

“当事者”である筈のアイナにさえ

一瞥たりと向けず、唯《ただ》……淡々と。

彼女はまるで、何かを押し殺しているかの様に語り始めた。


それは、余りに大きな違和感だった――


「――先《ま》ず、結論から申し上げます。


アイナ・リーネル、貴女には――


『白の継承者候補』


――として、適性審査を受けていただきます。


その審査内容は――


『他家における一定期間の家政補助』

環境を整え、主家……及び使用人達の状況を見極める事。


目的は――


『白の継承者』として相応しい判断力を示し、

貴女の実力が、真実であると証明する事。


……以上が、本日の訪問理由です」


説明を終えた瞬間、即座にクラウスは

“付け加えた”――


「……それと“不適格であった場合の証明”も兼ねている。

流石は、セシリアさん……簡潔で、

完璧に整った、実にわかりやすい説明でした。


ですが……本来の試験では、些《いささ》か手ぬるい」


「……エーレンベルク卿」


……僅かに低く発せられたセシリアの声。


「審査とは、対象を壊すためのものではありません」


「いやはや『壊す』とは……また、なんとも物騒ですねぇ?

私は、唯《ただ》、伝説に相応しい試験を提案しているだけですよ?

それとも……庇いたいだけの理由が在るのですか?

セシリア・ヴァレンティア監査官?」


「……」


……ベールの奥、セシリアは沈黙して居た。


暗く沈んだ、応接室の空気……だが。


その、沈黙に潜む『違和感』に

レナードだけが気付いていた。


……尚も、一瞥さえ向けぬセシリア。

だが、レナードは……最後まで

その違和感を指摘しなかった。


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