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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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第55話:『深化』

――“リディアお嬢様に萌える会。発足事件”の翌日。


アイナは、自室でぼーっとしていた。


「はぁ~っ……疲れた」


前日の“大騒動”を思い出し、机に伏せたアイナ。

だが……それは。

リディアとの勝負に疲れ果てたと言う意味では、

なくて――


――


『……では、わたくし帰りますわね♪

あっ、アイナちゃん様。


……一つだけ、忠告ですわ』


『は、はい?!……な、何でしょうか?!』

(嫌味言われるのかな……)


『覚えておきなさい、王都の皆様は絶対に

貴女を唯《ただ》のメイドだと捨て置いてはくれませんわ。


『白の聖女』

『白の継承者候補』

『レナード公爵の特別な存在』


それらは、必ず……どれだけ貴女が否定しようとも

たとえ、レナード様自身が強く否定しようとも

抗えぬほど、貴女について回る噂ですわ?


だからこそ……アイナちゃん様。


貴女は、貴女自身の白を手放してはなりませんわッ!』


――


「……はぁ~っ。

私、そんな崇高な存在じゃないのになぁ……」


自らの憧れと、周囲からの目線。

……何よりも。

レナードが、この件に関して何も言わなかった事。


それが、彼女の中で重い感情と成って居た――


「怒ったり嫌がったりして貰えれば

きっと、まだ少しは楽なのになぁ……」


――レナードと言う存在が

彼女の中で、分からなくなっていた。


そして……そんな中、リディアが帰った翌日

まるで、彼女の『忠告』を現実の物とするかの様に。


王都から一通の書状が届いた事で

状況は急激に変化し始めた――


……


「……と、言う事だ。


ご丁寧に王都側のお偉方だけでは無く。

家政管理院・セシリアさんの名前も……そして。

私にとっても気分の悪い話だが。


……クラウスまでもが、この『書状』に絡んでいる。


こんな物は、唯《ただ》の嫌がらせだ……」


――朝。

いつもの様に、皆で食堂に集まり

朝食を摂って居た中で起きた異変。


当主レナード宛てに届いて居た

アイナへの『審査要請』……その内容は。

いつ何時も冷静なレナードさえ、

怒りに震える程の一方的なものだった。


「……こりゃ酷えだ。


“噂”なんて王都で勝手に起きてる話だ。

そんなものへの対応に、何で

アイナ様が動かなきゃぁならねえだ!」


……あまりにも珍しい、ジョセフの怒り声。

使用人たちも皆、憤りを感じている様子だった。


そして、当のアイナは――


「……『白の継承者候補』と成った以上、

自らが、それに相応《ふさわ》しい者であると証明する。

或いは、それが不相応である事の証明を行うべきである。


試験は、三日後……こんなの……酷い……」


【白の継承者候補に関する審査要請】


そう、記された書状には

アイナの将来を奪いかねない一文が記されていた。


【尚《なお》、本要請を拒絶した場合。

アイナ・リーネルは、

白の継承者候補を騙ったものと見做《みな》し、

職業選択に関する権利を一時凍結。

然るべき審理の後、拘禁処分を行うものとする】


……言うまでもなく。


それは……到底。

受け入れがたいものだった――


「……アイナ様。

おらたち皆で協力するだ、絶対にアイナ様を……」


「いえ……いいんです。

私、きっと何処かで調子に乗っちゃってたんです。

皆さんに褒めて貰えて、いっぱい喜んで貰えるから

聖女って呼ばれたり、天使って呼ばれたりするのも

恥ずかしいけど、最近は嬉しくもあって……だから……ッ」


――耐え難い、ものだった。


崩れ落ち、肩を震わせ

声を押し殺し、涙をこぼしたアイナ。


……レナードが、静かに拳を握り

ジョセフは静かにアイナの背中を擦る中

メイド長は、ある違和感を口にした――


「……少し前の『監査』の際。

セシリア様は、確かにアイナ様をお認めになられた。


彼女は……外圧を嫌い、群れを嫌い。

そして、孤高と成った存在です……この様な書状に

名を連ねている事自体、あまりに妙です」


――メイド長の口にした『違和感』

だが、レナードは冷酷にも思える一つの情報を口にした。


「……確かに妙だ。

だが、同時に……これは、間違いなく彼女の筆跡で。

そして……彼女だけが使う、インクだ」


その言葉に、食堂の空気は――凍った。


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