第52話:『思いがけない』出会い。
――『リディア・フォン・エルムローゼ』
王都中央伯爵家エルムローゼの令嬢。
彼女は……新聞の見出しと噂を真に受け
【セシリア・ヴァレンティア】を
『バレンタインデーさん』と呼び。
そして……『アイナ』の名前の短さに納得しなかった。
何よりも、彼女は……今も尚。
正門前で大騒ぎし続けていて――
……
「ほ、本当に……お願いしますから帰って下さい」
「何で帰らなきゃ成らないんですの?!
まだ、お茶の一つも出して貰ってませんわ?!」
「いえ、その……此処はそもそも
玄関先ですら無いのですが……」
――やはりというべきか、
アイナは、辟易としていた。
そして……『当然』
この騒ぎが、当主であるレナードに
伝わらない筈も無く――
……
「一体……何の騒ぎだ?」
僅かに呆れたような声
そこにはレナードが立っていた。
「まぁっ!レナード様っ……お久しぶりでございますわ♪」
再び、丁寧に膝折礼をしたリディア。
対するレナードもお辞儀をしつつ――
「……ああ、久しぶりだな。
この間の夜会では見かけなかったが
体調でも崩していたのか?」
「いいえ?少し遅れて会場入りしたのですけれど
その時にはレナード様は見当たらず……お会い出来ず
わたくし、寂しかったですわ……」
「……それは済まなかった。
少し体調が優れなくてな……それで、
今日は……いや、此処で長話は無礼だな。
一先ず、屋敷に案内しよう」
――そう言って
リディアを屋敷内に案内したレナード。
……だが、彼もまた知らなかった。
リディアの目的と、その“面倒くささ”を――
◆
――応接室。
謎の『やる気』に満ち溢れているリディアの雰囲気に
一同が“別の意味”で緊張する中――
「改めまして、お招き頂き有難うございますわ♪
流石はレナード様ですわね!
紅茶もお茶菓子もとっても美味しいですわ♪」
――取り急ぎ提供された『ティーセット』に
とても満足していたリディア。
甘いものに目がないのか
急激にほわほわとし始めたその雰囲気に
アイナたちが気を抜いた、瞬間――
「それは良かった……それで、リディア嬢。
今日は……何用かな?」
「はッ?!……ティータイムに癒されすぎて
忘れるところでしたわっ!……コホンッ!
本日……わたくし、リディア・フォン・エルムローゼは
レナード様と、そちらにいらっしゃる
白の聖女こと、アイナ・リーネル様との
『ご婚約』についてお訊ねに参ったのですわっ♪」
――この発言に場の空気は一気に凍った。
だが、レナードは一切動揺せず――
「婚約か……また、大きな話になった物だ。
差し詰め、王都新聞あたりのゴシップか
或いは王都らしい尾鰭の付いた噂話か。
何れにせよ、その様な事実は無い。
……アイナは当家にとってかけがえの無い存在だが
当主として、その件については
確りと否定して置かなければ成らないだろう」
――毅然とした態度、公爵家当主として
一切の淀み無き物言いと振る舞いに依って
状況は解決するかに思われた。
だが――
「……でしたら、確かめさせて頂きますわ?」
「何をだ?リディア嬢」
「白の聖女、アイナ・リーネル様が
どの様に、このお屋敷に必要な存在なのかを」
「……私が強く注意しなかった事が
そもそもの原因だとは分かって居る……だが。
アイナを聖女や守護天使と呼ぶのは止めて貰いたい。
正直……アイナ自身も困っているんだ。
屋敷内での愛称や、愛情表現としてならば構わないが
少なくとも、嘲笑の目的で用いられる呼称には
何の神聖さも存在しない……リディア嬢。
君なら、理解出来る筈だ」
真っ直ぐにリディアの目を見つめ、
そう言ったレナード。
……一方のリディアは、
少しばかり……いや。
『とんでも無く』居心地が悪そうで――
「お、怒られましたわっ……
わたくしが流した噂じゃないのに……
……王都新聞がそうだって。
社交界の皆様がそうだって言うから……」
「怒っては居ないさ、リディア嬢。
私は唯、聡明な君ならば
きっと理解してくれると信じているだけだ。
無礼な物言いに成っていたのなら謝罪しよう。
すまない……この通りだ」
――胸に手を当て、真摯に謝罪をしたレナード。
だが、リディアは謝罪を受け入れず――
「い……いいえっ!だ、駄目ですわっ!
今受け入れてしまったら、準備が全部無駄ですわっ!」
「準備?……そう言えば妙に荷物が多いが
一体、何を……」
「其処に気付くとは流石はレナード様ですわね♪
では、本日のメインイベントぉ~……ですわっ!
……クラリスっ!準備をっ!」
リディアが側付きに命じた瞬間
側付きメイド『クラリス』は
リディアの背後に並んだ荷物を迅速に解き始めた。
そして……皆が、その異様さに
僅かに興味を持ち始めた頃――
……
「……アイナ様が本当に
このお屋敷に必要な方なのか、本当に
“白の継承者”として適切な力を持っているのか。
レナード様の隣に立つ資格があるのか。
……淑女として。
家を支えられるだけの実力があるのかを示す為――
――わたくしと、勝負なさいっ!
アイナ・リーネル……さんっ!」
『名前の短さ』に詰まりながらも、再び
力強くアイナを指差したリディア・フォン・エルムローゼ。
アイナは、辟易としながらも
精一杯のツッコミをした――
「なんで戦う流れになってるんですかァァァァァッ!!!」




