第47話:『持ち切り』
――“クラウスクラクラ大事件”
少なくとも、アストラル公爵家の使用人たちが
満面の笑みでそう呼び続けた出来事から、数日後の事。
アストラル家の食堂では、ジョセフの『出自』が
密かに……いや。
『激しく』話題と成っていた――
……
「で、どんな家柄なんですか?
いい加減教えてくださいよジョセフ様~っ!」
「違うだろお前!ジョセフ・アルヴェイン様だろ!」
「やめるだぁぁぁっ!
おら、この家辞めるだぁぁぁっ!」
――最早、こっちの方が“大事件”である。
「……おらは、そんなんじゃねえだよ。
七男なんて、家督を継ぐ様な存在でもねぇだし
八人兄弟の七番目だから末っ子って訳でもねぇだし……」
「八人っ?!……す、凄いバイタリティね。
ジョセフ様のお母様って……凄い」
「それで言うとお父様である辺境伯様もだろ……」
「だから、やめるだぁッ!」
――ツッコミ役、ジョセフ。
そんな、中々に大変な状況の中。
アイナは何故か、ぼーっとしていて――
「アイナ様……どうしただ?」
「へぁっ?!……あっ、いえその。
なんでも無くて……」
「何だ?お腹でも空いてるだか?
それとも、別のことだか?」
「本当にっ!……何でも、無い……です、から……」
「それ、何にもない人間の反応じゃねえだ。
そうして一人で抱え込むなら、おら
若様に告げ口してくるだ」
「なッ?!……やめてよっ!!
私はメイド、レナード様は……公爵様なの。
メイド一人の悩み事の為に
公爵様のお手を煩わせるなんて……」
――彼女は、ずっと悩んでいた。
『尊敬・憧れ・親愛……どの様に言い表そうと。
強い思いは、綻びともなり得る。
貴女が彼をどう見つめていようと
仕事を穢さないのであれば構いません。
ですが……仕える以上、見誤ってはなりません』
セシリア・ヴァレンティアの忠告、
クラウス・エーレンベルクの悪意、
そして……自らの大切な居場所に。
唯のメイドと当主と言う関係性に
修復不可能な亀裂を生じさせかねない
自らの、強すぎる想いに――
「……言っただな?」
「へっ?……な、何をですか?」
「自白しただ、悩み事があるって……自白しただ」
「はッ?!……嵌めたわね?!ジョセフっ!」
「良いから、言うだよ~!
口に出せば楽になるだよ~!
怖いのは最初だけだよ~!」
「なんか誘い文句が危ないのよぉぉぉッ!!」
――アイナの絶叫。
そんな中、皆の前へと現れたレナードは
何時もより少し遅めの起床だった。
「少し寝すぎてしまった……済まない皆。
食事は先に食べてくれたか?」
「……そんな失礼なことしねえだよ。
でも、腹減って限界だったから
そろそろ起こしに行こうかと思ってた所だ」
「ふっ……それは勘弁してくれジョセフ。
皆もだが、私を待たずとも食事は摂ってくれて構わない」
……平和で穏やかな朝の一幕
使用人たちは皆、レナードの気遣いに感謝しつつも
皆で協力し、一番にレナードの朝食を用意した。
だが……それは。
唯の愛情表現と言うだけの話では、
無かった様で――
……
「レナード様、ジョセフの家柄については
ご存知だったんですか?」
「レナード様、ジョセフ様が八人兄弟と言う情報について
何か知っている事はあるんですか?」
「レナード様、質問に答えて下さい!」
「何でおらの件で使用人たちが記者みたいに成ってるだ?!」
――使用人たちの興味はあまりに強く。
直後、レナードは少々過剰な睡眠のせいも在ってか
ジョセフとの縁を話し始めた。
「ああ、良く知っている……と言うか、その昔
私の母が、アルヴェイン家で匿われた経験があってな」
「「「「「なんですって!?」」」」」
「……私も母から伝え聞いた程度の話だが、
戦時中だったそうでな……命を救われたらしい。
以降、アルヴェイン家と我がアストラル家には
良縁が続いている……と、言う訳だ」
「ジョセフが母君の命を救った……?」
「ジョセフが兵士……?」
「ジョセフ上級伍長……?」
「なんで半端に階級がたっけぇだッ?!
……でも、そのお陰で
おら、やりたい仕事に就けてるだ。
若様のお母様も無事で良かっただ……縁って不思議だ」
「そうだな……ジョセフ。
君が、我がアストラル家を選んでくれたのは、
母が齎した良縁だと思っている。
……改めて、今後ともよろしく頼む」
そう言って手を差し出したレナード。
直後、少し照れながらも握手をしたジョセフの姿に
使用人たちが感動していると――
「……当主様。
表に、王都からの新聞記者が多数押し寄せています」
――突如として齎された執事からの報告に依って。
状況は、少し妙な方向へと変化する事となった――




