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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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第41話:黒い『白鷺』

――答えられなかった。

その『事実』が、アイナを強く責め立てる。


……一方で、セシリアは何一つ責めない。


それが、あまりにも苦しかった――


「アイナ・リーネル……答えられない事がある時は。

“分かりません”と、相手に意思を伝える必要が在るのです。


これは、使用人としてでは無く最低限のマナーです。


それと……全員、持ち場へ戻りなさい」


――セシリアの一声で、アストラル家の使用人たちは

蜘蛛の子を散らす様に“持ち場”へと戻った――


「は、はいぃぃぃッ!!」

「窓確認急げぇぇぇッ!!」

「銀器指紋チェックー!!」


「怖いだぁぁぁぁぁっ!」


――ジョセフの絶叫。


だが、セシリア本人は極めて静かだった。


「“監査”と言う音の響きだけで何故か皆凍りつく

いつも通りで無い動きなど、ひと目で分かるというのに」


「アッハッハ!……いやはや。


……この屋敷は面白いなレナード。

君が“引きこもる”理由……漸《ようや》く理解出来たよ。


さて、私は屋敷を見て回るか……それとも。

客として饗《もてな》しを頼んでみるべきか。

後者なら、監査の役にも立つが……


……使用人たちからは恨まれるだろうねぇ?」


「成程……それも良いでしょう。

出来ますね?レナード公爵」


この瞬間、アイナは目を見開いた。

セシリアは何故、自分ではなくレナードに問うたのか。


……セシリアは何故、クラウスの様な男を

立てるかの様に振る舞い続けているのか。

それが、何一つ理解出来なかったから。


だが、その意味は直ぐに理解出来た。

レナードの態度に依って――


「……クラウス。


当家の問題が故に、君には手間を掛けている。

大した饗《もてな》しは出来ないかも知れないが

出来る限り、歓迎させて貰いたい」


――笑顔を作り、頭を下げた。

その行動に喜びなどある筈がない。


この上、さらにセシリアは続けた――


「アイナ・リーネル。あなたはどうするのです?」


「へっ?」


「……持ち場は何処です?

メイド長は貴女ではない筈です」


――セシリアは、真っ直ぐにアイナを見つめ問うた。


「わ、私は……洗濯場と庭が主です」


「では、案内なさい……さて。


……レナード公爵、エーレンベルク卿

私とアイナ・リーネルは一度、失礼させて頂きます。


では――」


――この後

即座に中庭へと移動する事になったアイナ。


だが、セシリアが現れた瞬間

中庭の使用人たちは一斉に青ざめた――


◆


「せ、聖女様が試される……!」

「白鷺の魔女による最終審判……!」

「生きて帰って来て下さいぃ……!」


「だから何なんですかその扱い!?」


――アイナは半泣きになりつつも

クセでツッコミを入れてしまう。


相変わらずセシリアは無反応だったが――


「……特に見るところは無い様ですね。


良く、整えられています……ですが。

中庭に限らず、来客が少ないのを良い事に

洗濯物を外から見える位置に干すのは感心出来ません。


いくら美しく“白を整え(ブルーイング)”ていても

要らぬ生活感を見せるものでは在りません。

貴族とは、体裁の生き物なのです」


「は、はい……以後

い、いえ!今直ぐに……」


「その必要はありません。

本来ならば他の使用人たち……特に。

メイド長が気付くべき事なのですから。


……次は、洗い場でしたね?」


「は、はいっ!」


……気付けば、アイナも他の使用人たち同様に

背筋が伸びに伸びていた。


◆


続いて――白布が揺れる洗濯場には

昼の日差しと水音、そして石鹸の香りが満ちていた。


セシリアは、静かに周囲を見回す。


干し方、水切り、布間隔、

桶の配置に至るまで全てを見ている。


「良いですね」


静かに、そう評価をした……瞬間

使用人たちは、遠くでざわめき――


「ほ、褒められたぞ……!」

「また生還率が上がった……!」


「ひぃっ!?……なんでおらだけ睨まれただ!?」


――何故か、ジョセフだけがセシリアに睨まれていた。


ともあれ……そんな中。


「この布」


不意に、セシリアは一枚のリネンを摘まむ。


「卵殻漂白ですね」


「へっ……!?」


――アイナは目を見開き、声を漏らした。


「黄ばみを抑える為のブルーイングも

やはり適切……良い手腕です」


「わ、分かるんですか?!

か、殻なんてついてないのに……」


「当然でしょう」


――セシリアは淡々と言う。


「白は、洗えば良いという訳では在りません。

生地を殺さず、光だけを与える。

全ては、無理やりでは無く……自然でも無く。

自然に“見える”色へと至らせる為。


……他の全てに勝る

他の全てよりも『面倒な色』……なのですから」


「う、うそ……っ……」


「嘘ではありませんよ?

管理を一手に引き受けている貴女なら分かるでしょう?」


「ち、違うんです……私、レナード様と話してた時

白色の事をそう言って、説明したんです。


でも、あれは照れ隠しのつもりで……」


「いいえ、それは真理です。


白は『面倒な色』……泥ハネが付けば簡単には落ちない。

雨粒一つで簡単に穢れてしまう。


……屋敷務めの使用人に

最も多く見られる服の色で在りながら

最も汚れの目立つ『面倒な色』なのです」


「えっと、あの……セシリア様は……」


「……様は必要ありません

呼び捨てでも、さん付けでも構いません。

著しく崩さない限り、言葉遣いも気にする必要はありません。


それよりも……貴女に一つ問いたいことがあります」


「な、何でしょうか……」


「……アイナ・リーネル。

貴女は、アストラル家ご当主様……いいえ。


レナード公爵を、どの様に見ているのですか?」


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