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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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第38話:『理由』

――翌朝。


風に揺れる白布。


朝日に輝く噴水と洗濯場の水音……それは

アストラル家での日常だった。


……


「……ふっふ~ん♪」


アイナは、とてもご機嫌だった。


桶の中、白く泡立つ水……洗い立てのリネン。


この屋敷へ来たばかりの頃は、

唯《ただ》、仕事として洗っていた。


でも今は違う――


「アイナ様、今日は機嫌良いですだ」


「そうですかねぇ?」


「鼻歌が愛らしいですだ」


「あ、愛らしいって何よぉっ!先輩よ!?私ぃ!」


「でも、おらのほうが年上ですだ」


「え?……ジ、ジョセフって何歳だっけ」


「ひ・み・つ……ですだ!」


「ちょっとぉっ!」


今や、庭師としての仕事よりも

アイナの側付き仕事のほうが遥かに多いジョセフ。


そんな二人の騒がしくも微笑ましい掛け合いは

周囲の使用人たちまで明るくさせていた――


「それにしても、本当に良かったですわね」

「はい!聖女様の存在はこのお屋敷の誉れですっ!」

「アイナ様は、アストラル家が誇る光の守護天使様……」


「いつもの事ですけど、皆さん称えすぎですッ!」


――“いつもの”絶叫。

だが、今日は少しだけ笑いながら言えた。


そんな中、若いメイドは疑問を口にした。


「……でも、聖女様って

何でそんなに、白に拘《こだわ》るんですか?」


「え?」


――アイナの手が、少し止まる。


「リネンも、他の布も……手袋もですけど

聖女様、ずっと白を大事に為さっていらっしゃるので……」


朝日に照らされ白布が揺れる。


「その……前にも少しお話したことがあるんですけど

昔、凄く綺麗なメイドさんが居たんです」


――使用人たちが静かに耳を傾ける。


「全身純白のエプロンドレスで、泥だらけの街の中を

颯爽《さっそう》と……でも、気取ってるんじゃなくて

品があるって言うか、一切の汚れや穢れを寄せ付けない。


……今考えると、絶対そんなはずはないんですけど

あの人は、雨さえ跳ね除ける力があったんじゃないかなって。


そういう意味で言うと、あの人の方が

私なんかより遥かに『聖女』とか

『守護天使』って呼ばれるべき人だと思うんです。


だから……きっと、私の白への拘《こだわ》りは

あの人への憧れが暴走してるだけなのかな~って」


――風が吹き、白リネンが揺れる。


「でも……だからこそ」


アイナは、白リネンへそっと触れる――


「このお屋敷が、放っておけなかったんです」


――荒れた庭、冷えた食堂、鬱屈とした空気。


「白く出来る……綺麗になるって、思っちゃったから。

でも、結局のところ。私の『暴走』なんですけどね!」


――その瞬間。

使用人たちの目が少しだけ熱くなる――


「ア、アイナ様……」


ジョセフが、鼻をすすった。


「いや、何で涙目なんですかジョセフ」


「本当に聖女様みてぇだ……いや、聖女様だ」


「な゛っ……だから違いますってば!」


――苦笑するアイナ。

だがその時――


「君にそう思われていたのなら

この屋敷は、幸せだな」


「レ、レナード様!?……って。

そんな、ちょっと大袈《おおげ》……」


「……大袈裟じゃない。


君は、この家を、食堂を、庭を。


……私の『ままならない全て』を、少しずつ。

だが、着実に戻してくれた。


長らく失われ、もう二度と

元には戻らないものだと思っていた……白を」


その瞬間――アイナの心臓が、大きく跳ねた。


「レナード様……?」


――強く吹いた西風

それは、白布を大きく持ち上げ空へと広がった。


日差しを覆い隠す程の強い風と舞い上がった白リネン。


……だが、この日

妙に冷たく、刺すような風が吹いた。


それは、愛おしい日常に影を差すかの様で――


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