↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/100

第34話:選べない『居場所』

――静まり返った食堂。


「……」


アイナは、何も言えなかった。


胸が苦しくて、痛くて……熱い。


頭の中は……真っ白だった。


『行かないでほしい』


……その言葉だけが、何度も何度も

頭の中で響き続ける――


「っ……!」


アイナは、静かにエプロンの裾を握った――


(駄目だ……そんな顔で言われたら。

そんな声で言われたら――)


「……す、少し。

考えさせて……下さい」


――ようやく絞り出せた答えは

酷く、震えていて……レナードは、静かに頷いた。


「……あぁ」


それだけだった……引き止めない。

責めない……尚も、選ばせようとしてくれる。


だから余計に……苦しくなる。


「わ、私……仕事しますね――」


◆


――中庭。


逃げるように、外に出た。


息が……出来なかったから。


冷たい風……揺れる木々、見慣れた景色。

だが……全てが、ぼやけて見えた。


「――どうしよう」


王都へ行けば、もっと良い未来があるかも知れない。


立派な仕事、安定、評価……両親を

安心させられるかも知れない。

憧れの“純白”に近づけるかも知れない。


……普通なら、断る理由なんて無い。


「私は……何を目指してるんだろう」


激しい自己嫌悪……自らの願いは何なのか

選ぼうとする全てが、我儘《ワガママ》に思えて――


「……アイナ様」


――振り向くと、メイド長が立っていた。


「っ……?!……き、聞いてました?」


「ええ、少しだけ……」


静かな返事。


「私……変、ですよね」


アイナは、小さく笑った。


「私……本当は、離れたくないんです」


その言葉を口にした瞬間。

胸が、締め付けられた……許されない気がして

過ぎた願いだと思えて成らなくて――


「私……多分、此処が好きなんです」


――少しずつ、本音が溢れ始めた。

我慢が、効かなくなり始めた――


「洗濯場も、庭も、食堂も……皆も」


――風が、強く吹き抜ける。


「多分……レナード様も」


全てを口にした瞬間……苦しさは強まった。


「……っ」


アイナは、思わず口元を押さえた。


「私は……レナード様が……」


その先が……言えない。


でも……もう、分かってしまった。


「ええ……好きなんですね」


メイド長が、優しく言った。


その瞬間……アイナの目から、涙が零れた。

それは、まるで……肯定したかの様に。


余りに素直に――


「なんで……っ……!」


止まらない……想いが

願いが、我儘《ワガママ》が――


「王都なんて……行きたく……ないッ……!……」


――とめどなく。


「ここに……居たい……」


――木々が揺れる。


温かな屋敷……皆の笑顔。


夜食、庭……猫。


手袋……全部。


失いたくない。


何一つ……手放せない――


「……でしたら」


メイド長は、静かに微笑んだ。


「答えは、もう決まっているのでは?」


◆


――同時刻

執務室では――


「……」


――重苦しい表情を浮かべ

レナードが一人で座っていた。


机の上には、アイナ宛ての『推薦状』


だが……彼は、まるでそれを見ていなかった。


『行かないでほしい』


そう、言ってしまった事を……強く後悔して居た。


言うつもりなど無かった。

彼女の未来を、縛りたくなかった。

王都へ行けば、彼女はもっと評価されるかも知れない。

もっと豊かな人生があるかも知れない。


だが――


「……嫌だ」


――静かな部屋

時計の音だけが響く中。


気付けば何時も


食堂で、庭で、廊下で……アイナを探している。

彼女が笑うと、何故か安心する。

帰れば、まず彼女を探してしまう。


「私は……」


レナードは、ゆっくりと目を伏せた。


『コン……コン……コンコン……』


「……入れ」


開いた扉……そこに立っていたのは。


泣き腫らした目のアイナだった――


……


「……アイナ?」


レナードが、目を見開く……一方。


アイナは、ぐしゃぐしゃの顔のまま……彼を見ていた。


「わた……し……」


声は震え、涙も止まらない。

だが、今なら……ちゃんと言える気がしていた。


「ここ……なんです……私の……

ここがっ……居場所っ……


私の居場所はっ!……ここなんですっ!!!」


――瞬間

レナードの瞳が、大きく揺れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。