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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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第24話:初めての『白』

――夜会当日。

アイナは、鏡の前で……固まっていた。


「うぅっ……む、無理ぃっ……」


鏡に映る自分を見て、本気でそう思った。


淡い青白色のドレス……胸元には

小さくも輝く微かに、青く白い宝石が輝いている。


裾は軽やかで、動く度に柔らかく揺れる。


そして……丁寧に編み込まれた髪には

白薔薇を模した小さな髪飾りが添えられて居た――


「綺麗……」


――若いメイドが、思わず息を呑む。


「本当にお姫様みたい……」

「聖女様だもの、当然よ……でも、綺麗」

「天使が裸足で逃げ出しそう……」


「やめて下さい、吐きそうなんですから」


――アイナはそう言って首を振ったが

メイドたちは皆、尚《なお》も羨望の眼差しを差し向けていた。


「だっ、大体!

何でこんな高そうな服を私がっ……!」


「お伝えしたはずですよ?若様が選ばれたのです」


「うぅぅぅ……わかってますけどぉっ!!」


――メイド長の言葉で再び顔が熱くなり

記憶がリフレインする――


『アイナにはこの色だ』

『君が居ると安心するからだ』

『一緒に来てほしい』


「だぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」


「「「「「アイナ様っ?!」」」」」


――恥ずかしさに転げ回りたい。

だが、ドレスがそれを難しくさせる。


そんな中――


『コン・コン・コン・コン……』


――正確なリズムで発せられたノックの音

直後――


「失礼する――」


不意に開かれた扉……その瞬間

部屋の空気はガラリと変わった――


「――ふむ」


部屋へ入ってきたレナードは

ぴたりと動きを止め、アイナを見つめながらそう発した。


「レ……レナード様? 」


……長い沈黙。

それは、あまりにも気まずい時間だった。


だが――


「やはり……綺麗だ」


ぽつりと、レナードが呟いた。


「なっ……なっ……?!」


アイナは一瞬で真っ赤になり

居合わせたメイドたちは黄色い声を上げていた。


「なななっ!?……何を言い出すんですかっ!!」


「似合うだろうとは思っていたが……これは、想像以上だな」


「み゛ゃんっ?!……」(訳:何でそんな褒め方するのよぉッ!)


脳の処理が追いつかなくなり始めていたアイナ

そんな中、若いメイドはわなわなと呟いた――


「私たち、今とても“尊いもの”を見てませんか……?」

「分かる。これが神話ね……」

「聖女様が秋の葉のように紅葉《こうよう》されて……」


「紅葉《モミジ》みたいに言うにゃぁぁぁッ!!」


――アイナ、涙目の絶叫。

だが、レナードは何処か満足げであった――


◆


――暫くの後、玄関ホール。


「う、うわぁっ……」


アイナは思わず声を漏らした。


見慣れているはずの巨大な階段

磨き上げられた白大理石……其処に映る灯りの反射。


一糸乱れず整列した使用人たち

それはまるで、別世界だった――


「ほ、本当に……私も行くんです……よね?」


「嫌か?」


「い、いえその…嫌というか……」


『怖い』


その言葉を、アイナは再び飲み込んだ

だが――


「大丈夫だ……私が居る」


「何なんですか……」


ぽつりと、アイナは小さく呟いた。


「何がだ?」


「な、何でもありませんっ」


――言えるはずがなかった。


「っていうか……わ、私っ!

夜会での礼儀作法とか何も知りませんよ?!


……変なこと言うかも知れませんし

真っすぐ歩けないかも知れませんし

知らない人に話しかけられたら固まっちゃうでしょうし……」


「……大丈夫だ」


「何ですか、その間ッ!!

もっとちゃんと否定してくださいよっ!」


「恐れを感じていると言うことは

君が、真面目に向き合っている証拠でもある。


だから……大丈夫だ」


「な゛ッ……」


「さて。では――」


レナードは、そっと手を差し出し――


「――行こうか、アイナ」


――白い手袋と穏やかな瞳。


『公爵家当主』という身分にあるレナードは

この瞬間、アイナを別世界に引き上げようとしている。


『この手を握れば、もう戻れない』


そんな思いの過ぎる中――


『一緒に来て欲しい』


――再び、レナードの言葉がリフレインした。


「はい――」


意を決し、差し出されたその手を握り返した瞬間

使用人たちから漏れ出した、歓喜の声――


「おぉ……」

「若様の正式なエスコート……」

「聖女様がついに……大人の階段を」


「登りませんッ!!!」


――叫びながらも

アイナは彼の手を離さなかった。


そして、レナードは

少しだけ優しく握り返す――


「では、行ってくる」


――使用人達が見守る中

アイナのドレスが揺れ、レナードの黒礼服が並ぶ。


その光景は、まるで絵画のようだった――


「き……綺麗っ……」


誰かがぽつりと呟く。


(何なのよ……これ……)


アイナは、隣を歩くレナードを盗み見る。


洗練された歩幅……離れ過ぎず、近過ぎず

ちゃんと、自分の歩調に合わせてくれている。


(ずるい……のよ……)


その時だった――


「タッタララッタッターッ♪ヘイッ!

……大変ですだッ!!」


「リズミカルに何ですかッ!!!」


――玄関ホールへ響くいつもの声

駆け込んできたジョセフは感極まった顔で叫んだ。


「し、使用人たちが――


『アイナ様が天界に帰られるのかも知れない』


――とか言いながら、号泣し始めましただぁぁぁッ!!」


「このお屋敷使用人多いわねぇぇぇッ!!! 」


――アイナの絶叫が夜の屋敷へ響き渡る。


だが……レナードだけは

繋いだ手を離さないまま、小さく笑っていた。


まるで――この温もりを

手放したくない、とでも言うかのように。

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