↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/100

第18話:眠れない『しろとくま』・後編

――大騒ぎの翌朝。

結局、殆ど眠れなかったアイナは

いつも通りの時間に目を覚ました。


“目を覚ました”というより、

“眠ることを諦めた”という方が正しい。


「あー……少し、頭が痛い……でも

お仕事、しなきゃ……その前に朝食……」


少し重い足取りで、アイナは食堂へと向かった――


◆


「おはようございま゛っ……って、何ですか。この状況」


――食堂の机。

そこへ並べられていたのは――


『大量のティーカップ』


――恐ろしく嫌な予感がした。


そんな中、ジョセフが元気に駆け寄ってくる――


「アイナ様ぁっ!!……昨夜の“ホットミルク”

あ、いや……“癒しのお茶”

おらたちにも是非淹れてほしいだ……!」


――彼を皮切りに

使用人たちは一斉にカップを手に取り――


「さ、最近眠れなくて……!」

「肩凝りにも効くらしいと……!」

「かぼちゃを馬車にする力まであるらしいと……!」


「だから何で多方面に増えてるのよ、その解釈ぅぅぅッ!!」


――アイナ、朝一番の絶叫。

アストラル公爵家の朝は、

寝不足の彼女に少しだけ厳しい。


……


「い、いやぁ……実は昨日

アイナ様が厨房に向かわれたの見てたんだ、おら。

なんか……絶叫してただ」


「なっ!?……そ、それは……ごめん」


「いんや、いいんだ……人間、色々あるだから。

そんで、廊下にすっごいあまぁ~い香りが漂ってて……


アイナ様は食材を秘薬に変えられる力持ってて

おら、甘いの好きだし……そんで、皆に話したら

“聖女様が若様へ命の秘薬を”って話になっただ……」


「尾鰭《おひれ》の成長速度がおかしいのよこの屋敷ッ!!」


――頭痛と眼前の状況に頭を抱えるアイナ。

だが――


「ですが最近、皆……良く、眠れるのですよ?」


――メイド長が、少し照れくさそうに笑った。


「……え?」


「前より空気が柔らかいと言うか……使用人同士も

前より話すようになりましたし

若様も、少し笑われるようになられた……」


――その言葉に、周囲の使用人たちも頷く。


「ああ。庭も前より明るく見えるしな」

「噴水ももう怖くありませんし……!」

「食堂で笑い声がするの、久しぶりな気がします」


――ざわり、と。

胸の奥が妙に落ち着かなくなる。


「そ、そうなんですね……」


(何なのよ、それ……そんな風に言われたら。

まるで、自分がこの屋敷の一部みたいじゃない……)


「――アイナ」


不意に、背後から声がした。

振り向くと、そこにはレナードが立っていた。


「おっ、おはようございます……っ!」


「おはよう……それと、昨夜はありがとう」


「べ……別に、ただの牛《ぎゅう》……お茶です」


「ああ……その“ただ”で随分と救われたのだ」


「そ、れは……良かったです」


(だぁぁぁぁぁっ!!

本当にこの人、心臓に悪いんだからぁぁぁっ!!)


レナードの率直さに、心の中で転げ回っていたアイナ。

だが、その時――


「……あっ」


ふと、気付いた『色』

昨日より、少しだけ血色が良い。

隈《くま》も……薄まっている。


「あれから……ちゃんと寝られたんですか」


「ああ、少しな」


「全く……少しじゃ駄目です」


「うっ、善処する……」


「駄目です、確定してください」


――ぴしゃりと返したアイナ。


一方、そのやり取りを見ていた使用人達は

何故か、感動していた――


「おぉ……」

「聖女様が若様を管理しておられる……」

「夫婦みたいだ……」


「な゛ッ……だッ、誰がですかぁぁぁぁぁッッッ!!!」


――即座に炸裂したアイナのツッコミ

一方、レナードは何故か少しだけ笑っていた――


◆


――時は進み、昼過ぎ


「ふ~っ……よい、しょっと……」


洗濯場にて、アイナは一人で白リネンを畳んでいた。


……静かな時間

風の音だけが聞こえる中――


「よし、手伝おう」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


突然、背後から現れたレナードに

アイナはリネン生地を宙に放り投げながら飛び上がった。


「びっくりしたぁぁぁっ!!!

って……な、何で気配無いんですか!?」


「すまない、驚かせるつもりはなかったんだが」


――少し困ったように笑うレナード。


そして、この直後……彼は

そのまま本当に、洗濯物を畳み始めてしまった。


「い、いや……何してるんですか」


「手伝いだが」


「いや、公爵家当主がやる事じゃありません」


「君はやっているじゃないか」


「私は当主じゃなくてメイドです!」


「ああ、だが……私は君から“頼れ”と言われた」


「そ、それとお洗濯物に何の関係が……」


「私は……何時も、執務室から出ない。

だから、屋敷の事を何一つ理解出来ていない。

それが、あまりにも……嫌だったんだ」


「あ……飽きたら、途中で止めて良いんですからね?」


「ああ、ありがとう」


……白いリネンが、一枚ずつ畳まれていく。


覚束ない手つきの横で、慣れた手つきが並ぶ。


……穏やかな時間

風がそよそよと、洗濯物を揺らしている。


……


「……こういう時間、嫌いじゃないな」


ぽつり、とレナードが呟く。


「え? 」


「静かで、温かい……長らく感じられなかった物だ」


――アイナは、少しだけ手を止めた。


“長らく”……レナードは

何かを知らずに生きてきたのだと知ったから――


「あの……レナード様」


「ん? 」


「疲れた時は、ちゃんと休んで下さい」


「善処す……」


「確定させてくださいって言った筈です」


――むすっ、と睨むアイナ。


一方のレナードは、何故か少しだけ目を細め

ふっ、と笑みを浮かべた――


「何故かは判らないが……君になら

叱られるのも嫌じゃないな」


「はぁぁぁっ!?……なななっ!?

なっ!?……何を言ってるのですかぁあぁっ!!!」


――瞬時にアイナの顔が真っ赤になる。


「何と言われても……そう思った、という話だ」


「な゛っ……そ、そう思わないで下さいッ!!」


その瞬間だった――『ガタンッ!』


「なっ?!」「ひぃっ!?」


憶えのある状況……“物陰から音”


振り向くと、其処には――


「「「「「「……」」」」」」


――大量の使用人達。


「な……何してるんですかあなた達ぃッ!!」


アイナの絶叫……だが、使用人たちは

悪びれる事さえなく、何故か涙ぐみながら叫んだ――


「聖女様がぁっ……!」

「若様へ“安らぎの家庭”をぉっ……!」

「アストラル家の失われし温もりが戻っている……!」


「アイナ様……約束通り

おらの服もそろそろ綺麗にして欲しいだ」


「ジョセフ……ジョセェェェェェフッッッ!!」


頭痛をも吹き飛ばすアイナの絶叫……だが、その一方。


レナードだけは、洗濯物を見つめながら

穏やかな顔で笑っていた。


ほんの一瞬……振り返り、その笑顔を見た瞬間。


アイナの胸が、また少しだけ苦しくなる――


(なん……なのよ……)


――『誕生日を盛大に祝う』


その約束が、まだ胸の奥に刺さったままだったから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。