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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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第14話:屑を『還る者』

――“聖なる大根の女神様事件”の翌朝


「は~っ、ほんっとに……」


アイナは、腕を組みながら

じっと、一点を見つめていた――


「……ひっどい」


視線の先……そこに

“積み上がって”いたのは――


野菜くず、茶葉、枯葉

刈られた芝、麦わら……つまり。


“生ゴミの山”であった。


「いやぁ……最近

どうにも処分が追いつかねえですだ……」


困ったように頭を掻くジョセフ。


「最近の長雨のせいで

燃やすのも難しいだ……困ってるだ……」


「だからって放置してたら病害虫が湧くでしょうが!」


――ビシィッ!

と、ゴミ山を指差しながらそう言ったアイナ。


……此処は、屋敷の裏の第五倉庫。

使用人達が廃棄物を仮置きする場所だった。


だが現在……此処は完全に“ゴミ山”と化していた。


「うぅ……面目ねぇですだ……」


「というか何で芝と茶葉と野菜くずが

全部同じ山になってるのよ?」


「ゴミだから纏めてるだけですだ。

早く雨がやんでくれたら

さっさと燃やして処分……」


「しちゃ駄目です」


「なんでだ?!……ま、まさかアイナ様

“ゴミ屋敷”が好きなんだか?」


「いや、なんでちょっと

“上手いこと言った”みたいな顔してるのよ?!」


「お屋敷だけに……だ」


「分かってるけどッ!!!……兎に角、良いですか!?

これらは唯《ただ》のゴミじゃありませんからっ!」


――何故か講義を始めたアイナ。


そんな騒ぎを聞きつけ

屋敷の使用人たちは続々と集まり始め――


「良いですか?……野菜くずは栄養になる!

枯葉は空気を作る!麦わらは湿気を保つ!

ちゃんと積めば、これらは

栄養豊富な“土”になるんですっ!」


「つ、土……ゴミが、だか?」


「はい、野菜とか育てるのに最高なんですよ?」


そんなアイナの発言に、使用人達はざわつき……


「無から有を生み出そうとされている……」

「ゴミを土に還す?……そんな馬鹿な」

「いいや、聖女様なら遣りかねないぞ。

これは……輪廻転生だ」


「いいや……“リネン転生”かも知れねぇだ」


「其処ぉッ!ダジャレはもう良いからッ!」


――だが、その時。


「なるほど……つまり、不要と思われたものに

価値を見出すと言うわけか……」


「そう言う事です! ……って、レナード様っ?!」


アイナは少し驚きながらも

更に“講義”を続けた――


「そ、その……捨てるだけじゃ勿体ないですし」


――その瞬間

レナードは、微笑み――


「なるほど……君らしいな。


アイナ……君はいつも“まだ使える”を探している。

君に拾われたものは……ゴミでさえ、役目を得るのだな」


「え……っ?」


……軽く発せられた何気ない言葉。

なのに何故だか、心の奥へ触れられた気がした。


「と……取り敢えずっ!!!


ジ、ジョセフ! ……其処に穴掘って下さい!」


「ま、マズイだよ……幾ら倉庫の床が土間でも、

此処は倉庫だ、当主様の前で掘り返せねえだよ」


「当主様の前でゴミの山を放置してるほうが問題でしょ?!

良いから早く掘るっ!チラチラ当主様を見ないっ! 」


「ひぃっ!どっちが当主様かわからなくなるだ……!」


……


「その横が麦わらで……次が落ち葉。

その上へ……野菜くずです!」


――およそ一時間後

屋敷の裏は、妙な熱気に包まれていた。


使用人総出で始まった『謎の積層作業』


「こ、これで本当に土になるんですか……?」


新人メイドはそう問い――


「ええ、なります……ちゃんと順番に重ねれば

とっても簡単に、素晴らしい土になってくれます」


『ざっ……ざっ……』


――アイナは問いに答えながら手際よく層を重ねていく。

麦わら、落ち葉、茶葉……そして、野菜くず。

……それらを何層にも積み上げる様子は

まるで、巨大な料理のようだった――


「ゴ、ゴミの筈なのに……神々しい」

「まるで儀式だ……これは、聖女様の儀式だ」


「アイナ様は命を編んでいるんだ……これは

ゴーレムが八体ばかり生まれるかも知れねえだな……」


「其処ぉッ!勝手に泥人形にしないッ!」


――今日もアストラル家は賑やかである。


ともあれ、暫くの後――


……


「さてと……最後に、水を少し」


『ぱしゃっ……』


アイナが桶の水を掛けた瞬間……ふわっ、と

僅かに湯気が立った――


「おをぉっ!?」

「も、燃えてる!?……水なのに燃えるのか?!」


「違います!……発酵です!」


驚愕する使用人たち、

一方のアイナは、満足げに頷いていた。


「良かった……これこそ、ちゃんと生きてる証拠です!」


「い、生きてる……?」


レナードは、積み上がった堆肥を静かに見つめ

珍しく、僅かに怯えていた――


「ア、アイナ……『ゴミが、土へ還る』のだったな?」


「はい……っていうか様子が変ですけど

大丈夫ですか?レナード様」


「あ、ああ……だが、不思議だな」


「いえ……全然、不思議じゃありませんよ?

此処にあるもの、ぜーんぶ。


最初から、命の一部だったんです

だから……“戻る”だけですよ?」


――この瞬間、アイナは

幼き頃、母と交わした何気ない記憶を

思い出していた――


――


『凄いでしょ~? これで、次へと繋がるのよ?

だから、アイナもちゃんと戻してあげてね?』


『うんっ!ママのいうとおりにするぅ~!』


……家の裏庭、幼き頃の母との約束

アイナにとって、何気ない当たり前の日常――


――


「――アイナ?」


「っ!?……す、すみませんっ!」


慌てて現実に戻る……気付けば

レナードが不思議そうに見つめている。


「どうした?……まさか、祈りを捧げていたのか?」


「さ……捧げてませんっ!」


そう言って慌てて顔を逸らしたアイナ。


「アイナ……君は時々、誰かを思い出している顔をする。

もし、踏み込みすぎて居たらすまない。


……君のその思いが、

辛い別れでないのなら良いのだが」


「へっ?……あ、えっとその

今思い出してたのはお母さんとの思い出で……


……って言っても

両親ともに元気ですから!ご心配なくっ!」


そう言って笑みを浮かべたアイナに対し

レナードは安心した様に、穏やかに笑った。


「それなら良かった、とても良い事だ」


「なっ……え、あっ……いやその

アリガトウ……ゴザイマス」


(なっ……何でそんな真っ直ぐ言葉を投げてくるの?!

あぁぁぁっもう!

そっ、そういうの……反則なんだからぁぁぁっ!!)


まるで、発酵の進みだした堆肥の様に

頭から湯気が立ち始めていたアイナ……だが、そんな時。


「たっ……大変ですだぁぁぁッ!!

ゴーレム以外の問題が起きてるだぁぁぁッ!」


「今度は何なのよぉッ!?

泥人形は生まれ……てないわよねッ?!」


「それはおらの冗談だ!

そうじゃなくて!

し、使用人達が――


『聖女様が死者へ新たな命を与えている』


――とか言いながら

祈りを捧げ始めましただッ!!」


「堆肥に礼拝するのやめなさいよォォォォォッ!!」


――振り返ると、其処には

積み上がった堆肥に向け、神妙な面持ちで

手を合わせる使用人たちの姿があった――


「ありがたや……」

「命は巡る……」

「今日からこの山を“聖遺物”と呼ぼう……」


「本当にゴーレムが生まれる

恐れがあるでしょうがァァァァァッ!!」


――アイナの絶叫が夕暮れの屋敷裏へと響き渡る。


一方……積み上がった堆肥を見つめながら。


レナードだけは、どこか優しい顔で

僅かな恐れの中、微笑ましく見つめていたのだった。


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