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『メイドさんは出て行きたいッ!』~誕生日を忘れられたので辞表を書いたら、無自覚な家事技術で世界を救う聖女だと勘違いされました~  作者: 黒崎 凱


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100/100

第100話:『アイナさんは祝われたい』

――この日。


早朝から、アストラル公爵家は騒がしかった。

それはもう、とんでもない……『大騒ぎ』である。


何《ど》の位《くらい》?……それは。


是非、あなたの目でご覧くださいませ――


◆


「……っと、もう少し『右肩上がり』に掲げてくれ!

後ちょっと……おう!それ位だな!

左右を均等にしなくても良いが

右を下げるのだけは止めといてくれよ?」


……アストラル公爵邸

そのエントランスホールに掲げられた横断幕。


『右肩上がり』に設置されたその横断幕には

墨の字で、デカデカと――


【祝!アイナ・リーネル・アストラル様

生誕祭&御成婚祭】


――そう、記されていた。


一方、本日の『主役』はと言うと――


……


「こ……こんな格好で大丈夫なんですか?!」


「大丈夫どころか完璧です……と言うか。


……アイナ、少しは自信を持ちなさい?

貴女は、今日だけで無く……いつも素敵なのですから」


「セシリアさんみたいな美人に言われると

嫌味に聞こえるんですけど……」


「……ふふっ♪

褒め方は私よりも上手く成っている様ですね。

ですが、本当に……もう少し、自信を持ちなさい。

貴女は、レナード様の妻と成ったのですから」


「そっ……それは分かってます……けどっ!

い、いざっ……ちゃんと祝って貰える!

って思ってたら、こんな形になったからっ……!」


「両方を一度に祝われるのは不満ですか?」


「そっ、そうじゃなくて!

単純に……は、恥ずかしいんですっ!」


「……成程、唯《ただ》の惚気《のろけ》でしたか」


「ちょ!?セシリアさん酷いですっ!」


――祝われる事に少しだけ恥ずかしさを感じていた。


その一方、当主レナードは――


◆


「……アイナの様子はどうだ?」


「なんか部屋の前を通ったらキャッキャ言ってただよ?」


「キャッキャ……だと?

それは……大丈夫なやつなのか?ジョセフ」


「くすぐったいって言ってただから

セシリアさんがくすぐってたんだな、多分」


「……何をしているんだ、セシリアさんは」


「多分だけど……緊張をほぐしてるんだと思うだよ?」


「成程な……アイナが悩んでいなければ良いが」


「レナード様の惚気《のろけ》は、太陽よりも眩しいだ」


「なッ……」


――少々、妙な方向に心配をしていた。


一方、屋敷の調理場はと言うと――


◆


「……出来たか?」


「は、はい!……ですが

石畳を再現するにあたり――


『大理石の皿を酸でざらつかせる』


――と言うのは。

流石に……肝が冷えますね」


「構わん構わん!――


『アイナ様の人生の軌跡を全て再現したコース料理』


――と言う出し物の為だ、それよりも

『パンに付いた土』の表現はどうなった?

上手く行ったか……?」


「ええ!それは勿論です!

溶かしたチョコレートと、カカオの粉を両方使いまして!

なんとかそれらしく見えるようにはなりました!

後は、これを――


『セシリア様に依って救われたパン』


――と同じく、向こうが透けるほどに薄く切り取り

白リネンに包《くる》……」


「馬鹿!其処はシルクだ!……素材感が命だぞ!」


「は、はい料理長ッ!」


――全力で『努力の方向音痴』を披露していた。


この後、正常……かどうかは兎も角として。


全ての準備が整った祝賀会場では

最終調整が行われていて――


◆


「……レナード様は、そちらの席へ。

アイナ様は、階段上の大扉からご登場されます。

その際に、此方の――


『石灰光灯《ライムライト》』


――と、呼ばれる最新の舞台装置を用いまして

アイナ様を照らそうかと思っておりますので

少々、カーテンなどで周囲の光量を絞らせて頂きます」


――何処か誇らしげに、そう説明をした執事エドガー

一方、来賓として既に到着していたユリウスは

首を傾げつつ問うた。


「舞台装置……?

アイナに演劇でもさせるつもりなのか?」


「違いますわ!ユリウス様っ♪

アイナちゃん様の一世一代の晴れ舞台ですから

わたくしが、お父様にお願いして

念の為、三台用意していただいたのですわ♪」


この瞬間、エドガー以上に誇らしげに

扇子でポーズを取りながらそう言ったリディア。


「念の為とはいえ……さ、三台も要るのか?」


「何をおっしゃいますの?ユリウス様っ!

二台壊れたらどうなさるのです!?

アイナちゃん様の晴れ舞台が

薄暗《うすぐら》ぁ~いまま終わってしまいますわっ?!

そんなの、絶対に駄目なのですわっ!」


「そ、そうか……」


――皆、それぞれに

アイナを祝うため、必死に成っていた。


そして……暫くの後。


主役であるアイナは、全ての準備を整え

祝賀会場の扉の前に立っていた。


……だが、使用人たちが扉に手をかけ合図を待ち

付き添いのセシリアが凛とした立ち姿で居る中。


アイナは、緊張で倒れそうに成っていた――


……


「や、やっぱり……無《む》――」


「――“無《む》垢《く》”な心で、挑みなさい。


アイナ……貴女は

ずっと祝われる事を望んでいた。


様々な困難の果てに、今日……貴女は

漸《ようや》く祝われるのです、貴女はその価値も

権利も……それだけではありません。


今日、貴女は……貴女が関わった

数多くの人間から想われているのです――


『この人を、心から祝いたい』


――と。


為《な》ればこそ、思い悩む必要などありません。


……さぁ、皆さん。

扉と音楽を――」


「あッ、ちょッ!?――」


――瞬間

セシリアの合図に依って開かれた会場の扉。


その先には、割れんばかりの拍手と

感嘆の声が響き渡る眩《まぶ》しいまでの空間が……いや。


正しくは、少々


『眩《まぶ》し過ぎる』空間があった――


「み゛ゃんッ!?」


「キャーッ!アイナちゃん様ぁ~っ♪」

「おぉ!光に照らされて猫神様が降臨しただよ~♪」


「アイナッ!……大丈夫か!?」


――瞬間

慌ててアイナのもとへと駆け寄ったレナード。


ほんの一瞬、会場は静まり返り

エドガーを始めとする使用人たちは

慌ててカーテンを開き、会場に自然の光が齎された一方で

顔を上げたアイナは……半泣きと成っていた。


……だがそれは、怖かった訳でも

傷ついた訳でも無く――


……


「だ、大丈夫ですっ……!

ちょっとびっくりしましたけど……」


「……驚かせてしまって済まない、本当に怪我は無いか?」


「は、はい……大丈夫です……と言うか、私

こんなに沢山の方々に祝って戴けるとは

思って無くて……私……私っ……」


――感極まり、目を潤ませたアイナに

レナードは、そっと手を差し伸べ――


「……何を言う?

今日は、君という白薔薇の大切な誕生日だ。


……そして、私という男を

夫と認めてくれた日でもある。


アイナ……いや。


アイナ・リーネル・アストラル……誕生日、おめでとう。


今日も君は、とても美しい――」


――そう言って、アイナの手にキスをした。


瞬間――


「に゛ッ……?!

にゃあぁぁぁぁぁにをしてるのですかァァァッ!?」


「何って……愛情表現だが」


「人前ですッ!

恥ずかしいですッッ!!

顔から火がでますッッッ!!!」


「い……嫌だったか、済まない」


「い、嫌とかじゃなくてぇ……っ!」


――その瞬間、会場のあちこちから

温かな笑いと囁き声が漏れ始めた――


「アイナ様が、真っ赤になられている……」

「本質的には、喜ばれている……」

「アストラル家の未来は明るい……!」


「んだ、おらさっきのヤツで照らすべきだと思うだよ~!」


「其処ぉッ!……恥ずかしいから駄目……ですッ」


――アイナのツッコミが不発した瞬間

会場はこの日一番の盛り上がりを見せた。


リディアの轟《とどろ》く“謎発言”と共に――


「アイナちゃん様ぁ~っ♪

アイナちゃん様に相応しい“長さ”に成りましたわねぇ~っ♪

でも、わたくしはこれからも

アイナちゃん様と呼びますわ~っ♪」


――とんでもない『大騒ぎ』

そんな、最高の一日を過ごしたアイナ。


この日、アストラル公爵家はいつも通り……いや。


いつも以上に、騒がしい一日を繰り広げていた。


ずっと祝われたかった一人の少女を

最大限の愛で祝い、称えた者達の笑顔が溢れる

とても温かで、幸せな空間――そして。


……


「所で……ユリウス様っ♪」


「……何だ?リディア」


「わたくしの名前に

『アイゼンドルフ』が付く日はいつですの?」


「な゛っ……そ、それは……ば、馬鹿っ!」


「あ~っ!酷いですわっ!?

誤魔化すなんて酷いですわっ!?

こうなったら、ユリウス様を『石灰光灯《ライムライト》』三台で

照らして照らして照らしまくりますわっ!」


「や、やめろっ!バカッ!」


……何はともあれ。


この後も、アイナの生誕祭は

賑やかに続いたのであった。


◆


――時は過ぎ、夕暮れ時。


アストラル邸に落ち着きが戻り始めた頃――


「……今日、私は。


この日、私は。


……う~ん。


書き出しが思いつかない……」


――アイナは、自室で一人

日記を書いていた。


「……ひ、人に読ませるものでも無いし

私の言葉で良いわよねっ!――


『今日……私は、沢山の人に祝って貰いました。

嬉しくて、恥ずかしくて……ビックリするくらい眩しくて。


そして、私は……今日を境に、いくつかの事をやめます。


一つは――アストラル公爵家のメイドで居る事。


……対外的な事を考えた時、私は

もう、メイドでは居られません……でも

お屋敷の掃除も料理も、お庭の手入れだって

私がやりたいと思う事は、手放しません。


二つ目は――アストラル公爵家を、出て行こうとする事。


私は……此処に居たい。

自分の気持ちに正直に、居たい。


……賑やかで、少し恥ずかしくて、温かな。

このお屋敷にずっと、居たいから。


お屋敷の皆さんを……そして、レナード様を

心から、大切に想っているから。


この先も、ずっと――』


――うん。


ずっと、ずっと一緒に――」


――窓から差し込む

夕焼けの温かな陽射しと温もり。


アイナの心は、穏やかだった。


お屋敷に温かさを告げる春


満開の桜の様に


幸せに包まれた彼女の人生は――


◆


「大変ですだぁぁぁッ!……国王陛下から

アイナ様宛てに『祝賀状』が届いただ~ッ!」


「いや……祝われ過ぎも怖いんですけどぉぉぉッ?!」


――とても賑やかで

温かな日々に包まれて行くのだった。


明日も……そのまた次の日も。


ずっとずっと――末永く。


【完】

最後まで応援を戴き有難うございましたッ!

本編はこれにて終了ですが、後々

閑話や外伝、その後……などなど。


作品世界が広がる可能性を小さく予告しておきます……!

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