Ⅵ 断罪 ー5
「ここにも家を持ってたんだね?」
空の家だというところに連れていかれると、昂はきょろきょろと部屋を見回しながら、そう尋ねた。
ここは大神殿と砂漠を挟んだ反対側にある、トチという町である。昔は大神殿に巡礼に行く人々が、砂漠の前で一泊取ろうと、宿屋もぎゅうぎゅう詰めで寝ていたものだが、今はそんなことはない。
もちろん大神殿に参拝に行く人で賑わってはいるが、昔に比べると格段に減った。宿屋も連れごとに各部屋に泊まれる。
「知り合いの家を借りているんだけどね」
そう言って、空は皆に椅子を進めた。ガコはこだわりなく、すぐに椅子に座った。
「また女の人を誑かしたんじゃないだろうね」
眉を顰めた昂も、座りながらそう尋ねる。
空は鼻で笑っただけで、答えなかった。
そのまま視線を動かし、座ろうとしない陽、ターシャを見て、首を傾げた。
「公女様はともかく、なんで陽まで警戒してんの?」
小さい頃はあんなに可愛がってやったのに、と嘆いている。
「ガコを見張っていたのか」
尖った口調で陽が訊くと、空は「まぁ、ね」と笑った。
「そのマルゴの子どもだけを見張っていたわけじゃないよ。お前たちと接触したのは分かっていたから、気を付けていただけだ。他を回っている合間に、見ていただけ。ま、お茶入れるから、座ってよ」
それから、陽はお茶を入れるために、台所へ消えた。
その後ろ姿を皆が無言で見送って、ガコが立っている二人を見上げて言った。
「座ったら。立っていても疲れるだけだし」
「そうね」と呟いて、ターシャが座ると、陽も黙ってターシャの隣に腰を下ろした。
「空はどういうつもりだろうね」
昂はさほど深刻でもない様子で、独り言のようにそう言った。
空はかつてガザ帝国の隠密であったが、今はその任を外れている。ガザの凛王妃には忠実であるが、だからといって、帝国に忠誠を捧げているわけではない。
その凛の思惑も、最近不透明だ。
一緒に行動することもある昂ですら、分からないと思うことが多い。
完全に敵に回ることはないと思うものの、ターシャというよりは、陽がやろうとしていることを思うと、逆鱗に触れる可能性もある。
「あの人は信用できるの?」
ターシャが固い声で、そう尋ねた。
昂はターシャの顔を見た。
青ざめている。
無理もない。あれから六年しかたっていないのだ。元凶を前にして、平常心でいられる方が異常だ。
「味方だったら、彼ほど心強い男を俺は知らないよ」
「そう」とターシャは言って、考え込むような顔になった。
その時、奥からカチャカチャと音がして、空がお茶を運んできた。
優雅な手つきで皆に不思議な色のお茶を配ると、「どうぞ」と声をかける。
誰も手をのばさない。
よく飲まれる豆茶や蜜茶の色とは異なり、少し赤みがかった、不思議な色をしている。
「なにこれ」
ガコがズバリ訊くと、「疲労回復にきくお茶だよ」と空は爽やかに答えた。
「俺は薬師だったからね。薬草には詳しいんだよ。本当に疲れが取れるから、飲んでごらんよ」
笑顔で勧める空に、ガコですら、引いている。
「薬師だったから、毒にも詳しい」
陽の言葉に、空は陽の顔を見た。
「どうして、俺がお前たちに毒を盛らなきゃなんないんだよ」
陽も、空の視線を受け止めて、答えた。
「俺たちが、針森の『神の薬』に手を出したから」
「いや違うか」と言い直す。
「俺たちが、針森を危険にさらしているから」




