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宵の姫君  作者: さら更紗
Ⅵ 断罪
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99/100

Ⅵ 断罪 ー5


「ここにも家を持ってたんだね?」

 空の家だというところに連れていかれると、昂はきょろきょろと部屋を見回しながら、そう尋ねた。

 ここは大神殿と砂漠を挟んだ反対側にある、トチという町である。昔は大神殿に巡礼に行く人々が、砂漠の前で一泊取ろうと、宿屋もぎゅうぎゅう詰めで寝ていたものだが、今はそんなことはない。

 もちろん大神殿に参拝に行く人で賑わってはいるが、昔に比べると格段に減った。宿屋も連れごとに各部屋に泊まれる。

「知り合いの家を借りているんだけどね」

 そう言って、空は皆に椅子を進めた。ガコはこだわりなく、すぐに椅子に座った。

「また女の人を誑(たぶら)かしたんじゃないだろうね」

 眉を顰めた昂も、座りながらそう尋ねる。

空は鼻で笑っただけで、答えなかった。

 そのまま視線を動かし、座ろうとしない陽、ターシャを見て、首を傾げた。

「公女様はともかく、なんで陽まで警戒してんの?」

 小さい頃はあんなに可愛がってやったのに、と嘆いている。

「ガコを見張っていたのか」

 尖った口調で陽が訊くと、空は「まぁ、ね」と笑った。

「そのマルゴの子どもだけを見張っていたわけじゃないよ。お前たちと接触したのは分かっていたから、気を付けていただけだ。他を回っている合間に、見ていただけ。ま、お茶入れるから、座ってよ」

 それから、陽はお茶を入れるために、台所へ消えた。

 その後ろ姿を皆が無言で見送って、ガコが立っている二人を見上げて言った。

「座ったら。立っていても疲れるだけだし」

「そうね」と呟いて、ターシャが座ると、陽も黙ってターシャの隣に腰を下ろした。

「空はどういうつもりだろうね」

 昂はさほど深刻でもない様子で、独り言のようにそう言った。

 空はかつてガザ帝国の隠密であったが、今はその任を外れている。ガザの凛(りん)王妃には忠実であるが、だからといって、帝国に忠誠を捧げているわけではない。

 その凛の思惑も、最近不透明だ。

 一緒に行動することもある昂ですら、分からないと思うことが多い。

 完全に敵に回ることはないと思うものの、ターシャというよりは、陽がやろうとしていることを思うと、逆鱗に触れる可能性もある。

「あの人は信用できるの?」

 ターシャが固い声で、そう尋ねた。

 昂はターシャの顔を見た。

 青ざめている。

 無理もない。あれから六年しかたっていないのだ。元凶を前にして、平常心でいられる方が異常だ。

「味方だったら、彼ほど心強い男を俺は知らないよ」

「そう」とターシャは言って、考え込むような顔になった。

 その時、奥からカチャカチャと音がして、空がお茶を運んできた。

 優雅な手つきで皆に不思議な色のお茶を配ると、「どうぞ」と声をかける。

 誰も手をのばさない。

 よく飲まれる豆茶や蜜茶の色とは異なり、少し赤みがかった、不思議な色をしている。

「なにこれ」

 ガコがズバリ訊くと、「疲労回復にきくお茶だよ」と空は爽やかに答えた。

「俺は薬師だったからね。薬草には詳しいんだよ。本当に疲れが取れるから、飲んでごらんよ」

 笑顔で勧める空に、ガコですら、引いている。

「薬師だったから、毒にも詳しい」

 陽の言葉に、空は陽の顔を見た。

「どうして、俺がお前たちに毒を盛らなきゃなんないんだよ」

 陽も、空の視線を受け止めて、答えた。

「俺たちが、針森の『神の薬』に手を出したから」

「いや違うか」と言い直す。

「俺たちが、針森を危険にさらしているから」

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