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宵の姫君  作者: さら更紗
Ⅵ 断罪
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98/102

Ⅵ 断罪 ー4



「ガコ!」

 ターシャが声を上げると、宿屋の二階の窓から熱心に通りを見下ろしていた少年の顔が、ぱっと明るくなった。頭が消え、次の瞬間には宿屋の入り口から、少年が駆け出してきた。

「アン!」

 別れてからそんなにたってはいないのに、ターシャは懐かしさに胸が詰まった。ガコと共に行動していた時が、ひどく昔のように感じた。

 ガコはそれ以上のようで、ターシャにしがみつくと、「ひどいや」とぐずぐず泣き出した。

「僕を置いていくなんて」

 ターシャは切なくなって、ガコを抱きしめた。

 巻き込みたくないから置いていったのに、結局、また利用しようとしている。

 どう声をかけようかと悩み、「ガコ、ごめ…」と言いかけたとき、後ろから手が伸びてきて、ガコの襟をむんずとつかんだ。

「噓泣きもいい加減にしろ、ガコ」

「あ、この子、マルゴの子じゃん」

 ターシャが振り返ると、陽が不機嫌な顔でガコの襟首をつかみ上げ、昂(こう)は興味深そうにガコの顔を覗き込んでいる。

「ちょっと」

「やめて」と言う前に、陽に引っ張られたガコの口から、「ばれたか」という声が聞こえた。

 見ると、一つも涙は出ておらず、口元はニヤニヤと笑っている。

「ひどいなぁ、悲しかったのは本当だよ!」

 ガコがふたたびターシャに抱きつこうとするのを、陽が襟をつかんだまま離さないので、ガコはなんとか陽の手を振りほどこうともがいた。

「マルゴの子どもはそんなにやわじゃない、ターシャ」

 陽はちらりとターシャを見て、「また巻き込んじゃうとか、思ってるんだろうけど」と付け加えた。

「え、なになに。俺のこと?」

 ガコは耳ざとく聞きつけて、先ほどまでの演技を忘れたように、ターシャを見上げた。

 ターシャはガコの両側の頬を、自分の両手でぎゅっと挟んだ。ガコの顔が、くしゅっとつぶれる。

 ガコが驚いて、ターシャの両手をつかもうとした。

「ほんっとうに、大丈夫なの?」

 ターシャがガコの顔をつぶしたまま尋ねると、ガコはつぶれた顔のまま、ニッと笑った。

「らいひょーうらって」

 それからターシャの手を、自分の顔から引きはがした。

「陽も言っていたけど、俺はそんなにやわじゃねーよ。あんたたちがなんで俺を置いていったか分かったし、だから、さっさとドムから引きあげた。それに、アンが気を使ってくれても、他の奴が俺を使う気満々だしな」

 そう言って、ヒラリと一枚の小さな紙を出した。

「言われた通り、調べたぜ。神の薬に、興味を示したやつ」

「え?」

 身に覚えがないことを言われ、ターシャは眉を顰めた。

 すると、陽が口を開いた。

「それで?そいつらは話に乗りそうかい?」

 陽が淡々としゃべるのを、ターシャは唖然として聞いていた。

 ガコは難なく答える。

「いいや。やっぱり警戒してるね。出所を調べようと躍起になってる」

「だよな。じゃあ、うまく針森に集まってくれるかな」

「…いつから?」

 ターシャでもさすがに分かる。ターシャが知らない間に、陽は勝手にガコに何か頼んでいたのだ。しかもかなり重要なことだ。

「ドムを出る前の晩に。多分、ガコとは別れることになると思ったから、お願いしといた」

「わたしに言わなかったのは…」

「杏(あん)は嫌がるだろうと思ってね」

 公国に戻ってからは、またターシャの呼び名を杏にしている。

 ターシャは時が巻き戻ったような気がした。

「そうね、わたしは反対したでしょうね」

 ガコを置いていくことにも躊躇したのだ。ターシャはあっさり認めた。

 ガコを見れば、少し後ろめたそうな顔をしている。ターシャはその頭を撫でようとして、辞めた。子どもではないのだ。

「ありがとう、ガコ」

 ガコは「おう」と応えた。

「それで?誰がどこに集まるって?」

 急に違う声が割り込んできて、陽とガコの間に立った。ターシャの真横だ。

 陽がターシャの腕を引いて、自分の背にかばう。

 闖入者はガコを抱き上げた。

「まぁ、こんな通りの真ん中で話すことじゃないと思うよ」

 陽たちの緊張にまるで構わず男が言うと、昂は呑気にそれに応じた。

「そうだね。どこかいい所知ってる?空(くう)」

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